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2019年01月17日11:27

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ワニ小僧的日本映画ベストテン2018

 例年、12月に発表している私の個人的日本映画ベストテン、
少し遅くなりましたが発表します。
 別にこういった形で発表するべきものでもないのかなあ、
などとも思うのですが、楽しみにされている方もいらっしゃるとか、
これから見る映画の参考にしたいというお話をいただくと、
ちょっと嬉しくもあり。

 毎年100本には届かないけれど一定数の日本映画を見て、
その中からベストテンを選んでいます。
 本来は「ヨコハマ映画祭」のベストテン選考委員としての仕事
(完全ボランティアですが)ですが、選考結果は公式パンフレットに
掲載されますので別にこの順位は秘密でもないわけで、
むしろ私が「なぜこれを選んだか」を書き記しておきたい気持ちが
一番です。

 本来、映画などの芸術に順位をつけることの「愚」は、自分もまた
物を作り審査される立場を経験してきた身であることからも、重々
承知していますが、作品を世に問う以上、比較され評価される存在に
なることはやむを得ないし、公正な批評を作るうえで
「なぜ評価したか」を広くさらすことは、何より自分の目を鍛え、
芸術を見抜くことの厳しさを知っていただくことにもなります。

 前置きが長くなりました。

 作品はヨコハマ映画祭の審査対象基準に従い
2017年12月1日から2018年11月30日までに
東京・横浜地区で公開された日本映画を対象とします。

 年間500本を超える映画が公開される日本映画界で、
「何本見るのが適正か」という問題も含め、皆さんにお考え
いただければと思います。

 というわけで私の2018年日本映画ベストテンです。

 1 花筐/HANAGATAMI
 ○2017年12月の公開作品である大林宣彦監督作品。
「古里映画」シリーズの3作目にして、監督の情念を過剰な色彩、演出、
音楽の洪水にぶち込んだ快作にして最高傑作。商業作デビュー「HOUSE」
以来の大林マジックはまさにこの映画を作るために存在したのだと気がつく。
2018年の日本映画はこの作品をどこかで越えられるか、が今回の
基準であった。そして1年間に出会った作品の中で、越えることが
できたものはなかったと思う。
 青春の悲哀、豊かな風土、戦争と平和、日本映画が語って来たものの
総てがここにはある。まるで巨大な曼荼羅や壁画を見ているような幻惑される
映画体験であった。

 2 モリのいる場所
 ○ユーモア作家のようにとらえられがちな沖田修一監督が
科学者のように緻密で計算されつくした、「定点観察」の手法で描く
天才芸術家の評伝。
 30年間自宅の庭から出ることのなかった奇人、熊谷守一のその
「ある1日」を精緻に描くことで浮かび上がる壮大な精神世界。

 3 寝ても覚めても
 ○前作「ハッピーアワー」の危うい日常世界を、さらに危うく
揺らぐ世界にダイブさせた濱口竜介隆介監督。震災に見舞われた日本の
現代性をも含みつつ、一人の女性の心の放浪を優しく見つめた。

 4 鈴木家の嘘
 ○新人監督と言えど、石井裕也、大森立嗣、橋口亮介といった
そうそうたる監督の下で助監督を経験してきた野尻監督の実力は
折り紙付きだった。
「家族の死」という悲痛な物語を温かいユーモアと深い感動で描き切り、
その構成には全く揺るぎがない。監督の才能を支えるために集結した
ベテラン俳優陣の見事なアンサンブル、その中で生き生きと自分を
表現した木竜麻衣の輝き。
 今年の日本映画の大きな収穫であった。

 5 万引き家族
 ○カンヌを引っ提げての登場に日本中の映画ファンが拍手で迎えたのは
うれしいニュース。
 家族の在り方、高齢者福祉、貧困といった現代社会の問題を重層的に
描いているのはさすが、是枝監督の原点であるドキュメンタリーや
劇映画デビュー「誰も知らない」に通底する主題を磨きあげた。
近年、多作される日本映画であるが、小さな家族や個人の心の問題に
拘泥する傾向がある中で、家族に寄り添いながら返す刀で社会を斬ることを
忘れない。安藤サクラのモノローグは演技を越えたスケールの大きさ。

