業界トップの技術力を誇るヤバいエンジニアたちからデータ復旧の裏側を探ってきた━Giagazine 2019年08月19日 09時00分
https://gigazine.net/news/20190819-digitaldata-solution/
データ復旧といえば「スマートフォンのデータ復旧は不可能」や「SSDのデータ復旧は困難」といった話をたびたび耳にしますが、業者によっては「不可能」「困難」とされているメディアのデータ復旧サービスを提供しています。そこで、95.2%という国内屈指のデータ復旧率と、11年連続データ復旧サービスにおける国内売上シェアナンバーワンを誇るデータ復旧サービス・デジタルデータリカバリーを提供するデジタルデータソリューションで、「スマホは本当にデータ復旧可能なのか?」などデータ復旧の裏側を徹底的に調べ尽くすべく、現場で働くエンジニアの方々に直接話を伺ってきました。
デジタルデータソリューション株式会社-DDS Inc|デジタルデータソリューション株式会社
https://www.digitaldata-solution.co.jp/
というわけで、さっそくデジタルデータソリューションの本社へやってきました。
今回インタビューに答えてくれたのは、デジタルデータリカバリーのエンジニアグループで働く、左からロジカルチーム長の柳田悟さん、フィジカルチーム長の薄井雅信さん、メモリチームエンジニアの万紅宇さん、メモリチームエンジニアの北野交孝さんの4人。加えて、司会進行役にマーケティンググループの嘉藤哲平さんも参加しています。
マーケティンググループ 嘉藤哲平さん(以下、嘉藤):
デジタルデータリカバリーではエンジニアが4つの専門チームに分かれて復旧作業を行っているので、各部門のスペシャリストを集めました。 実際に復旧作業を行っているエンジニアの生の声を聞いて、データ復旧の裏側を知っていただければと思います。というわけで、まずはフィジカルチームからいきましょうか。フィジカルチームはHDDの物理的な障害からのデータ復旧を担当しています。HDDのプラッタ部分における最重度障害「スクラッチ症状からの復旧」や豪雨・火災などの「災害で被災した機器の復旧」などが事例として挙げられますね。例えば、2018年に西日本を中心に発生した平成30年7月豪雨の際には、水没したNASのデータ復旧依頼がありました。水没してから機器の引き上げまでに一週間以上の時間が経っており、HDDも泥まみれで通電できない状態だったので、お客様からすると「これはもう復旧できないだろう」というような状態だったのですが、弊社ではデータ復旧に成功しています。
フィジカルチーム長の薄井雅信さん(以下、薄井):
この事例についてはよく覚えています。
GIGAZINE(以下、G):
まさにご自身で復旧を担当されたということでしょうか?
薄井:
そうですね。自分以外にも何人かがいろいろ試したものの、何をやっても駄目という状態でした。HDDのプラッタ上にも泥が載っている状態だったので、泥を洗浄してはデータの読み取りが可能かチェックして、という作業を何度も何度も繰り返して、最終的になんとか復旧に成功したという案件です。
G:
泥を洗浄というのは、ただ単に水をかけて洗うという意味ではないですよね?
薄井:
そうではないですね。泥の洗浄には特殊な技術が用いられていて、これについては完全に独自開発の部分なので詳細には話せないのですが、イメージとしてはプラッタに載っている泥を溶かすのではなく落とすといった感じです。メモリチームの方でもやっている超音波洗浄などに近いかと思います。
G:
汚れを浮かして取る、みたいなイメージでしょうか。
薄井:
そうですね。それでも落ちない汚れなどもあります。そのような場合はプラッタ上の泥を手作業で落とします。
G:
復旧までに何度も繰り返し行ったとのことですが、最終的にどの程度の期間がかかったのでしょうか?
薄井:
1〜2週間くらいかかりましたね。8割くらいは2日以内に復旧完了するんですけど、この案件はけっこう時間がかかりました。
G:
過去にもHDDが泥まみれになって、といったような案件はあったのでしょうか?
薄井:
たまにありますね。一般的な案件はHDDを落としてしまって……とかです。
G:
結局プラッタの泥を落としたものの場合は、HDDに保存されていたデータのすべてを復旧できるのでしょうか?
