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2020年03月08日04:37

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リアルタイムじゃなくて、逆転写な。

間違い探しではないが、リアルタイムPCRとRT−PCRは違う。
念のため、私はバイオ系の研究者ではない、ただの技術屋のおっさんなので、誤りがあるかもしれない。専門家の方がご指摘いただけるなら歓迎する。

コロナウイルスはRNAウイルスなので、持っている遺伝子情報は1本鎖のRNA。
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で増幅(数を増やすこと)ができるのは2本鎖のDNAのみ。PCRはDNA合成に関わる酵素ポリメラーゼとDNA/RNAの材料をもとになるDNAと一緒にして、温度を正確に上げ下げする。温度が上がるとDNAはほどけ、温度が下がるときにポリメラーゼが働いてほどけた遺伝情報に対して材料がくっついていき、2本のDNAができる。これを繰り返して倍々ゲームのようにDNAを増やす。
RNAからだとこの技術はつかえないので、いったん逆転写酵素を使ってDNAに組み込んでやるのが「逆転写PCR」である(なぜ使えないか、は私にはまだ理解できていない)。

リアルタイムPCRは研究機関・企業などでは「r−PCR」と書くことが多いようだ。
これはPCRの時間短縮技術、と考えればだいたいあってるはずだ。

コロナウイルスはいろいろ電子顕微鏡写真・図も出ているが、丸い形で、まわりに突起が出ている。中には遺伝子であるRNAが入っている。丸い形は宿主の細胞膜由来の脂質(脂質2重層)でできている。まわりに生えている突起の中で、融合たんぱく質と呼ばれるものの働きで宿主の細胞膜とウイルスのエンベロープが融合することでウイルスRNAが細胞内に入り、感染となる。
参照>http://jsv.umin.jp/journal/v59-2pdf/virus59-2_205-214.pdf
もちろん、まだ分かっていないことも多いようだし、この論文はHIVに関する知見が元になっているので、コロナウイルスの場合は別の過程があるかもしれない。

「まわりに生えている」ものだが、これの一部は免疫でいうところの抗原である。そのウイルスに特有の抗原があり、結合できる抗体があるなら、検査はそれを見つければいいことになる。
が、コロナウイルスは本当に「どこにでもいる」ウイルスの一種で、発熱を伴わない普通の風邪の病原体のひとつでもある。今回のSARS−CoV−2ではまだ「特有の抗原」は見つかっていないので、抗原・抗体反応での検査が「まだ」できない。
だからこそ、中身のRNAを調べる必要があるのだが、そのためには次のような手順が必要だ。
・検体からRNAを抽出する前に逆転写用のRNAなどの試薬を調整・検体と混ぜる
・エタノールを加えてエンベロープを破壊し、検体からのRNAを取り出す
・遠心分離して検体由来のRNAが含まれている部分を取り出す
・逆転写操作を行う
・DNAになったものをPCRで増幅する。温度を正確に上げ下げしなければならず、40回×2繰り返すので、時間がかかる(合計4時間程度)
・増えたDNAを電気的に引っ張って分ける(アガロースゲルを使った電気泳動)
・ゲル中にできた帯(バンド)を調べて陽性かどうか判断する
参照>https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/2019-nCoV20200225.pdf
これらの手順、最後の判断段階以外ではほとんどすべてのRNAウイルスのRNA(逆転写されたDNA)をなんでもかんでも増幅してしまう。「無関係のウイルス」がまじっていれば判別はしにくくなる。途中の段階でなんらかのミスが起きるかもしれない。
検体が正しくウイルスを捕まえてきたかどうかは、検査した医師の手腕はもちろん、そこにウイルスがいるかどうかという「患者の状態」によっても不明確になる。

アメリカのCDCなどが出している検査方法は感染研のものより短い時間でできるようだが、どれだけの正確性があるかは不明だ。米CDCも2月末の時点では、アメリカ全土で500件ほどの検査しかできておらず日本よりはるかに少ない。

日本には病原性ウイルスの検査を扱える施設は多くない。BSL(バイオセーフティレベル)という厳しい区分けがあるからだ。
COVID−19と診断される患者からとった検体を扱えるのはBSL−3以上に限られ、日本には民間を含めても14カ所しかない。BSL−4は感染研の戸山庁舎1カ所だけだ。
BSL−3以上でもすべての施設にRT−PCR検査ができる設備があるとは限らない。必要な薬品が揃っているとも限らない。
北海道で1日3件ぐらいしか検査ができなかったのは、PCRに使う機器(サーマルサイクラーなど)が足りなかったからだと推測可能だ。

以上のように、SARS−CoV−2検査は簡単にできるものではない。時間も設備も人手(熟練者)も必要だ。感染研などはフル稼働しているだろうが、それでも「誰でもいつでもお望み通り」検査ができる状態ではない。
お隣の国などの例を見てもわかるとおり、誰でも検査します!なんて言ったら医療体制そのものが崩壊する。検査中(現時点では2日ぐらい)は入院させなければならないので、病院のベッドが足りなくなる。絶対にやってはいけない。

感染研では「感染疑い」の検体をBSL−2で扱える、と規則を改正した。が、BSL−2の研究室でRT−PCRができる研究室・施設がどれだけあるだろうか?
私もBSL−2の研究室に出入りはしているが、そこでは無害な細菌(表皮常在菌など)しか扱っていないし、PCRの設備もない(同じ建物の中でPCRを研究している研究室はあるが、大学なので当然、本業の研究が優先される)。

民間に補助金出すぞ!と言っても、PCR用の器材・薬品を購入する分だけだろうし、BSL−3を取得するのは簡単ではない。感染症法などに従って申請し、厚労省が認可しているはずだ。
そのへんもしっかりやらないと、なかなかうまくいかないんじゃなかろうか・・・

民間会社にも検査機器購入補助 政府調整 停滞解消狙う 新型コロナ
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=2&from=diary&id=6000765
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