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2011年11月12日22:12

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「トゥクタミシェワ」 の姓の由来。

   







湯のみ 「トゥクタミシェワ」 という響きはロシア語のそれではない。

   …………………………

湯のみ 彼女の名前は、ロシア語では、

   Туктамышева Tuktamýsheva
      [ トゥクタˈムイシェヴァ ]

と読むのが正しい。以前は、 Tuktamysheva というラテン表記で名乗っていたらしいが、現在は Tuktamisheva としているため、日本のTVでは、

   トゥクタミシェワ

になってしまっている。

   …………………………

湯のみ 彼女は、ロシア連邦に属するウドムルト共和国の小さな町 「グラーゾフ」 Glazov の出身である。ウドムルト共和国の民族構成は、

   ロシア人 …… 53%
   ウドムルト人 …… 35%
   タタール人 …… 7%

である。

湯のみ トゥクタムイシェヴァが、民族的にナニジンかというと、これは、タタール人と考えてよい。ウドムルトでは少数派に属するタタール人である。

湯のみ タタール人という民族名は、なかなか、混乱のもとで、「クリミア・タタール人」 という民族もあるし、その他、慣用的に 「タタールの軛 (くびき)」 などとも使われて、門外漢には特定しづらい。

湯のみ 現在のロシア連邦の民族で 「タタール人」 と言った場合、それは、

   ヴォルガ・タタール人

のことである。現在のカザンを首都とするタタールスタン共和国の主要民族である。

   …………………………

湯のみ 16世紀なかば、タタール人の国家である 「カザンハン国」 は、ロシアのイワン雷帝によって滅ぼされ、カザンはロシアの版図に入った。タタール人はカザンを追放され、周囲に四散した。そのため、カザンの周囲にはタタール人が点在している。

湯のみ ウドムルト共和国の名称となったウドムルト人は、ウラル語族 フィン=ウゴル語派に属するウドムルト語を話し、チュルク語を話すタタール人とは異なる民族である。

   …………………………

湯のみ 彼女が、なぜ、タタール人とわかるかというと、その姓である。ロシアに住まう非スラヴ民族は、ロシアの枠組みに組み込まれる際に、たいていの場合、

   戸主の男子名 + -ov, -ev

という姓を名乗ることになった。もとになった男子名が子音で終われば -ov を付け、母音で終わる場合には -ev を付けた。ただし、 -ш (-sh) や -ч (-ch) などで終わる名前は、歴史的に軟子音であったため、 -ev を付けた。だから、 tuktamysh-eva なのである。

湯のみ チュルク語は、語末の母音にアクセントがあるので、 -ov, -ev を付けた場合、その直前の母音にアクセントがあることになる。なので、 Tuktamýsheva なのである。

湯のみ タタール語における綴りは、ロシア語のそれとまったく同じだが、発音がじゃっかん異なる。 ы (y) は 「ウイ」 ではなく、トルコ語の ı [ ɯ ] にあたる。なので、

   Туктамышева Tuktamysheva
     [ トゥクタˈムシェヴァ ]

となる。 u は [u] (英語のウ) で、 y は [ɯ] (日本語のウ) である。

   …………………………

湯のみ 「トゥクタムイシェフ」 という姓を持つのは、タタール人の中でも、

   ミシャル Мишари Mishar

と呼ばれるグループに属するらしい。ロシアでは、かつて、

   мещеряк meshcherjak 「メシチェリャーク」

と呼ばれていた。

湯のみ タタール語では、

   「トゥクタムシュ」 Tuktamysh Туктамыш

という名前は、

   “家族の中で、子どもが次々に死んだり、
       子どもが生まれすぎたりした場合”

に新生児に名付けられる “呪術的な” 名前だという。

湯のみ タタール人の名前には тукта- で始まるものがいくつかあり、これには、「止まれ」 という意味があるという。

湯のみ 日本語にも、「すえ」、「とめ」、「あぐり」 などという名前はあるが、“死んでも、生まれても” 使える名前、というのは不思議だ。いろいろ調べたが、語末の -мыш の由来が特定できなかった。

   …………………………

【追記】

もみじ 「トゥクタミシェワ」 の Wikipedia には、

   英語版、日本語版、ロシア語版、ウクライナ語版、

   そして、トルコ語版

がある。トルコでフィギュアスケートがポピュラーでないことは、誰だったわかろう、ってものだ。つまりは、

   日本人などには見えていない、“汎チュルク主義” の絆

というのがあるのだ。
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