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2020年07月01日22:08

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初めてのお使い、もとい戦い

先日オールギャザーという零細(?)SNSでmixiにも投稿したウルトラマンゼロのリレー小説の最新話を投稿したら、残念侵略者ポンポス星人に随分とウケて下さった方がおられましたので、彼らの黒星で埋め尽くされた戦績の記念すべき初回の様子をご紹介することにしました。こちらでもかなり前のことになりましたので、ついでにアップさせていただきます(苦笑)


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 居住階へ降りるエレベーター内にほっとしたような、そのくせ気まずいような固い雰囲気が漂うのをサヤは感じていた。それは彼女の正面でエレベーターの通過階表示を見つめる倉澤チーフの横顔に浮かぶ得もいわれぬ表情に起因していた。同じものが自分の顔にも浮かんでいるのを、サヤもまた自覚していた。
 すべてはタカフミの何気ない一言がそれと知らずに呼び起こした記憶のせいだった。侵略者ポンポス星人との初めての戦いは、他の侵略者たちとの戦いとはあまりにもかけ離れたものだったのだ。



 数年前、発足したばかりのB・i・R・Dジャパンにいたのは真柴リーダーと倉澤チーフに自分の3人だけであり、配備された3人乗り重戦闘機イカロスも旧式機にすぎなかった。自分たちはその機体に命を預け、幾度となく死線をくぐり抜けてきたのだ。だが、むしろその経験ゆえに、彼らはいま目の当たりにしている敵の姿に当惑を隠せずにいたのだった。

 図体だけは50メートル近い怪獣並の大きさで、ゴミ処分場の広大な埋立て地を踏みしめて立つ巨大ロボット。だがその巨体を構成しているのは明らかに周囲に散らばるのと同じ各種のガラクタだ。のみならず、それが身じろぎしただけで各部からパーツがこぼれ落ち、踏み出した足からも外装が剥がれ落ちた。どうやらそれは冷蔵庫の扉を寄せ集めたものらしかった。そのとき壊れたスピーカーのびりつく音で、こんなやりとりが聞こえてきた。

>なんだこれは! 動くだけで部品が落ちるではないかっ<
>で、ですからボース様、地球で手に入る材料を使う限りこれが精一杯だと申し上げたではないですか!<
「いや、技術力にもそうとう問題があると思いますよ」
「……いちおう降伏勧告だけはしておくわ」
 倉澤チーフが小声ながらも入れたツッコミに気を取り直したのか、真柴リーダーが咳払いして声を整える。

「そこの侵略者に告ぐ。私はB・i・R・Dジャパン号令の真柴月夜。命が惜しくば無駄な抵抗をやめて降伏しなさい」
 たちまち相手も歪みだらけの音で怒鳴り返してくる。
>やかましい! ワシはポンプ座ポンポス星侵略部隊のボース。ちょっとばかり勝手は違うが、わがポンポスの科学力に不可能はない。食らえロケットパーンチっ!<
 とたんに怪ロボットが突き出す両の手首から派手に火花と煙が吹き出すが、3人の目は瞬時にその正体を見破っていた。
「花火ですね……」
 頭痛でも起こしたらしきチーフが額を押さえて呻いたとたん、腕からせり出した手首が宙を飛……ばずにそのまま地面に落下する。呆れ返った声でサヤに指示する真柴リーダー。
「ガトリング砲で一連射。それで十分ね。相手が脱出したら威嚇射撃でもしてあげて」「……ラジャー」
 そのわずか一撃で、自壊しつつあった巨大ロボットはたちまち瓦解し文字どおりスクラップの山と化す。這々の体で這いだしてきた乗組員5人の頭上高くを火線が疾るや、大げさな悲鳴をあげ驚くべき素早さで逃げ出す宇宙人たち。

「帰投します」
 ゴキブリみたいだわと思いつつ切ろうとした舵が突然ロックされ、驚いて振り向いたサヤは信じがたいものを見た。背後の席で操縦桿を握る真柴リーダーの目に異様な光がたぎっているのだ。そして吊り上がった唇が漏らす想像を絶するその言葉!
「やっと本気になったのね! ならば相手をしてあげるわっ」
「えっ」「り、リーダー?」
 突然のことにチーフもサヤも絶句した瞬間、体にかかる強烈なG! 対怪獣戦を想定した重装備の頑丈な戦闘機が翼が軋むのもかまわずアクロバット機さながらの急旋回で反転するや、広大なゴミ捨て場を駆けてゆく宇宙人たちの背後を捕捉し砲門を開いたのだ。嵐のごときガトリング砲の斉射やレーザービームの乱射に加え、つるべ撃ちのホーミングミサイルまでもがまごうかたなき殺気を乗せ、ろくに身を隠すこともできぬ人間大の生き物たちを急襲する。炎と爆煙で視界もままならぬ地上から、にもかかわらずモニターの彼方からさえ聞こえる悲鳴また悲鳴の阿鼻叫喚! そんな火炎地獄のただ中を縦横に駆けめぐる小さな標的を酷薄な笑みさえ浮かべつつ、悲鳴すらあげる機体を駆り立て追いつめる様はまさに鋼鉄の天馬を鞭打つ黒きワルキューレ!

 だが宇宙人たちの脚力もただごとではなかった。もはや地球人の姿すらかなぐり捨てた昆虫人間たちの動きはチーフやサヤの動体視力でさえ追い難いものとなり、神業とさえいうべき正確さで襲いかかるあらゆる攻撃を紙一重で躱し続けた。そしてさしもの重戦闘機がついに全弾を撃ち尽くしたとき、5つの影は地形すら一変した埋立て地を地平線めざして走り去っていったのだ。その姿を半ば呆然と見送るサヤの耳に、そのとき届く満足げな声。
「この私から逃れるなんて逃げ足だけは凄いじゃない。ポンポス星人とやら、あなたたちの本気しかと見せてもらったわ」
 そんな隊長に、倉澤チーフがおずおずと言葉をかける。
「……まさか、ほんとうに本気だったんですか?」
「そうよ。当たり前じゃない」
 不思議そうでさえあるその様子に、思わず大声を出してしまうサヤ。
「で、でもリーダー! なにもあそこまでっ」
「甘いわよ、サヤ」

 そういうとやおら視線をいまだ煙の立ち登る眼下の焦土に転じつつ、仮借なき女隊長は言葉を継ぐ。
「考えてもみて。彼らはこの地球を侵略するため、遙かな銀河を越えてまでやってきたのよ。相手がそれほど本気なら、こちらも本気で応えなければ礼を失する。そう思わない?」
 風防のガラスに映る赤いルージュの口角が浮かべる凄みのある笑みを見たとたん、数多の死線をくぐり抜けた戦士としての勘が告げる。自分はいま、断じて敵に回してはならぬ存在を目にしているのだと!



 ふと気配を覚え目を上げたサヤに、倉澤チーフがそっと耳打ちをした。
「……この世には知らないほうが幸せなことも、知ってはならぬこともあります。あのことは他のメンバーには決して知られないように」
 サヤが頷き返事をしようとしたときエレベーターの扉が開き、チーフは足早に去っていった。その後ろ姿が曲がり角の向こうに消えたとき、彼女もまた脳裏から忌むべき記憶を振り払いつつ、自室めざして歩み去るのだった。

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