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2021年07月19日10:32

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詩「嘆きの壁」


 下記の詩は、昨日、ある詩の合評会に提出した作品です。
 コロナ禍の中多くのひとびとが苦しみや悲しみを抱えて
過ごしていると思います。
 そういうひとびとの鬱屈した思いをすこしでも癒すことができたら
嬉しいと思って書いた詩です。
 ご覧くだされば幸いです。

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   嘆きの壁

        南原充士

はるばるやってきた巨大な壁
名もない壁だけれども
知る人ぞ知る壁

ここではだれも言葉を交わさない
黙って佇んで
祈りを捧げるだけだ

地図にも載っていないが
口づてに伝わり
人けが絶えることはない

心にはめいめいが
収まりきれない悲しみを
かかえているらしい

曇った空から
ぽつりぽつり雨が落ちてくる
土砂降りになっても帰らない

だれにも居場所はないから
壁にやってくるのだろう
ここから迷路に迷い込むとしても

ここで斃れるとしても
立ち尽くす生者の思いに
無数の死者の思いが共鳴する

夜通し雨が降り続き
ずぶぬれになったまま
無声の合唱を歌い続けたのち

気が付けば
朝明けの中を静かに
去っていく人影が見える

小鳥のさえずりが
嘆きの壁にこだまする
強風が木々の枝を揺らす

ひとり去り
ひとりがやってくる
分からないぐらいの目礼を交わす

幼い子供を見かけたとき
ふと心の靄が晴れたような気がした
解けない謎はあっても

たとえ壁が崩れたとしても
どこかに記憶のかけらが残るだろう
地下深く埋まっても

精密なセンサーが探り当てるだろう
名もない合唱団の聖歌が
喜びさえ伝えようとしたことを

今古びた壁はたしかに聳え立っている
ここを去る前にじっと見ようとすると
幻のように消え去りそうで怖くなる

ここからはなぜか遠くが見えない
ただ小さな竜巻の中に浮かぶように
来る者も去る者もふいに現れて消える嘆きの壁






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