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2021年11月25日20:26

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緒方孝市氏講演会レポート(令和3年11/23) 後編

・プロ入り後にキーマンとなった二人のコーチ。
さて、話は緒方氏自身に戻り、自分に関してはプロの壁の高さに直面して最初の2年は目標すら立てられなかったとのこと。
しかし、そんな中で一皮むけさせてくれた二人のコーチを紹介してくれましたが、うち一人はコーチ歴36年の大ベテランである、90年代〜2000年代のカープファンにはお馴染みの内田順三打撃コーチ。

内田コーチは、伸び悩んでいた秋季キャンプの最終日(11月末)に明日からバットを持ってうちに来いと言われ、ルール上はオフシーズンはコーチが選手に教えてはダメだったにも関わらず、自宅の駐車場に練習スペースを作ってくれて、コーチ自身にとっても貴重なオフとなる一ヶ月を自分の為だけに犠牲にして12月の頭から31日まで毎日休みなしでマンツーマンの指導を続けてくれたんだそうで(しかも、練習後は奥さんが食事まで作ってくれて)。
正直、あの頃はまだ若かったし休みたい日もあったものの、しかしコーチがここまでしてくれるんだからと休むに休めず続けていたら、その成果が翌年の春のキャンプでてきめんに出て、自分でも驚く様なスィングから見たことの無い打球が飛ぶようになったとのこと。
当然、他のチームメイトもトレーニングは積んで来たはずだけど、その中でも内田コーチの特訓で自分が際立っていたのは大きな手ごたえになり、またこの体験から練習を継続する為の大切さが改めて身に染みて、だからこそコーチになった時に練習の大切さを強く言えたんだそうで。

そしてもう一人の恩師は、山本一義(打撃)ヘッドコーチ。
長嶋茂雄や王貞治と同じ時代のスター選手だった山本氏は引退後に鶴岡一人氏から南海に誘われながら、60年代に総理大臣を務めた池田勇人氏から説得されてカープに残ったという伝説(自称?)を持つレジェンドで、まぁそれは緒方氏も半信半疑なんだそうだけど(´Д`)、ともかく二期目の就任2年目の春のキャンプの時に山本コーチから送迎を頼まれ、その道中で「緒方、プロとはなんぞや?!」といきなり問われて戸惑ったのが始まりだったとのこと。
山本ヘッド曰く、「一生懸命にやるのがアマ、真剣に取り組むのがプロ」ということで、それを聞いた緒方氏はどっちも一緒やん、なんか面倒くさい人が来たなぁ…と思っていたそうだけど、その山本ヘッドは無類の話好きで、同期のミスターはメモ魔だったとか、王は刀で畳をぶった切る練習をしていたなどと面白い話も聞かせてもらいつつ、ある日「お前は何が得意だ?」と聞かれ、「足と守備には自信があります」と答えると、「ならお前は走ることで一番になれ、TVで盗塁王を取ると公言しろ」と言われたんだそうで。
それを聞いて、緒方氏はまだレギュラーすら掴んでない自分がいきなり盗塁王なんてなれる訳ないだろとはなったものの、結局はマスコミの前で言わされてしまうと、本当にその年に取れてしまったという。

更に、翌年は2年連続の盗塁王に加えて打撃では打率3割30本を公言しろと更なるムチャ振りもされてしまったものの(さすがにこっちは未達成ながら2年連続の盗塁王は達成)、つまりは山本コーチの意図は目標を明確にして意識づける大切さを説く、今では当たり前のメンタルトレーニングにもなっている意識改革だったんだそうで(ちなみに、今では当たり前にやっている練習後のミーティングもこの山本コーチが始めたものとのこと)、確かにベテランになってからの緒方氏は優勝意識が足りないという言葉を繰り返していた記憶はあるけれど、そのルーツはこの山本ヘッドだったみたいですね。

そして、この二人のコーチについての話の後で、緒方氏はプロに入る今の選手はみんな身体能力が高いのに、それを引き出すことが出来ないのは意識が足りないからで、そういった選手への意識改革が監督としてのテーマだったと語ってました。
…なにせ、プロは一年で給料が何倍にも上がる夢があるが、必ず毎年何人かはクビになってしまう厳しさもあり、プロ野球選手の平均年齢が29.2歳で在籍平均年数は8.3年という厳しい世界。
自分が現役の頃も、自分より年下の選手がクビになった時は心が痛んだし、監督をやっていた時はみんなが一年でも長く続けて稼いでほしいという一心だったんだそうで。

