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2019年02月23日16:11

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札幌交響楽団 第615回 定期演奏会

【プログラム】 

1 モーツァルト: セレナード第6番 ニ長調 K.239「セレナータ・ノットゥルナ」
2 マ ル タ ン: 7つの管楽器とティンパニ,打楽器,弦楽器のための協奏曲
3 ブラームス: 交響曲第2番 ニ長調 Op.73

管弦楽:札幌交響楽団
指揮:マティアス・バーメルト

2019年1月26日(土)14:00開演,札幌コンサートホール


今シーズンから首席指揮者に就任したマティアス・バーメルトの真価が浸透し始めて,聴衆の支持が徐々に拡大しているようだ。1月の定期演奏会では,バーメルトに対する好意的な評価の理由が明らかになったのではなかろうか。

バーメルトは修行時代,ピエール・ブーレーズとカールハインツ・シュトックハウゼンから作曲を学んでいる。オーケストラを指揮するときも,ブーレーズなどからの影響が大きいのではないだろうかと1月て定期を聴いて思った。精緻でクールな演奏は地元の聴衆から支持されていて,オーケストラもバーメルトのようなタイプの指揮者を求めているのだろう。もちろん,古くからの札響ファンの中には,このタイプの指揮者にソッポを向く人たちもいるはず。とはいえ,定期会員の世代交代が喫緊の課題に浮上している現在,オールド・ファンの名曲至上主義に付き合っていては新陳代謝が停滞するのは明らかで,聴衆は先細りする一方になりかねない。また,新しい団員の加入などで進境著しい札響も,次なるステージを目指すためにはバーメルトのようなタイプの指揮者の謦咳に接することが不可欠なのだろう。オーケストラの生命線がアンサンブルにあるとすれば,バーメルトの棒のもとでそれを鍛え直すことは,このオケのステップアップに有用なことは間違いなしだ。

さて,1月定期演奏会の前半は,事実上,2種類のコンチェルト・グロッソから成る。1曲目の独奏群は弦楽器で2曲目は管楽器。どちらの曲も機会音楽風の遊び心があって親しみ易い点も共通している。

正確にいうと,モーツァルトの「セレナータ・ノットゥルナ」は合奏協奏曲ではない。だが,オーケストラを2群の小オーケストラに分け,それにティンパニが加わる編成で,楽曲の形式はともかく,実際の演奏上はヴァイオリン2,ヴィオラ,コントラバスがコンチェルティーノでその他はリピエーノの機能分担で曲は展開する。1776年に作曲された「セレナータ・ノットゥルナ」はその年の謝肉祭のために作曲された。バーメルトと札響はウィーン古典派の音楽を世紀末の新ウィーン楽派のようなスタイルで演奏した。クールでありかつ精緻で透明極まりない演奏である。それと同時に,ヴァイオリン2,ヴィオラ,コントラバスからなるコンチェルティーノは,アンサンブルのときもソロのときも各奏者のヴィルトゥオージティが存分に発揮された快演であり,マエストロの要求に奏者の側から積極的に応じる姿勢は明白だ。

マルタンの「7つの管楽器とティンパニ,打楽器,弦楽器のための協奏曲」は1949年にベルン管弦楽団からの委嘱で書かれた作品。この作品こそコンチェルト・グロッソの伝統を継承する音楽で,フルート,オーボエ,クラリネット,ホルン,ファゴット,トランペット,トロンボーンそれにティンパニからなるコンチェルティーノが活躍する作品だ。急ー緩ー急の典型的な3楽章構成の作品で,コンチェルト・グロッソの音楽形式と独奏管楽器の斬新な書法が調和する仕掛けが用意されている。マルタンが聴き取った管楽器それぞれの固有の響きが生かされ,楽器奏者の技量を発揮せしめるような書法が目立つ。この作品も謹厳実直な絶対音楽というより,20世紀のコンチェルト・グロッソにふさわしく,各独奏の超絶技巧を存分に楽しめるとともに,半音階を巧みに織り交ぜた近代的な音感覚も面白い作品である。

バーメルトが定期演奏会でこれら2曲を取り上げた意図は明らかで,札響の首席奏者たちの演奏技巧の高さを聴衆に印象づけようという狙いである。それほど馴染みのある作品ではないにもかかわらず,多くの聴衆は独奏者たちの技巧に感銘を受け,それをサポートするリピエーノの的確な演奏にも大きな拍手が送られていた。

一転して,ブラームスの交響曲第2番ではオーケストラ全体が演奏の主役の躍り出る。しかも,ブーレーズばりの精緻極まりない演奏で。この曲では内声部のスコアが目に浮かぶようにごく自然に描かれる。なので主旋律が各声部へ受け渡しされていく様子が,聴いていても手に取るように分かる楽しさがある。楽曲の構造が透し彫りになったような演奏を聴くというのも音楽を聴く醍醐味であり,そういう聴衆の願いを叶えてくれる演奏だ。ステージ上でもオーケストラのメンバーが嬉々として弾いている様子が見て取れる。演奏する側にとっても,こうしたやり方で演奏するのは楽しいことなのだろう。演奏が終わった後に,団員たちが見せた半ば上気したような表情が彼らの充実感を物語る。もちろん会場に詰めかけた音楽好きの拍手にも熱がこもる。ひとり冷静を装おうマエストロの様子からも充実感がにじみ出ていた。

1月定期演奏会の客の入りは,たしかに少し寂しさを感じさせる。冬の真っ最中ということもあり,また「セレナータ・ノットゥルナ」やマルタンの作品を取り上げるプログラムのせいもあって,二の足を踏んだオールド・ファンが多かったのではなかろうか。しかし,このような内容的に充実した演奏を続けることで,この種の壁は乗り越えることができるのではないだろうか。集客のセオリーは有って無いようなものだが,長期的にはクオリティーの高い演奏を継続することで,必ずやより多くの音楽が好きな人たちを惹きつけることができるはずである。そのことが可能になる陣立てが札響の定期演奏会で整ったことを示唆する1月定期だった。
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