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2019年12月25日02:38

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新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」感想

【ネタバレ注意】
 新橋演舞場に、新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」を見に行きました。
漫画「風の谷のナウシカ」全7巻のストーリーをもとにした
歌舞伎。映画では描かれなかった、腐海が出来た理由や
シュワ墓所の秘密まで描かれています。
率直な感想として、「凄い!」「制作費いくらかかってるんだ!」
「ナウシカの世界観がぴたっと歌舞伎にはまってて
はまり過ぎて、ここまでどれだけ試行錯誤したんだ。
その試行錯誤を支えた役者・製作陣・スタッフ、音楽の
圧倒的な情熱の凄さ」を感じました。先人たちが
積み重ねてきたものの重厚さが歌舞伎の無限の可能性を
産み出しているんだなあとつくづく感じたのでした。
 昼の部3幕、夜の部4幕。
 午前11時に春の部が始まって、休憩等を挟んで
夜の部終演が20時40分。これほど長く、芝居を見たのは
初めての経験でした。

●僕にとっての漫画「風の谷のナウシカ」
 もともと僕は漫画をあまり読まない人間なんですが、
それでもこの漫画だけは全巻何回も繰り返して読みました。
アニメージュで連載されていた時、
センター試験直前に、連載の続きが発表され
この漫画を繰り返し読みすぎて
(ぷらす普段の実力のせいで)
大学受験のセンター試験の勉強がおろそかになり、
本番ケチョンケチョンな点数になってしまった思い出があります。
お気に入りのキャラクターは皇兄ナムリス。この漫画の中、
いやそれ以上に、あまり漫画を読みませんが、
僕が読んだ数々の漫画の中でも、一番思いいれのある
キャラです。
 比較的自由ですがナウシカも風の谷の族長という
宿命を背負っているし、クシャナもトルメキアの皇女という
宿命を背負っています。これに対してナムリスはドルクの
皇帝継承者の地位にありながら、それに縛られず、
それ以上に人としての常識に縛られず、
「戦う」事のみを生きる目的としているぶっ飛んだ
性格に魅了されました。アニメ映画には出てこない
このナムリスがどう描かれているのかが、この歌舞伎の
楽しみの一つでした。