・大事なのは、気持ちではなくてプロセス。
ともあれ、緒方氏が監督としての意識改革をするきっかけになった話として続けて持ち出したのは2015年の最終戦の話。
確かに、自分も現地で見ていたあの試合は緒方カープを語る上では外せない一日だけど、あの時は勝てば3位で3年連続のCS出場が決まる試合で、相手は既に最下位が確定した後の中日。
チーム内でも、まぁ勝てるだろうではなく、絶対に勝たなくてはならないと一切の油断は無く勝利への気持ちは強かったものの、しかし結果的にはこれが逆効果で、選手たちはガチガチに緊張してとても普段通りのプレーが出来ずにまさかの敗北を喫してしまった。

結局、勝利に対する考え方と対処の仕方が足りなかったのは自覚しつつ、しかし人はなかなか変われないと悩んでいたところ、さる住職からヒント(というか回答そのもの)を貰ったんだそうで、それは、
結に専念すれば果が生まれ
果に専念すれば苦が生まれる
という言葉。
変わるならまずは自分からで、大事なのは勝ちたい気持ちじゃなくて勝つ為に何をすべきか、また打ちたいじゃなくてその為にどうするかという、結果ではなくプロセスに目を向けることが大事なのだと悟ったんだそう。

・今は褒めて伸ばすしかない、が。
ただ、怒られながらの反骨心で育った自分の時代と違い、強い言葉での指導じゃ今の子達には届かないと緒方氏。
んじゃどうするかというかと、褒めて伸ばす以外には無いと断言してました。
昔は怒られない為に従っていたけれど、今はとにかく褒めてあげることで聞いてくれるんだそうで。

…まぁここら辺の話は若い人たちよりも指導者世代に向けての話なのかもしれないものの、ただそれでも怠慢プレーに対しては厳しく叱り付けたと緒方氏。
具体的には打った後の全力疾走を怠るので一番ダメで、それだけは許せなかったと断じたものの、その理由は明確。野球というのは相手の野手がエラーすることもあって最後まで何が起こるか分からないのだから、打者が勝手に結果を決め付けて走塁を怠るのは論外という、先述した厳しい世界で少しでも長く生き残ろうとすべき者の自覚を問われる行為というワケですね。

・技術的なミスなのか単純なミスなのか。
それから、続けて緒方氏はミスの種類について言及。
ミスには許せるミスと許せないミスがあるけれど、そのミスの種類も大きく分けて技術的なミスと単純ミスの二種類あり、厄介なのは後者の方。
技術的に足りないのが原因のミスなら何をすべきかは明快だけど、単純ミスの場合は原因を探るのが難しいとのことだけど、まぁ確かに(´Д`)。

んで、その単純なミスへの対処法としては試合中やミスの直後に話しかけて聞き役になることだけど、試合中の選手は興奮状態なのでまず届いていないんだそう。
ちなみに、これは投手でも同じことで、試合中にコーチがマウンドへ行ったところで、頭に血が上っている若い投手にはまず言葉なんて届かないと緒方氏。
ならばどうして行くのかと言えば、ほんの少しでも間を取る為で、それで少しでも落ち着いてくれるのを期待するしかないとのこと。

ということで、指導するならいつがいいのかと言えば翌日。
さすがに一晩経てば落ち着いているので、その時に改めて失敗の中身を聞いてやるのです、と。
ただ、そういう時でも若い選手は「次は打ちますよ、見ていてください!」と意気込むものの、聞きたいのはそれじゃなくて、具体的なミスの内容を話し出すまで辛抱強く聞き出すのだとか。
そして、大事なのは結果だけを求めてはいないという事をしっかり伝えることだと付け加えてました。

・ファンの声援は大きな力。
さて、続けて緒方氏が持ち出した話題はファンの声援の力。
…というか、これは選手のコメントでもよく言われるけれど、個人的には応援歌好きなんで参加しているけど、菊池選手の打席で集中している時は何も聞こえないという言葉もあって、あまり真に受けてはいないクチなんですが(´Д`)、しかし緒方氏に言わせれば優勝していた頃のマツダスタジアムでの大声援は相手にとっては確かに脅威だったし、カープの選手も驚くほどの力を発揮していたのを何度も目にしたんだそうで。

