「初めてなんです
」
この声の主が高校2年の女子ならば、
「安心してボクに任せておきな」と、優しく手を握りエスコートもやぶさかではないが、どう見ても同年代。しかも、同性。つまり、おやじ。←
センター列通路側G席に着席していたおいらを乗り越えて、真ん中の席EとFを右往左往。
「Fは?」
「あっち側だよ」と嘘ついて、隣を空けておきたかったが、あとからEが来たら面倒くさい。おいらの隣がFだと教えてあげた。
正直者である。
さて、間もなく離陸
シートベルトを締めようかと右側のオスを取って、左側のメスを手探った
むっ、メスが見つからない。
隣のおっさんが、これだろ、とばかりF席のオスを渡してきた。
こらこら、初心者なおっさん。
これでは、あれだよ。オスとオスだよ。
おっさんのベルトを見ると、オレのG席のメスと空席のE席のオスをクリッピングしてベルトを締めてるやんけ。
オーバー・ザ・レインボーか。
自分のF席のオス・メスがまったく使われてないのが判明して、震える手でベルトを着脱し、おいらにメスを渡す。
「初めてなんです
」
某協会の全国大会があって、持ち回りの開催地、今年は沖縄。
嫌で嫌で仕方がないのだが、それなりの要職に就いてしまい、県代表で参加する。
「飛行機は安全だからと諭されてきたけど、こんなに重いものが飛ぶわけない。」(←すでに飛んでる
)と、青ざめた顔で語ってくる。
1週間前からよく眠れてないそうで、目の下には隈堅固。消えそうもないほど薄黒い。
「慣れるために短い旅行とかは行かないのですか?」
「陸路で行けるなら全て陸路にするので、怖い思いしてまで練習はしません。」
言うまでもないが海外渡航もゼロ。
新婚当時に同情してくれていた奥さんは、もう数年前からご主人(←隣おやじ)を置きっぱにして海外旅行へ出掛けているそうだ。
「船は?」
「たぶんダメだと思います。というより、取り立てて出掛けたいとも思わない」
こういう方ほど陸地では高級外車を乗り回してるんだろうな。なんとなく、そんなオーラ。
この辺で会話が途絶えて、おいらは三遊亭小円楽の落語にイヤホンを挿した。
「あっ、音楽とか聴かれますか?」
機内サービスを教えてあげようかと声を掛けてみたが、
「イヤホンとかヘッドホンとか、耳を塞がれるのもダメなんです
」
ありゃま。
いろいろとご苦労をされているようだ。
ひたすら目を閉じて堪えるフライトタイム、2時間45分。
彼が帰る頃の沖縄は季節外れの台風も近づいてくると、モニターの天気予報が報じていた。
これは内緒にしておこう。
ちなみに、沖縄があまりあれなおいらはわずか1泊、20時間ほどの滞在で、風雨がやってくる前に那覇を発つ。
機長の挨拶が聞こえてきた。
どうやら、せんだみつおのファンらしく、ナハナハばかり言っている。
3度目の沖縄入り。
1度目で本島ほとんどの戦地を周り、追悼の旅。ひめゆりの語り部が、今でも耳に残っている。
2度目は国際通りをぶらぶら歩き、世界遺産になったか、なりそうな頃の首里城へ出掛けていた。
MDMAもコカインも興味がないし、ましてや怖い人たちの成人式も見たくない。
結局、2度とも本島だけに留まって、離島にも行ったことがない。
気の乗らないリゾート地ビジネス(自称)が見透かされたように、天気の情報は雨降り、22度。
日記は1枚分で終わりそうな、機内のイントロ。
それにしても小円楽の落語は下手くそでつまらない。2分聴いてチャンネルを変えた。
太田裕美が流れてきた。
(続く)
■日本訪れる韓国人旅行者数、65%減 4カ月連続の減少
(朝日新聞デジタル - 11月20日 16:12)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=168&from=diary&id=5871597
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