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2019年12月08日17:02

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ヤノフスキ&ケルン放送交響楽団

【プログラム】
1 ベートーヴェン: 交響曲 第7番 イ長調 Op.92
2 シューベルト: 交響曲 第8番 ハ長調「ザ・グレイト」D944

管弦楽:WDRケルン放送交響楽団
指 揮:マレク・ヤノフスキ

2019年11月28日(木),19:00開演,札幌コンサートホール


ヤノフスキ&ケルン放送交響楽団の札幌公演を聴く。美味しい食事を心ゆくまで楽しんだ後のような満足感を味わうことができた。今年聴いたオーケストラの最良のコンサートのひとつであることは間違いない。もしかするとベストかも。

マレク・ヤノフスキはワルシャワ生まれの指揮者で,幼少時にドイツへ移り住み,音楽教育はドイツで受ける。フライブルクやドルトムントの歌劇場で音楽総監督を務める。ドルトムント時代にその芸術性が注目を集め,ヨーロッパの主要なオペラハウスから招かれるようになる。いわゆる,歌劇場で叩き上げたキャリアの持ち主。

ヤノフスキのそうした経歴が如実に伺える演奏だった。オペラの観客を挑発し扇動するような演奏に長けた指揮者である。テンポはやや早めで,フレーズの冒頭をかなり強めのアクセントで誇張する指揮スタイル。そうしたスタイルから個性的な疾走感と推進力が生まれる。力強い推進力が聴く者の内面を揺さぶり,知らぬ間に興奮の渦に巻き込まれてしまう。別の言い方をすると,ワーグナーの楽劇の指揮法をベートーヴェンやシューベルトの交響曲の指揮へ応用したともいえる。厳密にいえば,ベートーヴェンやシューベルトの作品を演奏するオーセンティックな指揮ではないのかもしれない。しかし,緻密で精妙な折り目正しい指揮では到底望み得ないエキサイティングなベートーヴェンとシューベルトだった。オペラハウスで積んだ経験を十二分に生かしたウィーン古典派と前期ロマン派作品の演奏といっていいだろう。

この日のプログラムは,ヤノフスキの強みを存分に生かす選曲であることにも注目すべきだろう。「酔っ払いが書いた音楽」と揶揄されたベートーヴェンの交響曲第7番は,ベルリオーズの指摘するとおり「リズムの権化」であり,変幻自在なリズムの変化で聴衆を酩酊状態に誘い込む交響曲だ。ヤノフスキとケルン放送響はあまり速いテンポは採らず,フレーズ冒頭のアクセントも若干控えめな,ややおとなしい演奏だった。しかし,演奏が始まって程なくして,このシンフォニーが潜在的に内包するアルコール成分がホールの隅々まで行き渡る。あざとい強調はなくても,このヤノフスキのフレージングがアルコールを発散させるのだろう。ほとんどの客は酩酊状態に陥り,第4楽章が終わったときには聴き手はほろ酔気分になっていた。指揮者はツボを押さえた演奏であれば,酔っ払いの音楽の要素をあまり強調しなくても,十分な演奏効果を挙げうることを熟知していたのだろう。いや,その方がより聴衆を酔わせることができると考えていたのかも知れない。

他方,シューベルトの「ザ・グレート」では来場者を煽る手練手管をヤノフスキは総動員する。悠揚迫らざるテンポとは正反対の古楽演奏が採用しそうなアップテンポの演奏。ひとつのフレーズが鳴り止まないうちに,次のフレーズが押し寄せてくる。アクセントもかなり強烈だ。この作品が崩壊する寸前までアクセントを強調しているようにさえきこえる。大胆にデフォルメされた「ザ・グレート」で,この作品が崩れ去る限界を試すような指揮だった。でも,その効果は抜群で,この交響曲のスケール大きさが的確に表現されていた。と同時に,シューベルトの交響曲の特徴も見事に再現さてれいて,息の長いメロディーの美しさには陶然となる。おそらく,テンポとアクセントで「ザ・グレート」のエッセンスが凝縮されたのだろう。この作品の演奏では,法に触れない薬物をホール内に散布したような効果がある。

ベートーヴェンの交響曲第7番とシューベルトの「ザ・グレート」が,共通の地盤の上に作られた巨大なスケールの作品であることを知らしめる効果も大きい。もちろん,ベートーヴェンとシューベルトの個性が深く刻印されているものの,聴く者を圧倒するようなスケールや堂々とした迫力という点では従兄弟のような関係にあるのかも知れないと気づく。

ヤノフスキはこのコンサートで聴衆を非日常の世界へ導き入れるため「アルコール」や「合法的な薬物」を使用したような魔法を使う。その魔法は指揮者がドイツの中堅歌劇場で学んだものだろう。もちろん,彼に魔法遣いの素質があったからこそ習得できたのだが。このコンサートを聴いて,国内のオーケストラや指揮者の多くに,魔法を自在に操るテクニックが欠けていることを痛感する。そもそも,オペラの魔法をコンサートで使うなど邪道だと考えているオケやマエストロもいるのではないだろうか。シンフォニー・コンサートが中心でオペラ公演が一般に根付いているとは言い難い現実を反映しているのだろうけれど。聴衆は音楽の面白さを知るため,演奏者は更なるステップアップを目指して,オペラに取り組まないといけない。
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