月曜日、NHKで
「矢口真里の靴学」
を見ていて、ほう、と思った。
このテの話に、フェミニストがからんでくると、ナンでも善悪論にもちこむ、砂を食らうような無益な論議になるのだが、今回、登場した先生は、純粋に文化人類学的に分析していた。
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「あれ?」 と思ったのは、
ヴェネツィアの高級娼婦が履いていたという
レディーガガみたいなハイヒール
である。いや、ハイヒールというより 「高ゲタ」 と言ったほうがいいかもしんない。
実は、同じものが、少し前に放送された 「ふしぎ発見」 の問題になっていたのだ。
しかし、
「ふしぎ発見」 では “ゾッコリ” と言い、
「矢口真里の靴学」 では “チョピン”
と言っていたのである。
これは、ひじょうに食欲をそそるエサである。
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“ゾッコリ” がイタリア語、というのは、おかしくないが、
“チョピン” はイタリア語でない可能性が高い
のだ。イタリア語の名詞は、「〜ン」 で終わらないのが普通だし、
履き物は、複数形をとるものなので、「イ段」 の音で終わるはず
なのである。
はたして、「靴学」 の先生が言った 「チョピン」 というのは英語だった。
chopine [ チョˈピーン ]
である。まさに、過去のヴェネツィアで流行ったような 「高ゲタ・ハイヒール」 を指す語である。この語は、スペイン語が起源らしい。「高ゲタ・ハイヒール」 は、スペインとイタリアで流行ったのだそうだ。
chapín [ チャˈピン ] 古スペイン語
↓
chapin [ チャˈピん ] 古フランス語
↓
chopine [ チョˈピーン ] 1577年の英語
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フシギなのは、イタリア語では 「チャピン」 とか、「チョピン」 とか言わないことだ。だからといって、“ゾッコリ” もダメなようだ。
Zoccoli というのは、イタリア語では、単に 「木靴」 という意味
だからだ。
いろいろ調べてみても、英語で chopine、スペイン語で chapín と呼ぶ、「高ゲタ・ハイヒール」 に対し、イタリア語では、特定の呼び名を持たないらしい。
alti zoccoli ※英語に置き換えると high clogs (高い木靴)
と呼んでいる。海外で、これを “ゾッコリである” と言うのは正しくない。エルマンノ・オルミの有名なイタリア映画に 『木靴の木』 があるが、原題は、
«L'Albero degli zoccoli»
[ ˈらーるベロ デッり ˈヅォッコり ]
である。 zoccoli が、単に 「木靴」 であることがわかろう、というもの。
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この件に興味がわいたのは、
ショパン
との関係である。
ときどき、クラシックに暗いヒトが、CDのタイトルなんぞを見て、
フレデリック・チョピン
と言う。フランス語の綴りが Chopin だからだ。
残念ながら、この姓は 「木靴」 とは関係がなかった。古く、
chopiner [ ショピˈネ ] 「激しくたたく」
という動詞があったという。現代フランス語の cogner 「コニェ」 に当たるという。
また、 un chopin 「アン・ショパン」 は、“激しい一撃” のことだという。現代フランス語の辞典には出ていない。ちなみに、この語は、英語の chop 「たたき切る」 とは関係がない。
そして、フランスにおいて、この Chopin 「ショパン」 というアダ名をつけられたのは、
すぐに暴力をふるう “乱暴者”
だった、という。
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「ショパン」 は、高級娼婦の高ゲタ・ハイヒールとは関係がなかったのだが、“乱暴者” のことであったらしい。
「ショパン」 はポーランドの国民的な尊敬を集める祖国の音楽家だが、「ショパン」 という姓、そのものはフランス語である。ハーフだからだね。
Chopin をそのままポーランド語で読んでしまうと、「ホピン」 となってしまう。ポーランドでは、
Szopen [ ˈしょペヌ ] 「ショペン」
という綴り相当に読む。もちろん、格変化するので、
Chopina [ しょˈペナ ] 「ショパンの、ショパンを」
Chopinowi [ しょペˈノヴィ ] 「ショパンに」
Chopinu [ しょˈペヌゥ ] 「ショパンよ!」
Chopinem [ しょˈペネム ] 「ショパンによって」
o Chopinie [ オ しょˈピニェ ] 「ショパンについて」
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Chopinowie [ ショペˈノヴィェ ] 「ショパン一家は」
などとなるヨ。
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