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2019年11月27日08:48

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男性不妊を描いた映画

「ヒキタさんご懐妊ですよ」原作あり。

映画見ながら大笑いしてしまったのは久しぶり。
大笑いだけでなく「あーそれは…」「うわー、そうきたか」とかずいぶん口に出たよ。

「妊活」は患者さんにとっては人生の一時期のことだけど、
ワシのような不妊症の世界に関わっている医療者にとっては
「日常」なのだ。
医者仲間には「自分が毎日やっていることを映画(とか漫画とか)で見て何がおもしろい」と
言うお方もいるけれど、ワシはおもしろいと思う。
おもしろいというか、ああやっぱりそうなんだな、と自分の医療を再確認できる。

この映画の医療アドバイザーは慶応大学系の不妊症専門の方々のようだ。
大学の系統は不妊症の世界ではあまり関係がない。
日進月歩の最先端なので「ウチの大学はこのやり方」とか言っていると
とんでもなく遅れた場所に置いて行かれるからだ。
その意味で、どうしても学閥というか、手術のやり方なんかでケンカしやすい外科系で、
不妊症の世界はみんな共通で平等でどこのお方とも遠慮のない本音の話ができる。
学問的にはいい世界だと思う。

で、映画の内容ですが、シロウトさんでも笑えると思います。
基礎体温でタイミングやってみたけど妊娠できないで、人工授精を始めるとき
「人工授精」と聞いたヒキタさん本人の頭の上に
「試験管に小さい赤ん坊が入っている」絵が浮かんだのがまず笑えた。
不妊治療で「人工なんとか」と聞くと「試験管ベビー」が浮かんでしまう、という
アリがちな大間違い。
(そもそも試験管ベビーって言葉が変だ、なんでそんな言い方ができたやら?)
ヒキタさん自身が理解したあと、編集者(ヒキタさんは人気小説家)に話すのだが
ふたりの編集者の頭の上にやはり「試験管に入った赤ん坊」が浮かび、
しかもひとりのほうはすぐに消えるがもうひとりはかなりその絵が残る。
なかなか理解できない、というか「なんか不思議な手品みたいな」という
不妊治療の実態をぜんぜん知らないお方にアリがち。

この編集者はすでにふたりの子がいるが、ヒキタさんががんばっている間に
「避妊してた」のに妻が妊娠し、「ちゃんとしてた」のに愛人も妊娠する。
このときヒキタさんの頭に浮かぶのが国会みたいな会議場のシーン。
大臣の方々が質問に答えているわけですが、この編集者(濱田岳)は
「受精大臣」という肩書の札がある机にいて、
「意識的に受精しようとしたという記憶は一切ございません」と答えている。
ヒキタさんも大臣のひとりなのだが肩書はなんと「駄目金玉大臣」。
「だめきんたまだいじん」と呼ばれて立ち上がるが、周囲からくすくす笑いが漏れる。

笑えるシーンだけどなんか、気の毒だよね。
男性不妊にはほとんど治療がない。
精子が通るクダが詰まっているとかなら手術するけど、
加齢による劣化、運動精子減少、には対策がない。
医学でできないことは「人を死なないようにする」「人を若くする」のふたつだから。
ちなみに映画の最初に出てくるヒキタさんの精子は「運動率20%」で
自然妊娠はほぼ無理レベル。

ヒキタさんはがんばる。
ネットで調べていいと書いてあったことは全部やる。
禁酒禁サウナ。ももを食べる墓参りに行く妊婦が握ったおにぎりを食べる。
部屋にざくろの写真を張る寝室にオレンジ色のものをおく。
そしてやっと妊娠成立、でも流産する…。

そりゃなぁ、奥さんも34くらいだしなぁ。
妊娠したら100%絶対無事に分娩までいくと限らないわなぁ。

でもめげない。どうしても子供がほしい。
顕微授精に挑戦だ!
これは体外受精において、卵子に精子をふりかけて受精卵を作るのでなく、
精子をとっつかまえて卵子の中に押し込んで「無理に受精させる」やりかた。
精子があまり良質でないときに卵子に入る手間をはぶいて受精しやすくするのだ。
ただしこのやり方だと「動かない捕まえやすい」精子を使うので、
卵子に押し込んでやっても受精しないことがある。
で、一回目の顕微授精は11個も卵子がとれたのに、受精卵はできなかった。

体外受精のための採卵は麻酔もするけど、
全く痛くないというわけではない。
最初に排卵誘発をかけるので卵巣が腫れ上がっておなかが苦しいし、
たくさんの卵子から出るホルモンで体調も決していいとは言えない。
採卵後に急激に腹水がたまる「卵巣過剰刺激症候群」もありえる。
簡単なお手軽な治療ではないの。
ヒキタさんも料金表をみて驚いてたけど、1回30万から50万かかるし。
…妊娠しないときは返金される、ことはありません。

でもめげない、2回目に挑戦。
今回は1個しか卵子がとれなかった。
「どうぞ受精卵になりますように」とクリニック前でふたりが拝む。
そして無事にたった一個の受精卵ができて、無事に着床妊娠する。

このシーンの受精卵の卵割(卵子の細胞分裂)もものすごくリアルだけど、
精子分析時のパソコンの画像はホンモノの「運動率の悪い精子」だし
映画の中身はかなり質の高い「不妊症治療を受ける方々のため」の説明になっている。
最初にかかった「普通の開業医だけど不妊もみてます」みたいなクリニックで
精子みてもらうとき、家でとってレジ袋みたいなのにいれてそのままもってきて、
「ああー、精子冷えたら中身死ぬ」とやきもきしたけど、
その後の不妊症専門クリニックでちゃんと指摘されてた。

気の毒なシーンもある。
流産しちゃって、ヒキタさんもその夜泣いちゃうんだけど「またがんばろ」と言う奥さんも、
その後ひとりで外で泣いてる。
精子が悪くて妊娠しないのは事実だけどヒキタさんにはどうにもならない。
クリニックの廊下で奥さんの検査を待ちながら、
「このダメ金玉!」と自分の股を何度も殴る。
クリニックの主治医(男性です)が止める。
「何かできないんですが?金玉に直接注射とかないんですか?どんな痛くてもやります」
と言う姿が本当に悲惨だ。

最後に無事に妊娠できて赤ちゃんも今回は無事に安定期までいったようで、
「よかったよかった」で映画は終わる。
でも分娩までまだ何あるかわからないよ。

そして「全不妊症患者のうち妊娠できるのは3割」という
不妊症治療の歴史はじまって以来の数字が変化してないことも、忘れてはいけない。
治療をうけて誰でも必ずいつか妊娠できる、わけではない。
そういうとき、養子縁組なんかも考えたらいいよ、と映画パンフにちゃんと書いてあった


■「男性不妊」を描いた連載記事が完結
(妊活・卵活ニュース - 11月26日 14:11)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=198&from=diary&id=5879004
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