その手を動かすのは天使か悪魔か。
ジョアン・カルロス・マルティンスの演奏が神の領域に到達しかかると、すごい力で引き戻され、その結果、ストイックではない無謀な性格となり、自業自得の怪我を負って絶望の淵へ近づいていく。それでもまた、血みどろになって音楽へ立ち戻っていこうとするのが超一流の芸術家である証なのだろうけれど、私にはその執念が非常に悪魔的に感じられた。マルティンスを突き動かしているのは天使ではなく悪魔なのだろう。だから神は彼を拒むのだ。
この映画は「感動の実話」となっているが、すべてが実話というわけではない(もしすべてが実話ならドキュメンタリーになるはずだ)。何を信じ、何を信じないかは鑑賞者に委ねられる。クリエイティブな職業の人は少なからずぶっ飛んだところがないと大成しないことは理解しているが、私は映画の中のマルティンスの生き方はまったく好きになれなかった。そして、マルティンスは「20世紀もっとも偉大なバッハの奏者」であり、日本での映画のタイトルも「マイ・バッハ」となっているが、バッハの精神性のどのようなところにマルティンスが感銘あるいは衝撃を受けたのかも分からなかった。
だからだろうか、音楽にも感動しなかった。映画で演奏される音楽はすべてマルティンスの演奏によるもの。録音技術、演奏環境、楽器の個性があるので、良い悪いではなく単純に相性の問題なのだが、音楽系の映画を見に行って音楽に感動しないというのは非常に残念だ。バッハ奏者、「マイ・バッハ」でありながら、印象深いシーンであるはずのBGMがショパンなのも不満。
マルティンスの演奏を生で聴く機会があれば印象は変わるかもしれないが・・・。
監督:マウロ・リマ
ジョアン・カルロス・マルティンス(壮年期):アレクサンドロ・ネロ
ジョアン・カルロス・マルティンス(青年期):ロドリゴ・パンドルフ
ジョアン・カルロス・マルティンス(少年期):ダヴィ・カンポロンゴ
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