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2020年01月18日15:48

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歌劇「マゼッパ」(ゲルギエフ&マリインスキー )

作曲: ピョトール・チャイコフスキー
台本: ピヨトール・チャイコフスキー/ヴィクトル・ブレーニン
原作: プーシキンの物語詩「ボルタワ」

マゼッパ: ウラディスラフ・スリムスキー
コチュベイ: スタニスラフ・トロフィモフ
リュボフ: アンナ・キクナーゼ
マリア: マリア・バヤンキナ
アンドレイ: エフゲニー・アキーモフ
オリクル: ミハイル・コレリシヴィリ
イスクラ: アレクサンドル・トロフィモフ
酔っ払いのコサック: アントン・ハランスキー

指 揮: ワレリー・ゲルギエフ
管弦楽: マリインスキー 歌劇場管弦楽団
合 唱: マリインスキー 歌劇場合唱団

2019年12月2日(月),18:00開演,サントリーホール


チャイコフスキーのオペラを人気や知名度の順に並べると,1位が「エフゲニー・オネーギン」,2位が「スペードの女王」,3位が「イオランタ」,最後に「マゼッパ」が来る。あまり知られていない作品だが,「エフゲニー・オネーギン」や「スペードの女王」に決して引けを取らない,物語としても音楽的にも充実した歌劇だ。もちろん,ゲルギエフ&マリインスキーによる作品の核心を突いたステージを聴いたためでもある。ひと言で表現するなら,チャイコフスキーの音楽というより,歴史を題材にしたロシアの歌劇という色彩の濃厚な作品である。

ストーリーは10代の少女マリアと70代の老人マゼッパとの恋を軸に展開する。マゼッパは17世紀から18世紀にかけて実在したウクライナのコサックの強力な指導者。一方,マリアはマゼッパの親友で大貴族のコチュベイの愛娘。この両人がどういう訳か,互いに強く惹かれ相思相愛の仲になる。マリアの父コチュベイは,娘とマゼッパの結婚に猛反対だ。一計を案じた父コチュベイは,ロシアからの独立をたくらむマゼッパの企てをピョートル大帝に密告して結婚を阻止しようと画策するが,逆にその身柄はマゼッパに引き渡されてしまう。娘マリアと母リュボフはコチュベイを救うべくマゼッパの居所に向かうが,処刑場で血に染まったコチュベイを発見し,母は卒倒し娘は精神の平衡を失い狂乱状態に陥る。その後,密かにマリアを慕う幼馴染みのアンドレイは,ピョートル大帝との戦いに敗れたマゼッパに復讐を試みるが,マゼッパの部下に撃たれてしまう。狂乱したマリアは瀕死のアンドレイを発見し,彼が息途絶えても子守唄を歌い続ける。

凄惨なロシアの歴史劇である。それを表現するには,重量級の歌手が不可欠だ。歌手にはドラマティックで凄まじいまでの声量とスタミナが要求される。たとえば,マゼッパを歌ったウラディスラフ・スリムスキーは残忍さと純情さとが矛盾なく共存するスラヴ的な権力者の特異なキャラクターを自然に演じる巧妙さを持ち合わせている。マリア役のマリア・バヤンキナも澄み渡った強靭な声の持ち主で,前半はマゼッパを一途に愛する少女を,そして後半の狂乱の場では強い精神的な衝撃のせいで感情のメーターが振り切れてしまった人間の抜け殻を巧みに演じる。重厚な響きの合唱も,重苦しい物語の進行を手際よく描いてゆく。地響きのようなサウンドを立てるオーケストラも,ゲルギエフの棒に繊細かつ素早く反応する。指揮者と管弦楽の信頼の深さを物語っているようだ。ステージ上での演技や独唱,合唱,管弦楽を含めて,このあたりはロシア歌劇がレパートリーの中心をなす歌劇場の強みだ。ゲルギエフとマリインスキー歌劇場の力の程を思い知らされる。

ただし,この名コンビによる成熟した上演をもってしても,10代の大富豪の娘マリアが祖父ほども歳の離れたマゼッパを熱烈に愛するようになる事情について納得のゆく説明はなかった。オペラなのだから,恋愛の不合理さにこだわることなく,ストリーをそのまま素直に受け取るのが賢明なのだろう。とにかく,荒々しい力強さに満ちたロシア的な情緒が横溢するオペラを堪能して,久しぶりに心の底から満足した。
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