許すまじコロナウイルス〜、バットシェバ舞踊団の来日公演が中止になったじゃないか! すごく良い席取れたのに! ホテルも予約したのに!
こんな中でも寄席は続く(除く国立演芸場)のね。末廣亭中席では徹夜組が出たらしい伯山披露目。youtubeの伯山TVがやたらよく出来ているので、もうマスク装備してビクビクしながら披露目観なくても、動画でいいじゃない?と出不精を決め込んでいたが、今後独演会がメインになるであろう伯山の、自分程度のファンが寄席で見られる最後の機会になるかも、という気がしてとにかく浅草へ。
朝8時に家を出て、整理券配布の開始時間10時に演芸ホール到着。すでにかなりの列が出来ていたが、演芸ホールのツイッターを見る限りでは、末廣亭ほどの混雑はないとわかっていたし、いくら朝が早いと云っても、お江戸日本橋亭の朝練講談会と比べたら全然余裕だ! 整理券を受け取って銀座線で渋谷へ。友人と文化村でソール・ライターの写真展を鑑賞。カフェでお茶して別れた後、また田原町へとんぼ返りすると4時半ちょうど、整理券順に並び始めたところだった。
演芸ホールは上手前列の席が好きだ。というのも、ここから演者が登場する下手側ソデがよく見えるのだ。ソデの引き戸は上半分ガラスなので、中に誰がいるかも結構よく見える。この日もジャージ姿の小痴楽や、スーツ姿の小助六が舞台を覗いていた。伯山TVは、一眼レフにマイクを取り付けただけの軽装備で撮影されていて、この日も番頭の希光が舞台と楽屋周りを撮影している姿が。中日で楽屋に人が多かったのかもしれないが、伯山も講談の最中に「・・・裏がうるさいんだけど」とボヤいていた。確かに終始楽屋の声、物音が舞台に漏れ聞こえていた。緞帳があがり、披露目の舞台幕はスタジオジブリの鈴木プロデューサーから贈られたもの。上手には演芸ホールの緞帳スポンサーでもある「金婚」の薦樽が置かれていた。
●前座 南太郎
小南のお弟子。「狸札」を札に化ける手前までぱぱぱっと急ぎ足。
●今いち「手紙は笑ふ」
「OL」の彼女へのラブレターの書き方を指南する男とそれを受ける男の小咄。以前後段(借金の件)を聞いた記憶があり、先代今輔作かと思っていたのだが、なんと金語楼の創作落語だそうだ。それよりなにより羽織なしで、袴にサスペンダーつけて登場したのに驚いた。今披露目では松之丞からご指名で番頭を仰せつかったとか。同じく番頭の鷹治、希光と交替。
●漫談 ねずっち
謎かけのお題を客から募ったら、「伯山TV」と出た。披露目に来てる人、毎日動画見てる前提なのね。
●鯉八「ぼくの兄さん」
日替わり登場の成金枠。翌日の伯山TVで「今日は封印解くかも」などと思わせぶりなことを云っていたが、この日の伯山演目は「グレーゾーン」ではなかった。既に末廣亭でやっていたようだし。
●夢丸「豊竹屋」
今日のラインナップは、客に現在の芸協の面白さを知ってもらうには、とても良いバランスの布陣ではあるまいか。「稽古屋」といい、この系統の噺が合う人で大ウケ。小助六と交替
●バイオリン漫談 マグナム小林
バイオリン弾きながらタップ踏むことが最大限に生かされるのって、「暴れん坊将軍」のときだけではなかろうか。
●圓馬「つる」
「つる」をこれほど笑える噺に出来るとは。圓馬のポテンシャルはいつもながら高い。米福と交替。
●紫「井伊直人出世物語」
「テレビに出ては、ホントに好き放題言っている。私たちのころはテレビに出ても、あんなに言いたいことは云えなかった」と六代目について。伊達家の剣術指南役ながらふがいない井伊直人と、それをやりこめる薙刀の達人の妻の物語。陽子と交替
●昇太「権助魚」
爆発的人気の伯山をもっとディスるかと思ったが、そこは会長になったから・・・。
<中入り>
●口上
