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2020年04月03日17:06

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『白星の魔女』第30話 〜アルデガン外伝8〜

第三の野営:風渡る岐路にて その十一

「狼が来るぞ! みな馬車へ」
 焦りつつもそう叫ぶや火炎弾を乱射するグロス。だが散開した狼に狙いが定まらず、いっそう群れが広がってしまう。唇を咬み馬車の一団を守るべく炎の帯で囲い込む白衣の神官! だが馬車から離れていたせいで自身は外に取り残されてしまう。我が身へ殺到する狼に覚悟を決めるや真正面から火弾を続けざまに叩き込むと、さすが狙いはあやまたず幾匹もが顔面を焼かれ悲鳴と共に倒れ伏し、さしもの餓狼どもも足が鈍る。ここぞとばかり攻めんとしたグロスの耳に、そのとき届く子供の泣き声!
「なっ」
 思わず首を巡らすや、あたかも視線に導かれるように狼どもが横へと疾り炎のすぐ外に取り残された小さな姿に跳びかかる!
「やめよぉおーーっ」
 絶叫しつつ追い縋るや群がる狼を錫杖で殴り突き刺し、小さな足に食らいついた一匹の脳天を砕かんばかりに打ち据える白衣の神官。だが意識のない小さな体をもぎ放すグロスに猛る獸どもは逆襲し、何匹もが白衣の裾ごと脚に食らいついてくる。とっさに自らに防護魔法をかけようとするが、噛み砕かれた子供の脚から溢れる大量の血に治癒魔法へ切り替えた瞬間、群がる敵に地面へ引き倒されてしまう! 大技の数々に消耗した魔力を法衣の強化に注ぎ込み、グロスは意識の戻らぬ小さな体に覆い被さるや絶叫する。
「助けてくれ! 子供がおるのだ!」

 だが狼狽する気配ばかりで炎の壁を越える者はなく、男どもがみな戦いに出向いたことを思い出したグロスが子供の脚に最後の魔力を注ぐ瞬間も、強度を増したとはいえ布地にすぎぬ神官着を食い破らんと食らいついてくる牙また牙。だぶつきを寄せた首や頭を、地に伏せた脚を執拗に攻める狼どもに守り一方の神官にはもはや打つ手なく、いずれ術が効力を失うことを知りつつ伏しているしかすべがなかった。心が折れそうになったそのとき、だが抱き込んだ小さな体が身じろぎしたことに気づいたグロスの胸に再び決意が燃え上がる。

「案ずるな。そなたはなにがなんでも渡さぬ!」
 それだけいうとグロスはあえて知覚や意識を手放し手足にただ力を込めた。永劫ともまがう時の果て、ついに我が身に牙が届き始めても最後まで耐え続けられるよう。そんな神官にはもはや、いかな光も音も届かなかった。


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