薄井:
100%とはいきませんが、かなりの割合のデータを復旧できています。
ロジカルチーム長の柳田悟さん(以下、柳田):
そもそもこういったプラッタなどに物理的な異常があるケースは、データのコピーを取れること自体が奇跡のようなものなんです。なので、もちろんデータを100%復旧できるにこしたことはないのですが、たとえ数十%だったとしても、復旧できた箇所によってはロジカルチームの作業でデータをほぼ完璧に救出できる場合なんかもあるので大変喜ばれます。他社様だと一切復旧できないようなものであっても、数十%でも100%でも可能な限りデータの復旧にチャレンジするというのが弊社の強みかなと思います。他社様の場合は結構「0か100か」みたいなケースが多いみたいなので。
薄井:
プラッタ障害というのは物理障害の中でも最重要な障害で、ここにちょっとでも傷が入っていたら「もう無理」という会社がほとんどなんです。
G:
水没したNASのHDDの場合はプラッタ上に泥が載っていたわけですが、傷はついていたんでしょうか?
薄井:
このケースの場合は、プラッタ上に泥が載ってデコボコになってしまいデータが読み出せないという状態でした。HDDというのは完全に真っ平らなプラッタ上をヘッドが動いているので。
G:
泥なんかついたら論外ですよね。
薄井:
目に見えるレベルの泥だったので、絶対にヘッドが浮いてしまって破損したり状態がさらに悪化したりするのが見えていました。それをどれだけ完璧に元の状態に戻してあげられるかというのが重要で。その他のフィジカルチームの作業としてはHDDのヘッドを交換するときにちゃんと互換性があるものかを確認するだったり、ファームウェアの修復技術があるかどうかだったり、コピーをちゃんと取れるかどうかだったりですね。あとはロジカルチームの方で頑張ってもらうしかなくなります。
G:
「頑張ってもらう」と、かなり簡単そうに言っておられますがロジカルチームの担う部分もかなり重要ですよね。
薄井:
技術力があるので任せているんですよ。(笑)
G:
薄井さんはなぜフィジカルチーム所属となったのでしょうか。
薄井:
最初に入社した際は入出庫エリアでロジスティクスチームとして働いていました。それが気がついたらこんなところにいました。
デジタルデータリカバリーには日々多くのデータ復旧依頼が舞い込んでおり、年間3万件もの案件が取り扱われるそうです。これからデータ復旧作業を行う機器を入荷し、データ復旧が済んだものを出荷する作業を担当するのが入出庫エリアで、ここでは機器から記憶媒体を取り外す作業も同時に行われます。エンジニアの皆さんは初めにこの入出庫エリアでロジスティクスチームを経験し、機器の構造を学ぶことから下積みしているそうです。
嘉藤:
薄井さんは部品交換などのデータ復旧における物理面についていろいろ話してくれたのですが、実はファームウェア(HDDの動作プログラム)やシステムの復旧においてもすごく優秀なエンジニアなんです。他社で部品交換したけど直らなかった……という案件も、ファームウェアをちょちょっと修復してしまったりするんです。昨年「沸騰ワード10」にてTV取材していただいた際には、データ復旧業界のブラックジャックとして取り上げられました。(笑)
G:
今回事例に挙げてくださった水没案件というのは多いものなのでしょうか?
薄井:
年に何件かはきます。特に台風のときとか。
G:
水没というと水に落ちた途端にもうアウトというイメージがあるのですが、今回の泥水のようなケースでも復旧可能というのはちょっと驚きです。例えば、雨漏りでHDDの上に水がジャバジャバかかってしまった場合、泥じゃないのでまだマシということになるのでしょうか?
薄井:
そうですね、まだマシです。雨水はあまり不純物が入っていないので。
G:
となると、水に何か入っていると駄目なのでしょうか?コーヒーなどをこぼした場合の方がヤバイと?
薄井:
ヤバイですね。
柳田:
たまに真っ黒焦げのHDDなんかも入ってきますね。
G:
何があったのでしょうか?
薄井:
火事で燃えて、さらに消防で水もかけるので。
G:
二重苦みたいな感じなんですね。うちの会社も火事になったことがありますし、京都アニメーションさんも被害に遭われましたね。京都アニメーションさんはちょうど「サーバーデータの回収に成功」と報道されていましたが、「熱にさらされる」のと「すすが上についてしまう」のと「水をかけられる」のではどの事例が一番ヤバイのでしょうか?
薄井:
熱ですね。磁性が変化してデータが飛んでしまうと、復旧のしようがなくなります。
G:
すすくらいならまだなんとかいけるという感じでしょうか?
薄井:
上に載っている、ふたにちょっと載っているくらいなら全く問題ありません。
G:
見た目はかなりヤバそうでもいける可能性もあるのでしょうか?熱でグニャっとなっていたら、もうそれは駄目なんでしょうか?
柳田:
内部のプラッタが完全に変形している場合は難しいですね。
G:
火がついて燃えているなど?
