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2007年10月29日07:07

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「働かざる者、食うべからず」。

   ▲С. Е. Чернышёв チェルヌィショーフという建築家の制作した
    オブジェ? どういうものかよくわからないが、カリカチュアを感じる。




〓昨日の続きです。「働かざる者、食うべからず」 の原典、「働きたくない者は、食べてはならない」 がギリシャ語でどうなっているか、調べてみました。

   ε’ί τις ο’υ θέλει ’εργάζεσθαι
         μηδέ ’εσθιέτω

   ei tis ū thelei ergazesthai mēde esthietō
   [ エ ' イ ティス ウー ' てれイ エル ' ガゼスたイ
        メー ' デ エスてぃ ' エトー ]

   if anyone not wish to work, and not eat
   もし、誰か働きたくない者があったら、その者は食べるな。

〓やはり、新共同訳は忠実ですね。かつての文語訳をひとつ見てみましょうか。

   蓋 (けだし) 我等 (われら) 汝等 (なんじら) の中 (うち) に
   在りし時、人若 (もし) 働く事を否まば、亦 (また) 食すべからず、
   と命じたりき。


〓「人もし働くことをこばまば、また食すべからず」 だそうです。こちらも文意は忠実ですね。英語版はどうなっているかしらん。


  【 American Standard Version 】
   For even when we were with you,
        this we commanded you,
   If any will not work,
        neither let him eat.

   「もし、誰かが働こうとしないなら、その者に食べさせてはならない」


  【 King James Version 】 (いわゆる、「欽定訳聖書」)
   For even when we were with you,
        this we commanded you,
   that if any would not work,
        neither should he eat.

   「もし、誰かが働こうとしないなら、その者は食べるべきではない」
     ※ would not のほうが、will not よりも 「しようとしない」 と
      いう拒否の程度が強い。


  【 World English Bible 】
   For even when we were with you,
        we commanded you this:
   "If anyone will not work,
        neither let him eat."

   「もし、誰かが働こうとしないなら、その者に食べさせてはならない」
     ※引用符を使ってはいるが、American Standard Version と同じ。


〓どうやら、英語の聖書でも、「働かざる者、食うべからず」 とはなっていないようです。では、ロシア語ではどうなっているかしら。


  ибо когда мы были у вас,
       то заповедовали вам:
  кто не желает трудиться,
       тот пусть и не ест.

    kto nje zhelajet truditsa, tot pust' i nje jest.
    [ ク ' トー ニェ じぇ ' らーイェット トルゥ ' ヂーッツァ
      ' トット ' プースチ イ ニェ ' イェスト ]
    「働きたくない者には、食べさせるな」


〓おやおやおや、ロシア語のコトワザの文型とちがってますよ。

   Кто не работает, тот не ест.
    [ ク ' トー ニェ ラ ' ボータイェット
       ' トット ニェ ' イェスト ]
    「働かない者は、食うな」

だったはずです。どういうことなのか?
〓どうやら、“Кто не работает, тот не ест.” という単純な表現に変えたのはレーニンその人であるようです。この句について、ロシア語で説明しているページがあったので、以下に訳出してみましょう。


────────────────────

http://www.pravmir.ru/article_597.html
  “Православие и мир” というサイトから


Плакаты с грозным предупреждением: "кто не работает, тот не ест" обычно подписывались именем Ленина и в первые годы советской власти висели едва ли не в каждом "красном уголке".

Эту фразу действительно можно найти в 36 томе Полного собрания сочинений вождя мирового пролетариата (статья: "О голоде"). Она присутствует и в знаменитом "Моральном кодексе строителя коммунизма", и в советских Конституциях. Например, в 12-й статье так называемой "сталинской" Конституции 1936 года сказано: "Труд в СССР является обязанностью и делом чести каждого способного к труду гражданина по принципу "кто не работает, тот не ест". Из "брежневской" конституции 1977 года эту фразу убрали, однако сам принцип остался. А "уклонение от общественно полезного труда" было "несовместимо с принципами социалистического общества" (статья 60). Смысл этого понятен: из полноценной жизни страны Советов исключались те, кого государство (в лице своих чиновников) считало "паразитами" и "тунеядцами".