 6 日日是好日
 ○「モリのいる場所」と並ぶ定点観察映画の完成形、こちらは
お茶室での25年である。繊細なカメラ、丁寧な所作、そして移り行く
季節や天気をとらえた雨の音、風の音・・・。
 日本には四季があり節季ごとに自分を見つめるひと時を大切にする、
その一点を描き切ることで一人の女性の成長を、人生を語ることができる。

 7 止められるか、俺たちを
 ○「若松孝二」とは誰なのか?日本がまだ政治を信じていた頃の
神話になってしまったのか?
 映画の力を信じ、観客を信じ、仲間を信じた一人の男と、彼に連なる
山脈は今、日本映画を撃つために着々とうごめいているのだ。
ハマらいぶの音声ガイドを応援してくださった若松監督の言葉は
今の私たちの心に深く刻まれ、映画のためにできることをやりつくす
気概をいただいた。

 8 若おかみは小学生!
 ○スタジオジブリから旅立た才能は、今や各所で誠実に作品を
作り続けている。高坂希太郎監督、吉田玲子脚本は原作を生かしつつ
原作にないエピソードを取り入れることでジュニア小説を純文学へと
昇華させ、大人の鑑賞に堪える、大人だからこそ心に刺さる暖かい
感動作に完成させた。これはまさに映画技術の勝利である。

 9 カメラを止めるな!
 ○映画馬鹿でよかった。若き映画馬鹿が集まって満足のいくまで
仕事をするということ。逆に言えばそんな映画馬鹿をさまざまな形で
殺してしまう社会の問題点は多々ある。
 マキノ省三の言葉にある通り「1スジ」である。いい脚本を掴む。
妥協のない脚本を掴む。そしてチャレンジする。映画を製作する人々が
一番衝撃を受けたのではないか?

 10 娼年
 ○妥協なしの性描写が売り物だが、そこには優しい愛があふれている。
女性に寄り添い、心を開放する性の堕天使。女子大生をモノとして扱う
週刊誌の愚かなスタッフといかに違うのか?我々はそんなバカではない。

 ハマらいぶでは今月までにこのうちの8本を音声ガイド付き上映
することができた。決して手前味噌ではなく、見ていただきたい映画を
取り上げられたのはひとえにシネマジャック&ベティの支配人はじめ
スタッフの皆様、上映を許可してくださった各方面の方々のおかげだ。

 で、私が選出した各賞は以下の通り。

 監督賞    大林宣彦  「花筐/HANAGATAMI」
新人監督賞   野尻克己 「鈴木家の嘘」
 脚本賞    沖田修一 「モリのいる場所」
 技術賞    月永雄太 「モリのいる場所」撮影
 主演男優賞  東出昌大 「寝ても覚めても」「菊とギロチン」
             「ビブリア古書堂の事件手帖」
 主演女優賞  安藤サクラ 「万引き家族」
 助演男優賞  井浦新 「止められるか、俺たちを」
 助演女優賞   木野花 「愛しのアイリーン」
 最優秀新人賞  城桧吏 「万引き家族」
         ナッツ・シトイ 「愛しのアイリーン」
         平尾菜々花  「ごっこ」

審査委員特別賞  吉田玲子
 「リズと青い鳥」「若おかみは小学生!」「のんのんびより ばけーしょん」
長編アニメーションにおける独創的な脚本、脚色の技術に対して
 特別大賞    江波杏子 
 「娼年」における円熟した演技表現と、スクリーンに咲いた大輪の花へ
映画ファンから愛をこめて

 素晴らしい映画とその作り手、観客、配給と公開に関わる全ての皆さんに
尊敬と感謝を込めて。
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