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2020年03月29日19:11

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古典の磁場の中で:その20 モノラル音源追加分

 では今回はクレンペラーの旧録音をSP〜モノラル時代の盤の中に置いてみましょう。前回この時期の盤について比較した後にロジンスキー/シカゴSO盤とボールト/ロンドンPO盤を入手していますので、それらも含め年代順に列挙します。

ワインガルトナー/旧ロイヤルPO(1929年)SP
12:20/04:13/08:16/08:51
計33:40 序奏2:40(21.6%)
(36.6%・12.5%・24.6%・26.3%)

ミトロプーロス/ミネアポリスSO(1941年)SP
11:15/03:45/09:33/07:19
計31:52 序奏3:07(27.7%)
(35.3%・11.8%・30.0%・22.9%)

ロジンスキー/シカゴSO(1947年)SP
12:47/04:00/08:34/08:13
計33:34 序奏3:39(28:6%)
(38.1%・11.9%・25.5%・24.5%)

クレンペラー/ウィーンSO(1950年)モノラル
15:55/04:12/08:08/09:48
計38:03(反復あり)
(41.8%・11.0%・21.4%・25.8%)
12:39/04:12/08:08/09:48
計34:47(反復除外)序奏2:47(22.0%)
(36.3%・12.1%・23.4%・28.2%)

スタインバーグ/ピッツバーグSO(1952年)モノラル
12:07/04:12/08:43/08:46
計33:48 序奏2:58(24.5%)
(35.9%・12.4%・25.8%・25.9%)

クレツキ/イスラエルPO(1954年)モノラル
13:17/04:18/10:13/10:15
計38:03 序奏3:17(24.7%)
(34.9%・11.3%・26.9%・26.9%)

ボールト/ロンドンPO(1954年)モノラル
11:10/04:02/06:59/08:32
計30:43 序奏2:22(21.2%)
(36.4%・13.1%・22.7%・27.8%)

 こうしてみると意外なことに、クレンペラーの旧盤はこの時期の演奏としては突出した要素が最も少ない、中庸といってもいい存在だったことがわかります。後年ますます顕著になっていった度外れたテンポの遅さもまだ生じていなかったこの時期の彼は、生涯を通じて示していたアンチ・ロマンの傾向ともあいまって、陶酔型とは真逆の冷徹なリアリストとしての視線をも感じさせるバランス感覚に秀でた演奏をここで聴かせているのです。それがさらに顕著に感じられるのが併録された「イタリア」で、そこで彼が聴かせているのはこの曲のイメージとして誰もが感じる爽快さを颯爽としたテンポで描き出しつつも、むしろ楽章ごとの差を抑えつつ、全曲を通じたひとつの流れを打ち出すことに腐心している姿勢です。それは極端にテンポが落ちていったステレオ時代には頑強なまでの個性の発露として感じられるようになってゆくものですが、ここではそれがアンサンブル面の危うさを免れない演奏であるにもかかわらず、ある種の安定感をもたらしてもいるのです。それはおそらく曲ごとの特質に応じた解釈というより、テクニシャンではなかったクレンペラーが自らの手法として身につけていった彼なりの指揮の秘訣というべきもので、それゆえに体が自由に動かせなくなっていった後年も彼はその秘訣を手放せなかったのだと今にして思うのです。その意味でテンポの遅さとあいまった後年の唯一無二としかいいようのないスタイルは彼が心から望んだものではなかったのかもしれないと、この旧録音を聴いたことでしみじみと感じたのでした。

 それにしてもここに見るこれらの演奏の解釈やスタイルの幅の大きさは大変なもので、この曲における共通認識などなかったのだろうと感じざるをえません。全曲の統一感などかなぐり捨てて第3楽章とそれ以外の楽章のコントラストを極限まで強調したミトロプーロス。そんな彼とは正反対に誰よりも速い7分を切った最速テンポで第3楽章を、ひいては全曲を歌いきったボールト。そのきりっとした歌い口は曲線的なワインガルトナーとも正反対ですし、そんな両者の中間的なスタインバーグにもそのどちらとも異なるみずみずしさが刻印されています。そしてロジンスキーとクレツキには後のステレオ時代に主流となってゆく後期ロマン派的な解釈をこの曲に持ち込もうとする試みがそれぞれ始まっていたことも、SP末期からLP初期にかけてかなりの水準にまで高められた再生音が如実に示してくれてもいるのです。
 音楽学どころでない時代に大戦に翻弄される中で音楽と身一つで向き合っていた先人たちの息吹の響き、そんな生々しささえも留めうる録音というものの素晴らしさ!


その21 →
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← 「クレンペラーとメンデルスゾーンによる」『スコットランド交響曲』旧録音
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