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2018年06月24日05:05

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古典の磁場の中で:その15 2つの再録音を比べて

 今回はマズアとドホナーニによる「スコットランド」の再録音についてです。


マズア/ゲヴァントハウスO(1987年)
14:38/04:18/09:25/09:30
計37:51(反復あり)
(38.7%・11.3%・24.9%・25.1%)
12:08/04:18/09:25/09:30
計35:21(反復除外)序奏2:37(21.6%)
(34.3%・12.2%・26.6%・26.9%)

マズア/ゲヴァントハウスO(1972年)
13:23/04:25/08:08/10:16
計36:12 序奏2:46(20.7%)
(37.0%・12.2%・22.5%・28.3%)


C・ドホナーニ/クリーブランドO(1988年)
12:30/04:22/08:18/08:54
計34:04 序奏3:16(26.1%)
(36.7%・12.8%・24.4%・26.1%)

C・ドホナーニ/ウィーンPO(1976年)
13:24/04:30/09:23/09:24)
計36:41 序奏3:34(26.6%)
(36.5%・12.3%・25.6%・25.6%)


 70年代に最初の録音を行い80年代に再録音という点で共通するこの2人ですが、テンポ設定に注目するとマズアが旧盤から大きく変更しているのに対し、ドホナーニは明らかに同じ解釈に立脚しているのが見て取れます。ドホナーニの場合、特に第1、第2楽章は実時間で数秒の違いしかなく、誤差の範囲に留まっています。違いは後半楽章で、第3楽章を以前より速く、第4楽章をより遅くすることでむしろフィナーレのほうが演奏時間が長くなっています。旧録音とオケが異なるドホナーニの再録音では、自身の意図を徹底できる手兵の起用に伴う完成度の引き上げが狙いとみなすことができそうです。
 それに対し、同じオケと全5曲を再録音したマズアにおいてはペース配分が完全に別物になっています。「スコットランド」を再録音した指揮者は3回録音したマークを筆頭に何人かいるわけですが、ここまで大幅に解釈を変えた例はシャイーくらいです。そしてシャイーと比較すればロマンティックな旧録音から粘りを抑えた再録音という方向性が共通していることも印象的で、結果的にマズアの新盤は解釈面でドホナーニに近づいているのも興味深いところです。
 ただシャイーが旧録音において、ほとんどワーグナー的な息の長い音楽として演奏していたのに対し、マズアの旧録音は第3楽章を70年代という時期からすれば異例の速さで演奏していて、荘重ではあっても粘ることは退けていたのが痛感されることでもあって、外面的な解釈が大きく変わったにもかかわらず、粘りを忌避する傾向が一貫していたことに改めて気づかされるのです。シャイーがメンデルスゾーンを以後の音楽との繋がりに注目して演奏するため必要とあらばロマンチックな装いを与えることをも辞さなかったのに対し、マズアは彼にとってのメンデルスゾーンのテイストのようなものは守ろうとしていたようにも思えます。旧録音においてテンポの比率がクレンペラーそっくりであるにもかかわらず、基本テンポの速さゆえに全体的な印象は全く異なるものになっていたように、再録音では後の時代に一般的なものになってゆく解釈にかなり早い段階でチェンジしつつもドホナーニのような造形や洗練の徹底にまでは追い込んでゆかないところも目につくのです。こだわらない、徹底させないという彼の流儀と呼ぶべきなのかどうか判然としませんが、コアな部分で作曲家の持ち味を押さえつつもそれを自分の中で一つの型にまでは育ててゆかない。そこがドホナーニと最も異なる点ですし、そのことがシャイーほど考えてやっているわけではなさそうに見えることもある意味この人の特長とみなせるのかもしれません。
 マズアという指揮者はクラシック愛好家から個性的との評判を得たことがありませんでしたし、解釈面でも完成度の点でも強い印象を残さない彼の演奏は今後ますます話題に登らなくなりそうです。けれど演奏様式の変革点を迎えていたこの時期にマズアが遺した2つの全集はいささか掴み所のないこの指揮者についての手がかりの一つとも感じますし、良くも悪くも作品に下駄を履かせないというか、実質以上に優れたものに見せようとしない彼の演奏ぶりはとりわけブルックナー全集において、なぜその音楽が理解されるのに時を要したかを実感させるという点でかけがえのないものとさえ今の僕には思えるのです。手がける曲にナイーブな接し方ができた指揮者だったと今にして嘆じるばかりです。


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