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2020年02月07日10:55

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精神医学に関する一私見

人は、生まれた時は、周囲の手厚い庇護を必要とする、か弱い存在だ。

だから、強気の自分を、作り上げていく必要がある。

それが成功してきたら、弱気の自分が顔を出すことも段々なくなっていくだろう。

強そうに見える人は、一見強そうだから、怖そうなあんちゃん風に見えるから誰も怖くて言いたくてもおっかなくて言えないから怖いままだけど、怖そうな人に見えるから言ったら怒り出すのかと思いきや、意外にも言われたら大ダメージを受けて、鈍感力の源泉たる肥大した自己愛は急にぺしゃんこになって、潜在していた感じやすさが露呈して、メンヘラみたいになった、という場面を、僕は目撃したことがある。

メンヘラみたいになるというのはもちろん、私に存在意義はないなどと、境界性パーソナリティ障害の女の子のようなことを、言い出す、ということだ。

つまり、健常者は、自己愛性パーソナリティ障害の要素を前面に出していることによって、境界性パーソナリティ障害の要素を、後ろに隠している。

健常者として働いて生きていけている人というのは、強そうに見せているだけで、じつは内心には繊細な感受性を隠し持っていて、隠し持っている弱さを、秘密にしているだけなのだ。

その内心に秘密を隠し持っていることが耐え難い正直者が本物のメンヘラである。

表に現わしているものによって裏に隠しているものがあるという二重構造こそ、正常な人間の正常な在り方で、このような、二重性にこそ、正常性はある。

メンヘラとは、このような自己愛性と境界性の二重性を体現することが困難な者のことだ。

メンヘラにとっては、自己愛性だけか、境界性だけか、どちらか一つでしかありえないのだ。

メンヘラが健常者たちを真似て図太くなろうとしたら自己愛性の要素だけがすべてになってしまい、ただのサイコパスになってしまうけれど、健常者のように、図太そうに見えて、じつは図太くなさも兼ね備えていて、裏に人の痛みが分かる繊細な感受性を隠し持っていて、裏に裏打ちされて、初めて、可能になる、優しさだったり誰かを思いやる心だったり表面上の愛想でない内心から滲み出る温かさだったり、そういう肝心なものに、メンヘラにとっては出たり入ったりして見えたり見えなくなったり手品を見せられているようで種明かしされることのない、本当の真心のからくりに、じつは、健常者たちは、気付いている。

心と心が共鳴し合うレベルで知っている。

なぜだろうか。

フロイトの心的装置論で、以下に説明しよう。

意識と無意識という二極端があって、その中間に、前意識というもう一つがある、というふうに、フロイトは、心を、三つに、分けて、議論している。

メンヘラというのは、念頭を占めている意識上の心的内容を、前意識という頭の片隅に置いておこうとすれば、無意識という忘却の彼方に追い払ってしまう。

意識と前意識という二重性を、さっき正常性と呼んだわけだけど、このように、前意識に心的内容を留め置くことができなくて、意識から排除されたものが留め置かれるべきところである前意識をかすめて通り過ぎて無意識という忘却の彼方に追い払われてしまうところに、メンヘラの本質はある、と言えよう。

哲学者ニーチェは、メンヘラだった。

メンヘラだからこそ怨念まみれになる。

健常者であれば、人知れず泣くことによって誰にも恨みを持つことなく生きていけるのだけど、泣くというのは、自己愛性と境界性の要素を兼ね備えている健常者にとっては、もちろん人前では自己愛性のキャラを演じ切っていて泣かなくても、人知れず境界性の要素に立ち帰って、泣くことができる。

ニーチェは、自己愛性のみの人だったからこそ、他者たちへの恨みを募らせていって、怨念まみれの人間になっていったのだ。

ただし、ニーチェは、俺は泣くことはできる、と言っていた。

俺は、泣こうとすれば泣ける、強者だから泣かないだけだ、と。

そのような、ニーチェは、街路で荷馬車に繋がれて鞭打たれていた馬を見て、同情を禁じ得なくて、駆け寄って馬を抱き締めて泣き崩れた時に、発狂して、二度と、正気へと這い上がって来ることはできなかった。

健常者というのは、ニーチェのような、どっちかの極端に振り子が振り切れることしかできない者ではなく、泣かないままで泣くことができる。

心は泣いていても顔は泣いていないのである。

このような、泣かないままで泣くという二重性にこそ、正常性はある。

ちょっと難解な話になったかもしれないけれど、ニーチェが体を張って教えてくれたことは、きっとそういうことだ。

仏教の説く、慈悲というのは、他の人たちを慈しめるためには自分が悲しめる必要がある、ということだ。
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