●新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」感想。
 台詞の言い回し、所作、歌、舞踊、音楽、全て歌舞伎です。
スーパー歌舞伎のワンピースは歌舞伎役者ではない役者も
主要キャストの中に入って現代劇風な要素を少し感じましたが
この作品、子役以外は、主要キャストは全て歌舞伎役者。
それが見事にナウシカの世界観にはまるのだから、
恐るべし歌舞伎界です。
 音楽は、琴や和笛、笙、三味線等和楽器で演奏されて
います。久石譲さんが作ったアニメ映画の音楽はもとより
この歌舞伎のために製作された新しい曲まで
どんぴしゃにナウシカの世界観を引き立てているのに
驚きでした。
 衣裳は漫画で描かれていたものをベースにしながらも
各部族ごとの衣裳が細かく分かれていて、どれも
どこか和の要素を感じさせるものでした。
 舞台上には色とりどりのバミリが。このバミリを
もとに舞台装置を置くスタッフさんの大変さを
想像しました。
 次に美術。王蟲を代表とするムシたちや巨神兵などの
生物、腐海の植物、ガンシップなどが漫画やアニメに忠実に
再現されていて、そのクオリティの高さに思わず
「制作費、いくらかかってんだ!」と思わずにはいられま
せんでした。
 にしても、歌舞伎役者さんたちの身体能力の高さは
凄い。ナウシカ役としてメーヴェに乗る尾上菊之助さん、
「そこワイヤーないけど大丈夫なの」という心配をもろとも
しない乗りっぷり(先日の落下のためトリウマに乗る
場面はなくなっていました)、ユパ役の尾上松也さん、
アステベル役の尾上右近さんの殺陣、
怪我をしないか心配になるくらい身体を張ってました。
このドキドキ感が、漫画や映画では出せない
歌舞伎という生身の人間が演じるものの醍醐味だなあと
強烈に感じました。
(余談ですが、ロビーには菊之助さんのお母様・
富司純子さんがお着物でいらっしゃいました。
凄く凛々しいお姿でした)
 直虎クラスタとしては松也さんといえば
道化を演じられる策士・氏真ぼったまの印象が強いですが、
今回はそれを全く感じさせない腐海一の剣士に相応しい
存在感です。
 そして、この歌舞伎を見てネットに書き込んでいる人の中で
最大級に褒められている中村七之助さんが演じるクシャナ。
皇女としての高貴さと有能な軍司令官としての凛々しさ、
母の仇を討とうと直進する暴走する熱さが入り混じった
めっちゃ良い役でした。ネット上で賞賛されているのを
実感できました。
 で、脚本ですが、漫画とは少し変えられています。
その変えられて可愛そうだなあと思ったのがクロトワ。
漫画では有能なコルベット乗りという設定もありましたが、
コルベットのシーンは歌舞伎ではカットされていて、
アニメ映画通りの日和見の信頼おけない役のイメージで
終わるかな。と思い気や、クシャナの盾になる
芯の強さも披露してくれました。
 そんな中、なんと客いじりというサプライズもあり
ました。ユパ「そなた、どこの国から来たのじゃ?」
客「兵庫県伊丹市」ユパ「初めて聞く国じゃ」
場内爆笑。もちろん僕も爆笑。このライブ感も
生身の人間が演じる事の醍醐味。
 映画のラストは、歌舞伎昼の部の序幕のラスト。「金色の野」
に映える青き衣の菊之助ナウシカの美しさに
ちょっとうるっときてしまいました。
 宮崎駿が訴えたかったであろう、戦争の酷さ、
人間の愚かさもたっぷり盛り込まれてました。
奴隷として売られる敗戦国の民、戦のために
戻る故郷がなくなった民、民や国土の事を全く考えないで
戦に走る国王や、皇兄・皇弟・僧会・・・。
原作漫画を繰り返して読んだ10代の頃よりも
おそろしくリアリティを感じてしまいました。
それが今この作品をやる意義の一つとして
宮崎駿が歌舞伎化にOKを出した理由ではと
邪推したくなりました。
 さて、ナムリスです。僕がイメージしていたのは
ニヒルでシニカルな奴でしたが、歌舞伎では
戦いが大好きで人を殺すのも大好きで
それをやらずにはいられず血が煮えたぎっているような
キャラでした。こういうナムリスの方が
歌舞伎には合うなあと感じました。
 語り部役としての道化、面白い演出でした。
 
 さて客席の反応。新橋演舞場とあって、
僕よりご年配の方、お着物姿の方がたくさん
いらっしゃいまして、どう見ても
原作ファンというより歌舞伎ファンだなと。
昼の部、夜の部は
それぞれお客さんが違うので一概には
比較できませんが、映画の部分と被っていた昼の部が
夜の部よりも「音羽屋」「中村屋」などの
掛け声が多く聞かれました。それぞれ
見栄を切るシーンがたくさんあったのに。
映画とは違う物語の闇の部分(腐海が
出来た理由や、墓所がある意味)に
お客さんは着いてきているかちょっとだけ
心配になりはしましたが、それでも
お客さんたちは何とかついてきているようで
席を立つ人もいませんでした。

 そしてクライマックスのシュワ墓所での
ナウシカと墓所の主との対決シーン。
これぞ歌舞伎!歌舞伎の想像力と培ってきた
積み重ねが十二分に感じられる演出に
大人しかった夜の部のお客さんたちが
ヒートアップ。役者陣・製作陣の
歌舞伎への誇りと可能性をぶつけた演出と
歌舞伎好きのお客さんの要望が
ぴったり合ったのでしょうか。
ナウシカが死に行くオーマに愛情を語る
シーンはまたうるっときてしまいました。
 ちなみに王蟲の声に市川中車さん
(カマキリ先生ゆえにこのキャスティング?)
墓所の主の声に中村吉右衛門さんという
贅沢なキャスティング。
 
 繰り返しになりますが、本当に凄いものを
見たというのが率直な感想です。
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