スウェーデンの民主主義と教育について

　日本の民主主義と教育は混迷を深めています。

　元旦に紹介した書籍の冒頭の2つに関わる日記です。

　スウェーデンの状況は大いに参考になると思われます。以下は、同大使館で開催された講演会等と紹介された同国の小中学校の社会科の教科書を中心にした若干の報告です。

■民主主義
　スウェーデンは、20世紀初頭、民主主義の建設を国家100年の計として掲げました。
今や世界トップクラスの民主主義を達成したことを誇りにし、昨年12月に同大使館主催で、同国のジャーナリストであるクラウディア・ワリン氏による著書「あなたの知らない政治家の世界―スウェーデンに学ぶ民主主義」日本語版（新評論　2019年）出版記念講演会が開かれました。同国の民主主義の特色は世界最古の情報公開法で市民が容易に政府を監視できることです。

　また、民主主義の理念の基礎として平等を強調し、閣僚や国会議員等の報酬は少なく、移動にバスや電車を使うなど倹約も徹底しています。

■小学校の教育
　民主主義や平等を監視でき、実のあるものとするために最も重視されているのが教育で、これも100年計画の成果を誇っています。

　1月下旬に同大使館にて、私も会員になっている同国の社会研究所の主催で、小学校高学年の社会科教科書を解説した「スウェーデンの小学校社会科教科書を読む」（鈴木賢志編著　新評論　2016年）を素材にした政治学科の学生たちによる研究発表会が開催されました。

　書籍によると、小学校高学年を半人前ではなく1人前扱いして人格の完成と主権者教育を徹底していることが特筆されると思います。

　すなわち、情報化時代を生き抜くために、情報は複数個を主体的に集め、知識として記憶するのではなく、テレビのコマーシャルや政党の意見などを含めその目的を批判的に考える訓練が行われます。情報や概念の深さも注目されます。例えば、「スウェーデンで最も権力を持っているのは王様、大企業、メディア、国会、どれでしょうか」。日本ではここで大企業が出てきますか？

　表現の自由の学習では自ら発信することが目的であること、世論を形成し決定に影響を与えるコツの一つとして人々を集めてデモをすること、法律や規範は変えられることを強調しています。学生の調査では同国と日本人の学生のデモの経験の差が際立ちました。

　意見の形成や集団の意思決定には討論がとりわけ重要であることも、学校内の問題の解決の過程で民主制の練習として自覚的に経験します。

　失業や生活保護、難民等は身近な具体例を通して社会の問題であることも学びます。

　政党は、自分の望みを達成するためにはそれぞれが譲歩することが不可欠だと、妥協をポジティブに理解します。日本では次の衆院選でれいわ新選組が野党を分裂させないかが大きな問題になっています。

■中学校の教育
　自立した生活に必要な実践的な知識や制度を分厚い教科書で学びます。
そして、「私たちには、自分で思っているより能力があります」「自分を信じましょう」と、それぞれの多様な持ち味を自信を持って伸ばすことに気付かされます。「自分でグループをつくること、一緒にやる仲間が多くいれば、あなたは強くなります」（以上、中学教科書「あなた自身の社会」新評論　1997年）。

　15歳の時に環境活動を始めたグレタ・トゥーンベリさんを子どものくせに生意気だと批判することができるでしょうか。

　選挙では、、各政党の政策を持ち寄ってその長所と短所を自主的に討論します。また、生徒は各政党の候補者を学校に呼んで討論会を開催し、実際の選挙並みに模擬投票をします。国も生徒のこの学びに予算をつけたり人員を派遣するなど積極的に応援します。

■追記
　スウェーデンでは高校生になると選挙に際しては一層詳細な議論を行い、2018年の国政選挙の18〜24歳の投票率は男性82％、女性88％でした。

　他の北欧諸国も類似した民主主義（比例代表制など）や教育を実践しています。

　「民主主義」を名乗る国の中では世界でも例外的に突出して人権を抑圧している日本の選挙の自由化と民主化を目指す研究者・市民による「選挙市民審議会」（片木淳、只野雅人、三木由希子共同代表）が4年間の議論を経て昨年12月31日に「選挙・政治制度改革に関する答申」を提案、今月の21日、答申発行記念集会が開催されました。

　答申ではドイツにおけるスウェーデンと類似した主権者教育も報告されました。
　
　私もこの関係の各種集まりに8回ほど参加しました。

　主権者教育の実現も選挙制度の改革も政治の争いの根幹に関わる大変困難な問題です。したたかな人間の育成は国際競争の視点からも不可欠です。必ずやらなければならない国民的な課題だと思います。