この物語はレトロなファンタジーです・・・。
1975年4月・・・先週あたりから、新宿御苑の桜もいい感じになってきたが、そろそろ八重桜と交代かもしれないな。
新宿・歌舞伎町、風林会館前にある雑居ビルの地下1F、クラブ・モンテローザは、今日もにぎわっていた。
ここは、座っただけでチャージが千円つく、わりと高級なクラブで、女の子も常時10人ほど在籍している。
お通しは「うめかま」。
なんのことはない、かまぼこの薄切りに練り梅ときゅうりをはさんだもので、誰にでも手軽に作れる一品。
手はかかっていないが、意外とおいしいのだ。
このお店の常連さんに、ひとり面白いひとがいる。
ユタカちゃんといって年齢不詳だが、一見若く見える。
ドーランをぬったように色白で、いつも長髪をなびかしている。
何の仕事をしているのか、誰も知らないが、チップだといって、いつも宝くじを一枚ずつくれる。
みんな「現金のほうがいいのに」と思っているのだが、誰も言い出せないでいる。
ユタカちゃんのボトルは、サントリー・オールド。
ダルマというやつだ。
いつも、これでやや濃いめの水割りをつくる。
お店の女の子は、かつみちゃん、ジュリーちゃん、サリーちゃん、チャッピーちゃん、ジャッキーちゃんと、個性的な名前が多く、より取り見取りだったが、ユタカちゃんはいつも、ひとみちゃんがご指名だ。
彼女の跳ねるような体が好きだと言っていた。
ん?さわったことがあるのか??
ユタカちゃんは、グループサウンズが大好きで、いつも何曲か歌っていくのだが、声はたった今、生レモンのしぼり汁を飲んだばかりのような、適度に枯れた個性的な歌声だ。
今日は珍しく「サントワマミー」を歌うというので、ギターで伴奏をしたのだが、ん?
エコーがMAXでかかっているので、よく聞き取れないぞ。
なにか替え歌をうたっているようだ。
「さんどはダメ〜、にどもダメ〜、ただいちど、いちどだけ〜、さんどはダメ〜」
どうやら「三度はダメよ」と、ひとみちゃんをくどいているらしい。
こういう品のいい下ネタって、女の子に受けるんだよね。
弾き語りをやっていたアニキも、アダモの「明日は月の上で」を歌っていたけど、ユタカちゃんのようなエンターテイナーぶりには脱帽だった。
みんなの笑い声がたえない中で、新宿の夜は深々とふけていった。
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