舞台幕が伯山の母校・武蔵大学同窓会から贈られたものに替えられた。
左手から司会の圓馬、師匠・松鯉、伯山、副会長柳橋、客分の円楽、会長・昇太
浅草の初日口上で司会の米福が円楽の挨拶を飛ばしてしまった様子が、早速伯山TVで報じられていたが、腹黒キャラ全開の円楽がそれに触れては圓馬が平謝り。ついには「ウチの伊集院光が松之丞を・・・」と何やら言いかけて、中央で真顔だった伯山が少々狼狽えていた。「円楽師匠は伯山くんのことを云いながら、結局自分の話にもっていく」と昇太が云っていたが、確かにその通り。最近岡田准一が講談師の風体でCMに出てくるが、あれは松之丞効果だと昇太。全然気づかなかったけど、云われてみればそうだね。
●柳橋「魚根問」
羽織を替えて慌てて登場。この噺や「八問答」などを聞くと、芸協らしいなあと思う。文治、遊雀と交替。
●円楽
圓生、志ん朝、先代円楽、小三治、小遊三、談志の高座へ上がる姿の形態模写を出囃子と共に。
●松鯉「谷風情け相撲」
伯山TVでは、毎日本当に嬉しそうな松鯉先生。今一番気になるのは、貴景勝の今後だそうだが、弟子の今後はもう盤石ということか。
●太神楽 ボンボンブラザース
このところゆうじろう先生?がジャグリングのクラブトスをミスる場面を目にしたことがあり、妙に緊張しながら見ていた。ノーミスでした。
●松之丞改め伯山「鼠小僧次郎吉伝 汐留の蜆売り」
登場するや満場の喝采。「ろくだいめ!」の掛け声も。コロナウイルスで多くのイベントが中止に追い込まれる事情に触れ、「正直池袋はやりたくない・・・だってあそこ客席がすぐそこで・・・感染るでしょ」というか、池袋入れ替えなしだからね。その方針自体は正しいと思うのだが、あの狭苦しい空間に8時間ほども詰め込まれるって、それが恐怖だわ!ほかにはあまりにぶっちゃけすぎな円楽の口上に苦言を呈したりしてはいたが、やはり大人しめ、というか時間も限られているので閑話はそこそこに。
「蜆売り」は落語にもなっていて、志の輔や正蔵がよく演じている。
馴染みの船宿でくつろぐ和泉屋次郎吉、実は義賊・鼠小僧次郎吉が、ふとしたきっかけで病気の母と姉のために健気に蜆を売り歩く少年と知り合う。しかしその身の上話を聞くうちに、少年の不幸の元凶が、3年前に己が人助けのつもりで施した金だったということに気づき・・・という物語。「万両婿」(小間物屋政談)のような、善意のつもりで施したことがあだになるという展開。伯山云うところ「二日前が最高の出来だった」そうだが、今日も次郎吉、子供、女将、船頭を演じ分けての大熱演だった。この人子供とか女性(老女)を演じるときはイキイキしている。
師匠の松鯉が口上で「(入門した時は)猫背で暗い青年だった」と云っていた。自分が初めてこの人の高座を見たのは東日本大震災後の広小路亭定席だったと記憶している。世の中が薄暗くなっていた当時の雰囲気をまとった塩梅で、確かに猫背で暗かったが、確実に巧かった。
その後二つ目になり、暗い青年が一変してどんな出番でも大熱演。時には勢い余って張り扇を客席に飛ばし、時には座布団をびしょ濡れにし、汗を飛ばして読む姿に、何かの隙に仄見える性格の暗さ悪さも「まあ才能あるから仕方ないか・・・」と許せるほどになって現在に至っているということ。
この披露目、最後に緞帳が下りた後もカーテンコール、果てはスタンディングオベイションまであるという、若干引いちゃうくらいのファンの反応なのだが、本人それに酔っている気配無さそうなので、いずれにしても今後どのくらい伸びていくのか、見届けたくてももうチケットが手に入らなくっていっぱいいっぱい・・・自分は動画チェックする程度のライトファンにいい加減戻ろうと思う。
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