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mixiユーザー(id:9160185)

2019年12月08日22:16

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妙に冷めた口をきくやつらばかりだ


首長竜の頸椎の隙間から零れ落ちたアナコンダが、寝床でのた打ち回る俺を飲み込もうと目を黄色くしている、集中しているやつの口から小さな呼吸音が漏れているのが聞こえる、最期の瞬間に人は何を思うのだろうと常日頃考えていたが、そのとき頭に飛来したものは取り立てて語るほどの価値もないような当り前の内容だった、だから俺は黙って横になっていた、蛇のやつから見ればただ眠っているだけに見えたかもしれない、その気になればいつでも口を大きく開けて俺を飲み込むことが出来るはずなのに、どういうわけかそいつは俺の足元でじっとしていた、呼吸の質が変わった、と俺は感じた、それはもう生きるために獲物を狙う生きものの本能的な呼吸ではなかった、俺は身体を起こし、そいつと見つめ合った、そいつは顔の両脇についた目で俺のことをじっと見ていた、あの目には俺の姿はどんなふうに見えているのだろう、俺はぼんやりとそんなことを考えた、それから、何かを言わなければいけないのかと思った、巨大な蛇の興味を引くようなフレーズなんて何も思いつかなかった、「ここは密林じゃない」悩んだ結果口にしたのはそんな言葉だった、「密林じゃないんだ」、おかしいな、と口にしながら考えた、こんなとてつもない大蛇がとぐろを巻けるようなスペースは俺の部屋にはない、といって、夢だと言い切れるほど俺はまどろんでもいない、いったいどういう状態なんだ?目を凝らしてみたけれど大蛇の背後は不自然な暗闇に包まれていて、本来そのあたりに在るはずのドアは見つけることが出来なかった、なにか、現実的ではない力が働いているのだ、それが大蛇のせいなのか、あるいは大蛇自身が俺の中にある何かしらの血管から生まれてきたものなのか、しばらく考えてみたがどれもとりとめのないものだった、問題なのは、それは経験や知識、あるいは直観によってなんとかなる状況ではないということだった、そりゃそうだ、「生きようとしないものの肉はつまらない」大蛇は数十年も経を読み続けた僧侶のような声でそう言った、そして、答えを求めるように俺の顔をじっと見た、俺は肩をすくめて「たいした問題じゃない」「食われなくてラッキーだと俺は思うだけだよ」大蛇は首を横に振る、「肉がつまらないということは心がつまらないということだよ」、俺は仏頂面を作って見せる、「あんたはそんなに腹が減ってないんだよ」「空腹ならどんなものでも食うだろ」、蛇はチロリと一瞬舌を覗かせる、「舐めてもらっちゃ困る」「生きているものを食うというのはそんなに単純なことではない」「お前だって本当はわかっているのだろう、俺が何を言っているのか」「俺は野性の生きものじゃない」「自分の肉がつまらないだろうことだって十分理解している」「ただそれでも生きて行こうとするのが人間という生きものだってことさ」「嘆かわしいな」大蛇の言葉に俺はまた肩をすくめる、「俺たちはずいぶん昔に本能を持った生きものだということを忘れてしまった」「それを強く忘れてしまったやつほど暴走して、下らない事をして生きる」「それがあんたの言う生きるってことなら、俺はそんなものに興味はないよ」「興味がない?」「生きてなくて構わないということさ、つまらない肉で結構だ、と」大蛇は初めて困惑した表情を浮かべた、「お前は少し変わっている」「よく言われるよ、自覚もしている」「お前みたいなものが生きるのは難しくないか?」「難しいね」「でもたいした問題じゃない」「それは口癖なのか?」「俺にとっては世界はそういうものだよってことだ」「そしてたいした問題は俺のことなんか相手にしない」、大蛇はまた首を横に振った、「頭痛がしてきたよ」無理もない、と俺は労った、「俺は生きているものを食ったこともないからね」「あんたに伝わるような話が出来るとは思えない」、ふう、と、大蛇は諦めたようにため息をついた、「俺はお前にこう聞こうと思った、わかりあえないことに慣れているのか、と」「でもお前はどうせ、そんなことは大した問題じゃない、って答えるんだよな?」、俺は頷いた、やれやれ、と大蛇は呟いて天を仰いだ、「もう帰るよ」「寝てる邪魔をして悪かったな」、俺はひらひらと手を振って見せた、大蛇は少しだけ目を細めて答え、身を翻して暗闇の中へと這い込んで行った、その姿がすっかり見えなくなると、暗闇は消え失せ、いつもの寝室の景色が戻ってきた、カーペットはしばらくの間強い力で引っ張られたみたいにずれて、そしてしっとりと濡れているように見えたが、俺が大欠伸をして再び横になるころにはすっかり元に戻っていた、そうして、つまらない肉であるこの俺は大蛇の胃袋の住人にならずに済んだのだ。


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