鑑賞したオペラを自分の中で評価するとき、ルチアーノ・パヴァロッティの声が基準の 1つとなっていることは間違いない。パヴァロッティが正しいとか、パヴァロッティの 声が好きだというようなことではなく、「3大テノール」などで商業的に成功したため にいろいろなところでパヴァロッティの声を耳にすることがあり、「テノールといえば パヴァロッティ」という図式が頭の中に出来上がってしまっているからだ。
では、パヴァロッティは私にとっての理想のテノールなのか? それを確かめたくて映 画館へ足を運んだ。
女性にとってはソプラノ、男性にとってはバリトンが自然な声なのだそうだ。テノールは自然な声ではない、だが、それを自然な声のように発して歌うことができるのがテノール歌手ということらしい。そして、テノール歌手として世界的に有名になり、それを維持するために、パヴァロッティは血のにじむような努力をしているはずなのだが・・・映画ではあまり触れておらず、天賦の才と強運に恵まれ、自分の気持ちに忠実で甘え上手な側面が印象的に伝わるような作品になっているように思えた。
印象深かった言葉が2つある。
1つはパヴァロッティ自身が語っていた「自分が信じていることしか歌えない」という言葉。そしてもう1つはU2のボノによる「歌手は自分の今までの人生全てを歌にぶつけている」という言葉だ。
パヴァロッティが人生の後半に歌っていたアリア「衣装をつけろ」は、最盛期の輝かしく強靭な声ではなかったが、鬼気迫るものがあった。
衣装をつけろ、白粉をぬれ
お客様はここに金を払って笑いに来るんだ
笑え、道化師よ、苦悩と涙をおどけに変えて
苦しみと嗚咽を作り笑いに変えてしまうのだ
ああ、笑え、道化師よ、お前の愛の終焉に
笑え、お前の心に毒を注ぎ込むその苦悩を・・・
まさしく、この歌詞のとおりの生き方だ。スキャンダルに見舞われ、オペラ界から眉をひそめられることもあったが、道化師のカニオが苦しみ悶えながらも「衣装をつけろ」と歌って自らを鼓舞し、人々を喜ばせようとしたのと同じ気持ちで、パヴァロッティも歌い続けたのだろう。
これからオペラを鑑賞し続けていくにあたり、声の質ではなく、歌手の生き様を感じ取れるような聴衆になりたいと思った。
監督:ロン・ハワード
出演:プラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラス、ボノ(U2)ほか
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