その例として緒方氏は一つのエピソードを挙げました。
2016年のとあるホームゲームでの後半、チャンスで投手まで回ってくるイニングがあって、打撃コーチに誰を使うか相談すると代打小窪と進言され、小窪〜?松山もまだベンチにいるのに小窪なのか?と思いつつ隣に座っている小窪選手を見てみると、(緊張で)青ざめながら「監督……行くんすか…?」と尋ねてきたとのこと。
それを見て、緒方監督は他にいないのか?と切り返しても、打撃コーチはもう決めているらしく「いません!小窪!」と改めて断言されたので、じゃあ(という言葉は実際には絶対に口にしないけど)「代打、小窪!」とコールして送り出すと、足を震わせながらバッターボックスへ向かっていったのに、結果はファンの大声援に乗せられて打って帰って来たんだとか。

また、もうひとつの例としてクローザーを務めていた中崎投手を挙げ、あの毎回当たり前にヒットを打たれる中崎がですよ、いつも不思議と無失点で帰ってきてたけど、これもファンが大きな拍手で後押ししたお陰だと笑いも誘いながら語り、そもそも優勝に必要な勝率が6割程度という中で、あの頃のマツダスタジアムでの勝率は7割という異常な数字で、ましてや2016年は43回、2017年と2018年は41回の逆転勝ちをして、“逆転のカープ”という代名詞も得たけれど、これらもチャンスの時のチャンテに選手が乗せられて普段以上の力が発揮されたからなのだと強調してました。

……とまぁ、そこまで言われると確かにそうかもと納得するしかないんですが、いずれにせよまたその時がくれば大声援で選手を後押ししてやって欲しいという言葉に対しては、当然言われるまでもないってところですね(´ー`)。

・メンタルは選手のパフォーマンスに響き、ファンもそれを見ている。
とはいえ、ファンの大声援への称賛も別にファンサービスで話しただけのものではなく、緒方氏が説きたかったのはメンタルとパフォーマンスの関係。
チーム状態が悪い時の悪循環として、負けが続いてる時というのは今度こそ勝たなきゃと肩に力が入りつつも、リードされた時に今日もダメかと諦めムードが漂うのも早く、またそんなメンタルでは選手の動きも明らかに変わっていたとのこと。

そして、ファンもそんな選手たちの変化を敏感に感じ取って、これは現地で応援してる時は自覚してなかったけど球場の応援の声量も半分になっていたんだそうで。
また、大量リードしている時にもう勝負は決まったと少し緩んだ空気になった時も、勝っているにも関わらず応援の声が減っていて、お客さんを喜ばせていないんだと感じたんだとか。

つまり、勝つこともだけどファンは選手の一生懸命プレーする姿を見たいんだと。
現に敵チームでもファインプレーを見せた時はカープファンは惜しげなく拍手を送っているし、敵味方なくそれを見に来ているんだと。
だから、どんな試合展開だろうと最後まで全力を尽くすというのを改めてチームでの決め事にしたと語ってました。

これについては、確かに緒方監督時代に今は(マツスタの)入場券はプラチナチケットだし今日しか来られないファンもいるんだから、最後まで全力で臨まなくていならないというコメントを対外的に出していたのを覚えているけど、どうやら観客の反応としてはっきりと出てたみたいですね。
チームが厳しい時ほど応援しなきゃというのは頭では分かっていても、言われてみれば確かに客席で不貞腐れたり愚痴のメール送ったりしてた時もあったなと(´Д`)。

・カープの野球を見せて元気を与えたい。
ただ、カープファンにとってカープは日常生活の一部であって、だからこそどんなに負けが込んでいても球場へ足を運んで変わらず応援してくれるけれど、それに甘えてはいけないとも強調する緒方氏。
しかし、それでも毎試合勝ち試合を見せるのは無理なので、とにかくカープらしい野球を見て喜んでもらうのだと。
それによってまた試合を見たいと思ってもらって応援してもらい、元気になってもらうことが原爆投下からの広島県民の心の支えになってきたカープの使命と語ってくれました。

