まずは最初に３万円買った。その後なんとなく１万円買い足した。そして、何か物凄く気になったから最後にその「2-3」にもう一度１万円追加で買い増しした。
「 ボーナスだから収益が上がった時だけ出せばいいんじゃないの ？」
「 そういうわけにはいかないんだよ、みんな期待してるんだから。 」
おそらく経営はかなり苦しかった状態にあったと思う。社長は賭けに出た。
当時、社員が２７人位いるけれども賞与をは払うお金がない。それで仕方なく競馬で当てて払おうという話なのだ。 その結果、２８０万円位になって、一人に１０万円ずつ払う事ができたらしい。
「 とにかく神憑りだった 」と語った。
社員の期待に応えることの出来たことがとにかく一番嬉しかった。
つまり社長としての責任が果たせたと父は主張するけれども、実際は最後まで自分という人間に投資してくれた人々に、�� 配当 �瓩鯏呂垢海箸�ようやく出来たという達成感なのではないか。と息子の私には感じられた。
「 工場のエンジニアで社長、車やバイクを製造する機械を作っていた。車やバイクを作っていたのではなく、それを作る�� 機械 �瓩鮑遒辰討い� 。」と父親の生前の仕事としてお坊さんに伝えた。そして、本田技研やブリジストンといった大企業から�� 直接 �畆�注していたということも伝えた。戒名に反映されるはずもない詳細も、過去に聴いた話通りに忠実に伝えた。実際に私が知るのは競馬に興じ、タクシーの運転手をしている姿だけだ。
「 ３０人やそこらの小さな会社で、普通は下請けの下請けくらいしか仕事もらえないのに、直接仕事とってくるってのは異例中の異例なんだよ。そんな小さな工場がね。 」と誇らしげに話した。何百万円もする優秀な機械を持ってて、他に認めてもらえる設備を有していたとも。昭和３２年(２５年頃の間違いか) 頃は朝鮮戦争が始まって特需景気でえらい儲かったのだという。思い切りよくビジネスを展開した結果だ。儲かったお金で設備にどんどん設備をよくしていった。他が設備投資に躊躇する中、さらに 《 いけいけドンドン 》でやった。
家系においてのバブルな時代と氷河期の時代の間には一体家計に何があったのかは今でもよく分からない。いくら真剣に聴いても、所々抜けていて現在まで繋がっていないのだ。息子としてあまり踏み込んでこなかった謎の部分に踏み込もうと意を決してインタビューのお願いをした時、
「 そんなの話しても意味ないし、話したくない 」と速攻で取材拒否をされた。あまり自分のことに立ち入られたくないのか。お前なんかに話してもしょうがないと諦められているのか。それが父親というものなのかもしれない。しかし、気が向いたのか、２、３年に一度話してくれる昔の事業武勇伝は突然始まった。良いことしか言わない。少しでも都合悪いことは忘れる。
でもその日はなんだか違った。
「 やっぱりHONDAとかそういう大きなところに頼りきっちゃったのが失敗の基なんだよ（中略）結局、上手く使われちゃったんだよな。夜の夜中まで働かされて。 」
作っただけ売れる時期もあったが、ある大きな設備投資が原因となり会社は大損した。
父の聴きなれぬ弱気な口調を嫌い、私がいつもの調子の良い展開に話の流れを変えようとした。
ーそれでも良い時期があったのではないか。
「 それはまぁ あったけどな。そんな波乱万丈の話をしたって何もない。 」
やっぱり今日は構えて受け答えていることが分かった。小さな会社だが凄い設備であることをもう一度繰り返した後に、少し考えた様子から語り始めた。
「 おれの親父も金持ちだったからな 」と会社のもともとのルーツを息子はその時初めて聴いた。
「 もともと親父が軍需工場で飛行機の部品を作ってたんだよ。小さな部品でもって大きな会社の仕事を回してもらったりしてたんだよ。(中略)工場なんか色々あったから、それを貸してもらって、それでもって金もうけて俺が買い取ったんだ。」
「 親に援助してもらったことは事実だ 。」
父親は自身の父親に手伝ってもらって工場を建てたと認めつつ、自分が一代で築いてる部分もあるのだという含みとして感じられた。言い訳してるような口ぶりにも聴こえたが、それが �� 誰に �瓩�は不明だった。
当時、家にはいつも誰もいなかった。母は夕食の時間に合わせて休憩時間をとり、飛んで帰ってきて私の夕食を作り、また飛んで仕事に戻る。
「あまりお父さんに 『いくら勝ったの？』 とか訊かないで」と、息子を諭した。パートを掛け持ちで必死に働いていた母だった。生真面目な母を見て育った私は、父親のギャンブルのことをただ「悪」と思っていた。生活をグチャグチャにさせていると。
それでも父が少しでも嬉しそうに帰ってくるとつい、口をついて出てしまう。
「いくら勝ったの？」
「少しだけな」とそのまま二段ベッドの下の段に潜っていく。
たまにもらえるボーナスのようなお小遣いは小学生の私にはもちろん嬉しかったが、それ以上にその時の父の嬉しそうな顔が好きだった。
きっと勝った帰りは、社長時代の自身が認める本来のオーラを放ちながらの堂々とした家路だったに違いない。それで言うと息子の知る父親の大半の姿は、本人にとっては、本来のものとは違う、別の何者かであった。
「 やりたくてやったわけじゃない 」 そう言いつつ、父はタクシー運転手を８０歳まで実に三十年も続けた。リタイア後に急に父の足腰は弱くなり、近くのコンビニに新聞を買いに歩いて行くのがやっとという風に変わった。それでも父親が競馬に行くのやめることはなかった。タクシーを呼び寄せ、馬券を週一で買いに行っていた。入院する直前まで競馬に行っていた。ここ一年で昔と違うのは、勝っても負けても必ず寿司を買ってきていた。私は賭け事はやらないが、親父の気持ちが今では少しだがわかる気がする。
最後の最後まで儲けようとした。男は�猜�け前を与える�瓩箸い�自分が好きな 浪漫 に生きた。
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