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2019年12月15日16:15

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札幌交響楽団 第624回定期演奏会

【プログラム】
1 ムソルグスキー: 交響詩「はげ山の一夜」
2 ハチャトゥリアン : フルート協奏曲(ランパル編)
3 ムソルグスキー: 展覧会の絵(ストコフスキー編)

(アンコール)
イベール:間奏曲

フルート:上野 星矢
指揮:川瀬 賢太郎
管弦楽:札幌交響楽団

2019年11月23日(土),12:00開演,札幌コンサートホール


札響の11月定期演奏会は,いつもと違った。演奏曲目も普段と異なるヴァージョンに基づくものなら,コンダクターもフルーティストも若手のコンビだ。

「はげ山の一夜」は,リムスキー=コルサコフ編のオーケストラ版による演奏が一般的だが,今回は原典版。「展覧会の絵」も通常はラヴェルが編曲した版で取り上げられることが多いが,指揮者のレオポルド・ストコフスキーが編曲した楽譜を使った演奏。そして,ハチャトゥリアンの出世作となったヴァイオリン協奏曲をジャン=ピエール・ランパルがフルート用に編曲した「フルート協奏曲」も,オリジナルほど頻繁に演奏される作品ではないはず。

神奈川フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者とオーケストラ・アンサンブル金沢の常任客演指揮者を務める川瀬賢太郎がタクトを取り,フルート奏者の登竜門といわれる「ジャン=ピエール・ランパル国際フルートコンクール」で優勝した上野星矢をフルート独奏に迎える。ゲストもフレッシュ。

若い勢いのある音楽家2人を中心とした演奏は興味深かったが,なかでも白眉だったのはハチャトリアンの「フルート協奏曲」。なんといっても,上野のフルートが抜群に巧い。確かな技巧を駆使してハチャトリアンの曲を造形していく様子は爽快だ。どの音もどのフレーズも実に音楽的。上野の尋常でない音楽的な才能があふれるハチャトリアンの「フルート協奏曲」である。上野の演奏を聴いていると,モーツァルトのフルート協奏曲などでは,このフルーティストが望んでいる音楽を表現できないのではないかと思った。モーツァルトの作品も演奏者に独特の難しさを突きつけてくる音楽だとは思うが,上野がいま表現したいと考えているのはフルートの現代的な超絶技巧に挑むことなのだろう。ハチャトリアンのフルート協奏曲が持つ独特の生命力にあふれる強烈な色彩感やリズムに上野が強く惹かれている様子が窺える。この協奏曲はランパルがハチャトリアンにフルート協奏曲の作曲を依頼したところ,逆に作曲家から新作は書けないがヴァイオリン協奏曲をフルート用に編曲してはどうかと提案され,この編曲版が生まれたという。カデンツァだけはランパルが作曲したものの,その他は原曲を尊重し改変は極力避けたとされる。フルーティストによる編曲をフルーティストの上野が,ランパルの超絶技巧に思いを馳せつつ,作品の細かい襞まで共感を込めて吹いていたように思う。

ムソルグスキーの2曲よりもハチャトリアンの作品の演奏が気に入ったのは,上野のヴィルトゥオージティに富んだ演奏に魅了されたという以外にも,ムソルグスキーの「はげ山の一夜」と「展覧会の絵」があまり好きではないという個人的な事情が大きく影響している。スペクタククル映画のように外面的で派手な管弦楽作品は聴いていてさほど面白味を感じない。聴いている最中はワクワク,ドキドキだったとしても,演奏が終わった途端気持ちは冷めてしまい,ただの喧騒を除くと何も残っていないと感じることが多い。ムソルグスキーのオペラほど内容的・音楽的に充実していない。魔女を主題にした「はげ山の一夜」のロシア的リアリズムの手法によるオーケストレーションに関しては,確かに見事な手腕を発揮しているが,ただおどろおどろしいだけの音楽に終始していて,もうとっくの間に飽きてしまった。今回の原典版は,ムソルグスキーが1867年に完成したオーケストラ版第2稿であるとのこと。音楽面では「はげ山の一夜」と同じ趣向といえる「展覧会の絵」も退屈だった。今回はラヴェル編曲版ではなく,ストコフスキーの編曲版だったため多少新鮮味はあった。ラヴェルのフランス的な洗練の代わり,ストコフスキーによるロシアの土着的な力強いたくましさが特徴といえるヴァージョン。ラヴェル版ではトランペットが演奏する「プロムナード」を弦楽器で演奏させたり,その他の箇所もフランス印象派風の鮮やかな色彩感をロシア的な淡く仄暗い色彩で置き換えられていた。その分,力強さは増していたかも知れない。なお,この日のプログラムは「ムソルグスキーの生誕180年記念プログラム」と銘打たれている。川瀬賢太郎の指揮は思い切りよく若さを前面に打ち出していて,やや速めのテンポでよくメリハリの効いた爽快さを印象付ける演奏である。ストコフスキーの編曲版を選んだのは川瀬賢太郎だと思うが,彼の演奏スタイルにはラヴェル版がよりふさわしいように感じた。トゥッティでも音は濁ることなく,相当ダイナミックな響きを引き出していた。ただし,演奏のキズといえるほどのものではないにしろ,指揮がわずかに空回り気味だった箇所もなかったわけではない。

若手演奏家の起用,普段聴く機会の少ないヴァージョンによる演奏など,新機軸を打ち出した定期演奏会で,これからも攻めの姿勢を忘れない企画を継続してほしい。長い目でみると,経営面でもプラスになるはず。
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