指揮:ヘンリク・シェーファー
演出:矢内原美邦
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団
出演
ヴィオレッタ エカテリーナ・バカノヴァ
アルフレード 宮里直樹
ジェルモン 三浦克次
フローラ 醍醐園佳
アンニーナ 森山京子
ドゥフォール男爵 三戸大久
久しぶりに聴くのを楽しみにしていたメイ様のヴィオレッタ。体調不良と言うことでキャンセルで残念。まあいろいろと騒がしいことになっているし、たぶんこの演出だと合わないので逆によかったかもしれない。アダルジーザでの来日を楽しみに待ちたい。
代役のバカノヴァはロシアのソプラノということ。年齢は30代半ばぐらいだろうか。まったく知らなかったが、なかなかいいヴィオレッタで代役としては十分以上。声質は芯のあるリリコで強い声もある。ネットで調べたらジルダやルチアも歌っているようで、技巧もある。ヴィオレッタには、もってこいの声質。
ただ、1幕は大きなホールに声を合わせるのに苦労していたようで、Sempre liberaも高音の前にちょっともたついていて、最後の超高音は上げなかった。
2幕からは落ち着いて歌っていて、声も3階席までよく通るようになった。二重唱は、ジャルモンがよければもっと感動しただろう。3幕のAddio, del passatoの繰り返しがなかったのが残念だが、それでも声と表現がうまくシンクロしていてよかった。歌い方が丁寧なのが○。ヴィジュアルもいいし、将来的にはドニゼッティの女王物なんかいいだろうな。
なにかと不安だったと思うが、しっかりと勤めを果たしてくれた。観客も健闘を讃えて大ブラヴァー。こっちもまた来てねブラヴァーしておいた。
アルフレードの宮里は前にピンカートンでその声に驚いたが、大ホールに響き渡る美声はたいしたもの。体型も似てるし、日本のパバロッティのキャッチで売り出したらどうだろうか(本人はいやかもしれないけど)。声に頼るだけではない精緻な表現がどこまでできるかだが、まあ今後が楽しみなのは間違いない。
ジェルモンの三浦はもう大ベテランだろう。昔から藤原でいろいろ聴いていて、震災の年に神様が振った、セヴィリアでのバルトロはよかった記憶。ただ、そろそろ厳しいかもしれない。無理に声出してる感があって、どうしても大味になる。ドゥフォールに次世代エースの三戸がいたんで、役を変えたらよかったのに。まあ、いろいろ大人の事情があるのだろう。
指揮者はベルリン・フィルでヴィオラを弾いていたとのこと。イタオペっぽくない指揮だが、神経の行き届いた丁寧な指揮で悪くなかった。ホール形式なのでバランスとるのが難しかったらしく、ゲルギみたいに直前まで客を入れずにリハしてた。それが功を奏したようで、オケと歌手・合唱のバランスがよく取れてた。今度新国で呼んだらどうだろう。
さて演出(以下かなり恣意的で勝手な感想です)。
このプロジェクト、今まで邪馬台トスカ(須賀ルピオの三戸はよかったな)や、変な日本語でのダンス・ジョバンニなど、かなり変わったアプローチをするのが特色。まあそれぞれ文句を言いながらも実は楽しんでいたが、今回は楽しむ前になんだかよくわからなかった。
演出家がダンスの振り付けが専門ということで、ダンスと演劇とオペラの融合を目指したようだが、はっきりいって中途半端。プログラムによるとヴィオレッタと社会との関係を描いたということだが、コンセプトはわかるけど、その目的に至るための手段がわからない。
合唱団が持っているスマホや、2幕のアルフレードのアリアの時にヴィオレッタがテレビ・ゲームをしていることでそれを表現しているようだが、はっきり言ってコンヴィチュニーのモノマネの域をでない。2幕後半では、身体的な訓練が出来ていない合唱団とダンサーをごちゃ混ぜにしてるんで、上から見てると完全にごった煮状態。客は1階席だけではない。
3幕では下手の床の上でヴィオレッタを延々と歌わせていて、これでは歌手が可哀想。二重唱でアルフレードがヴィオレッタに近づけないということで、生と死の世界の乖離を現そうとしているんだろうけど、その距離感覚が上から見てるとなんとも中途半端で効果がない。
やっと最後にヴィオレッタが中央に来て、光が当たって昇天していくということなんだろうが、なんでまたゾンビのように立ち上がらせるんだろう。幕がないので仕方がない処理なのかもしれないが、これで幕切れの意味がわからなくなる。まあヴィオレッタがゾンビになったということならそれでもいいけど、唐突でちょっと理解不能、理解はできても納得できない(こんなことを書き連ねると延々と書きそうなのでやめます)。
カテコで3階席からブーも仕方がないだろう。お約束ということで、こっちも小声で参戦(最近やってないのでうまくいかなかった、昔はうまかったのに…)。
まあ厳しい条件で苦労してるのはわかるけど、もう少しどうにかなるんじゃないだろうか。たぶんこれより少ない予算なのにもっとセンスのいい演出なんか、他にいくらでもある。
とにかく、いつも文句言ってるオペラの演出が、いかに大変なことなのかはよくわかっていい勉強になった。どれほどの社会と歴史に対する認識が必要なのだろうか…。その意味では感謝したい。
次回はどうなるのだろう。こうなるともう怖い物見たさで逆に楽しみ。
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