Таким образом, слова "кто не работает, тот не ест" устойчиво ассоциируются с социалистической системой, а их автором многие до сих пор считают Владимира Ильича Ленина. Но вождь мирового пролетариата не выдумал эту фразу, а позаимствовал ее из Библии. Ведь он - выпускник гимназии и университета - изучал Священное Писание и, скорее всего, хорошо знал, что слова "Если кто не хочет трудиться, тот и не ешь" принадлежат апостолу Павлу. Удивительно, но, цитируя и используя слова Апостола в коммунистической доктрине, ее идеологи умудрялись одновременно критиковать их в антирелигиозных изданиях.  Например, в учебниках советского времени говорилось примерно следующее: фраза апостола Павла "если кто не хочет трудиться, тот и не ешь" - это обычная в рабовладельческом обществе формула рабской трудовой повинности. Такой вот парадокс: одна и та же мысль выносится на лозунги и одновременно объявляется проповедью рабской морали...

「働かざる者、食うべからず」 という威嚇的な警告の入ったポスターは、たいていレーニンの署名が入っていて、ソヴィエト政権の1年目には、おそらく、すべての “赤い部屋” (ソ連邦の政治的啓蒙施設) に、これがブラ下がっていただろう。

このフレーズは、なるほど確かに、この世界のプロレタリアートの指導者の著作全集、全36巻の中に見つけることができる。(論文 『飢饉について』 “О голоде”) あるいは、有名な 「共産主義建設者の道徳規範」 “Моральный кодекс строителя коммунизма” (ソ連邦共産党綱領)、また、ソヴィエト憲法にも見いだせる。たとえば、1936年のいわゆる 「スターリン憲法」 の第12条には、「ソ連邦における労働とは、すなわち、“働かざる者、食うべからず” の原則のもと、働きうるすべてのソヴィエト市民の誇りある義務であり、また努めである」 とある。1977年の 「ブレジネフ憲法」 からはこのフレーズが削除されたが、理念そのものは生き残った。「社会的に有用な労働を忌避すること」 は、「社会主義社会の原則とは相容れない」 のである。(第60条) その意味は明瞭である。(官僚に代表されるところの) 国家が “寄生虫” とか “寄食者” とかみなした者は、ソヴィエト国家における価値ある人生からツマハジキにされたのだ。

かようにして、「働かざる者、食うべからず」 という句は、社会主義システムとしっかり関連づけられてきたので、多くの人々が、その考案者をウラジーミル・イリイチ・レーニンだとみなしているのである。しかし、世界的プロレタリアートの指導者は、この句を考案したのではなく、聖書から借用したのである。なにしろ、彼は、ギムナジウムと大学の卒業時に、聖書の研究をしていたので、おそらく、「もし、働きたくない者がいたら、その者は食べるべきではない」 “Если кто не хочет трудиться, тот и не ешь” というコトバが使徒パウロのものであることを、よく知っていたであろう。だが、奇妙なことに、共産主義的ドクトリンの提唱者たちは、パウロのコトバを引き合いに出して使いながらも、いっぽうでは、ご苦労なことに反宗教書の中で、そのコトバを批判していたのである。たとえば、ソヴィエト時代の教科書では、だいたい、次のような事が言われていた。使徒パウロのコトバ “もし、働きたくない者がいたら、その者は食べるべきではない” というのは、奴隷制社会において奴隷の労働義務を言い表す一般的な表現である、というのである。これはとんだパラドックスである。まったく同じ意味のことをスローガンとして掲げながら、いっぽうでは奴隷の倫理の喧伝であると決めつける……

────────────────────


〓いろいろなことがわかります。たとえば、「働かざる者、食うべからず」 が出てくるレーニンの著作は “О голоде” [ ア ' ゴーらヂェ ] 『飢饉について』 である、ということ。
〓さらに興味深いのは、ソヴィエト政権の初期には、「働かざる者、食うべからず」 というのが、共産党が政治的啓蒙のために使用した “宣伝文句だった” ということ。それが、レーニンの署名入りで掲げられたということ。

〓もっと驚くべきことは、ソ連邦共産党綱領に 「働かざる者、食うべからず」 という一句が入っていたということですね。調べてみると、1961年に採択された

   Моральный кодекс
            строителя коммунизма

   『共産主義建設者の道徳的規範』

という共産党綱領の第2条に、

 Добросовестный труд на благо общества:
         кто не работает, тот не ест.

   社会のためのひたむきな労働 ── 働かざる者、食うべからず。

とあります。
〓さらには、かつてのスターリン憲法にも、この句が入っていたと言うんですね。「憲法」 ですよ。

   「憲法」 に “働かざる者、食うべからず”

という一句が入っている国というのは、どうなんだろう……
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