そして、そんな緒方監督が見せたかった野球を新井さんが体現してくれた時の話をひとつ。
あるリードされていた試合の9回で2アウトランナー無しから代打新井を送り、その新井さんが出塁して2アウトランナー1塁と変わった局面で、次の打者がファウルを二度打ったものの、そのどちらの時も新井選手は打った瞬間に全力疾走して3塁まで走っていたんだそう。
とはいえ、さすがに40歳になっていただけに二度目はしんどそうで、ベンチの若い選手たちはへとへとになって一塁に戻る姿を最初は笑顔で応援していたけれど、それでもその打者が最後に平凡なフライを打ち、相手チームの選手が落下点に入っても同じく全力で駆け出し、審判がゲームセットを告げるまで走り続ける姿を見せた後は、もう笑っている者は誰一人いなかったんだとか。

このプレーで新井はチームを背中で引っ張ってくれたと改めて称賛していたけれど、これこそが緒方監督の求めていた最後まで諦めない姿であり、ファンに見せたいカープの野球なのだと。

・優勝したことで初めて学べたこと。
ともあれ、そんなこんなで緒方カープは2016年に25年ぶりの優勝を成し遂げましたが、緒方氏曰く、優勝して初めて得られたことも多かったそう。

まず、自分の野球人生で最高の瞬間を迎えたと感じた時は、2016年の東京ドームで25年ぶりの優勝を決めた時でもなく、2017年の連覇を決めた甲子園でもなく、2018年に初の三連覇を本拠地で達成した胴上げの時でもなく、シーズン終了後に平和大通りで30万人とも言われる人たちが集まった中で優勝パレードをやった時、中には遺影を掲げていた人もいたファンの皆から口々にありがとうと感謝の言葉をかけられた、この時の光景こそが本当に幸福を感じた一生の思い出だと緒方氏。
そして、この時に気付いたのが、優勝がゴールじゃない、その先にこうやってファンと喜びを分かち合うのが本当のゴールなのだという事で、これは勝てたからこそ知ることができたのだと。

もちろん、負ける悔しさを知るのも大事だけど、勝たないと学べないことも確かにあって、大事なのはこの両方を味わっているということ。
現に、2016年に優勝を経験してから選手たちは明らかに変わっていったのが見て取れたと緒方氏。
まずは自分達のやる野球に確信が持てたことと、そして個々が(優勝する為の)自分の役割を明確に持てる様になったこと。
正に、“結に専念すれば果が生まれ”の言葉通りで、この体験によりチームとして大きく成長したと語りましたが、つまりは優勝を果たせたことでその後の三連覇までの土台が出来上がって来たということですね。
…まぁそれはある意味、今のカープと見比べれば残酷な話でもありますが(´Д`)。

・誠也がいなくてもカープは優勝できる。
と、講演はいったんここで短い間でしたがありがとうございましたと締めくくられ、プレゼントに用意されたサインボールとサイン入れ著書の抽選が行われ(もちろん外れでしたとも、ええ´Д`)た後で、最後に緒方氏が我々へ向けたのは、鈴木誠也が抜けてもカープは優勝出来るという言葉。
だって、2016年だってエースのまえけんがメジャーへ行ってしまった後だったんですから、きっと誠也の後を担う選手は出てくるはずだと。
そして、やはりファンの後押しの力は大きいので、これからも大きな声援を送ってあげて下さいと改めてエールを送り、場内からの大きな拍手を浴びながら壇上を後にしていきました。

……以上です。
感想としては、いや面白かったっす(´ー`)。講演ということで、緒方氏は一人でずっと喋りっぱなしだったんですが、本当に短く感じた時間でした。
まず、序盤のカープへの分析は地元ローカル番組では聞けないシビア、というよりも今はチームから距離を置いた場所に居る、かつての当事者だからこそのリアルな評価がむしろ心地よかったですね。
あと新井さんのプレーの話とか、見ている視点がやっぱり違うんだなと。

そして印象的だったのは、とにかく終始メンタル面に関してのお話だったこと。
目的設定や意識付けの大切さもだけど、プロに入る選手は元々身体能力は当たり前に高くて、あとはそれを生かせるかどうかで差が付くという、観客には見えにくい部分ながらアスリートはメンタルの成長やそれをいかにコントロールするかの戦いなんだというのを改めて思い知らされたのが興味深く、ここらは来年に試合を見る目が少し変わるかもという予感も。
ともあれ、抽選で外した著書買ってもいいかなと思いましたし、是非また来年も来てくださいませということで。
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