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2019年01月19日16:06

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ドビュッシー: 3つのソナタ・後期作品集(Les Trois Sonates, The late Works)

【収録曲】
 クロード・ドビュッシー
1 ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ト短調(1917)
  イザベル・ファウスト(Vn)ストラディヴァリウス「スリーピング・ビューティ」
  アレクサンドル・メルニコフ(Pf)

2 英雄の子守唄-ベルギー国王アルベール1世陛下とその兵士たちをたたえて(1914)
3 アルバムのページ(負傷者の服のための小品)(1915)
  タンギ・ド・ヴィリアンクール(Pf)

4 フルート,ヴィオラとハープのためのソナタ ヘ長調(1915)
  マガリ・モニエ(Fl)1880年,ルイ・ロット
  アントワーヌ・タメスティ(Vl)ストラディヴァリウス「マーラー」,1672年
  グザヴィエ・ド・メストレ(Hp)エラール社製,19世紀末のルイ16世スタイル

5 エレジー(1915)
  タンギ・ド・ヴィリアンクール(Pf)

6 チェロとピアノのためのソナタ ニ短調(1915)
  ジャン=ギアン・ケラス(Vc)
  ハヴィエル・ペリアネス(Pf)
  
7 燃える炭火に照らされた夕べ(1917)
  タンギ・ド・ヴィリアンクール(Pf)

録音: 2016年12月,2017年12月,2018年1-2月
     ベルリン,テルデックス・スタジオ(1-3,5-7)
    2017年6月,パリ,シテ・ド・ラ・ミュジーク(4)
 Harmonia Mundi: HMM902303(セッション)


ドビュッシーは,晩年異なる楽器の組み合わせによる6つのソナタを作曲するという構想を温めていた。だが,このアルバムの収められた3曲のソナタを書き上げた1918年に逝去してしまう。

2018年はドビュッシー没後100年。ハルモニア・ムンディがドビュッシー・イヤーにリリースした,ファウスト,メルニコフ,メストレ,ケラスら超豪華アーティストによる作曲家最晩年の室内楽作品集。

ドビュッシーを古楽で演奏したかのような渋い演奏。印象派の絵画というより水墨画の趣がただよう。しかも見れば見るほど味わいが深くなる超一級品の水墨画だ。

どの作品の演奏もくっきりとした輪郭をもつ造形ではない。主題と背景との境目は曖昧で,両者はひとつながりになっているようにもみえる。しかし,それにもかかわらず,いや,それだからこそ対象物の手応えが伝わってくる。音楽のテーマが背景と一体化したまま浮かびあがってくる。どの作品の演奏でもニュアンスの込め方が精妙で,そのデリカシーあふれる演奏はその道の第一人者が揃ったからこそ実現したといえる。

演奏者全員がフランス人ではないにしても,フランス的な精神が支配するアルバムであることは間違いない。きわめて繊細であると同時に,限りなく明晰な演奏でもある。微妙なニュアンスを切り落としてしまった明快さとは異なり,音と音との繊細な関係を精確に捉え得たからこそ可能になる明晰さが,このCDに収められた演奏の基調である。これほど音符と音符,フレーズとフレーズ,旋律と旋律との関係を精確極まりなく捉え,そしてそれをニュアンス豊かに表現できるのは卓越した才能の持ち主だけに許された特権だろう。

さらに,渋さとニュアンスの豊かさとが共存する演奏が可能となったのは,このCDに登場する演奏家の音楽的な才能ばかりでなく,彼らが使用する楽器にも大いに関係がある。ファウストの「スリーピング・ビューティ」やタメスティの「マーラー」は古くから伝わる名器であり,モニエのフルート,メストレのハープは近代の古楽器といって差し支えなかろう。このアルバムを聴くと,グザヴィエ・ロト&レ・シエクルが求める響きを意識していることがよくわかる。古楽演奏がもう一つ新しい段階に進んだ成果の一つと考えることもできる。演奏家がこれまでと違う響きを手に入れ,そのことで表現の幅が広がるのは歓迎できる。

こうしたことを可能にしたのは,何千人も収容する大ホールに以外にも室内楽向けの親密な空間で音楽を楽しめるようになった事情も大きいのではなかろうか。いわゆるモダン楽器でバリバリ弾く演奏スタイルで,すべてのことをやり尽くした結果,演奏家たちが楽譜から読み取った音楽を表現するには方向転換が必要だと気付いたのだろう。古楽器のスペシャリストばかりでなく,日頃からモダン楽器で演奏するアーティストたちも古楽が提起する問題に向き合うようになったことの証のようでもある。

ドビュッシーが残したソナタを聴くのは,長い間の課題だった。この作曲家が晩年に到達した境地から,その後の音楽の展開に繋がる何かを垣間見ることができるかもしれないという予感があった。また,ドビュッシがそもそも何を目指していたのかを知る糸口にもなりうるとも思った。より端的には,ドビュッシーとメシアンをはじめとするフランス現代作品との関係を具体的に探りたかった。この録音のように当時の状況がより具象化されたような古楽風の演奏というチャンネルを通じて,両者の関係を探る方法もあることを教えられる。モダン楽器の演奏は抽象度が高く,古楽器による演奏には往時の空気も再現可能な雰囲気がある。
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