薄井:
プラッタの色が変わっているなどもですね。たまに入ってきます。このような特殊ケースでは、他社が対応しないことが多く、弊社が断ってしまってはお客様の行き場がなくなるケースもあるんです。だからこそ弊社ではどのような状態の案件でも全力で挑戦しています。
G:
京都アニメーションさんの場合はガゾリンをまかれているじゃないですか。水、泥ときて、ガソリンのような有機溶剤がかけられるとどうなんでしょうか?さすがにそういったケースは見たことがないものでしょうか?
嘉藤:
僕もエンジニア経験があるのですが、フィジカルチームで働いていた際に、HDDの中がオイリーになったものに遭遇したことがあります。
薄井:
あったね! 黒くてベタベタしたものが……。
G:
そういった油のようなものでまみれていてもデータの復旧作業は可能なのでしょうか?
薄井:
もちろん可能です。こういうケースは基本的にプラッタ上を元の状態に可能な限り戻してあげて、上手くヘッドが動作するよう調整していく感じです。
G:
お話を伺っている感じだと、物理面ではヘッドがどうこうよりも、プラッタが無事かどうかが最重要といった感じでしょうか。
薄井:
そこが重要です。プラッタは代えがきかないので。
G:
それで熱による変形が1番ヤバイんですね。デジタルデータリカバリーさんではスクラッチからの復旧にも取り組んでいるとのことですが、プラッタに傷がある場合はもうアウトということにはならないのでしょうか?先ほどまでのお話を踏まえると完全にアウトのように感じますが。
柳田:
プラッタ上のスクラッチ案件の場合、お客様が他のデータ復旧業者に問い合わせて、ある程度作業に取りかかってみるものの、データ復旧は不可能で返ってくるというケースが度々あります。最終的に弊社に依頼が来ることになるわけですが、他の業者が「プラッタに傷がついているので復旧できません」と言ったものであっても、うちでは復旧できてしまうというケースは多いです。
薄井:
もちろん損傷が激しくて難しいケースもあるのですが、いけるかどうか微妙なラインのものにはチャレンジさせていただきます。最初に対応したときはカチカチ鳴って駄目だったものでも、何度か試しているうちに認識してコピーを取ることに成功し、データ復旧に成功したという事例も多々あります。
G:
フィジカルチームということはプラッタ上のスクラッチを物理的に修復したという感じなのでしょうか?
薄井:
そうですね。
G:
傷がついたものを正常に読み取り可能になるように修理したとなると、パッと思いつくのは削るか盛るかのどちらかだと思うのですが、表面的になんとか読み込みできるようにするというイメージでしょうか?
薄井:
特殊な加工を施して読み込みできるようにするか、最悪ヘッドをどうにか動作するようにすればいいというイメージです。ヘッドが傷の上を通ると傷を検知して読み書き不可能となってしまい絶対に認識しなくなります。なので、ヘッドの読み書きが継続できるようにプラッタを読み込んでいくといった感じです。
G:
プラッタ上の傷をどうにかするというわけではなくて、既に傷のついているものから、なんとかうまくデータを読み取るというイメージなんですね。
薄井:
あと、HDDの場合は必ずファームウェアの修復をしなければいけません。ヘッド交換とファームウェア修復を何度も繰り返して、データが取れなくなったらもう一度ヘッド交換とファームウェア修復を行って……といった作業を7〜10日間ほどやった覚えがあります。
G:
ファームウェアを修復してヘッドを交換してデータを読み込んで、出てこなくなったらまたこれを繰り返す。そんな作業を複数回繰り返すと。
柳田:
単に部品交換して直るものもあるんですよ。でも、ファームウェア修復ができない業者さんというのがやっぱり多くて、そこでつまずくところは多いように思います。なので、ファームウェアの修復が可能というのは弊社の大きな強みです。ファームウェア修復はHDDのデータ復旧においてとても重要な役割を担うので。
G:
なるほど。諦めずに根気よくチャレンジし続けることで、本当にデータは復旧できると。
柳田:
もちろん知識やノウハウがあること前提になりますがね。水没したNASのデータ復旧についてはお客様も本当に感動ものという感じだったらしく、直した薄井さんも感涙ものだったはずです。
薄井:
本当に若干涙が流れるくらいでした。ちょうど、僕以外の担当がお客様と電話しているところを横で聞いていて、お客様の喜びの声を聞いて「よしっ!」と。
荷が降りるというか、報われる感じですね。こんなことを聞くのは野暮かもしれませんが、別の業者へ持ち込んで「復旧不可」とされたものがデジタルデータリカバリーさんの元に回ってくるわけじゃないですか。極端な話、他の業者が競合他社によるデータ復旧を妨害するためにプラッタに傷をつけるようなケースはあるのでしょうか?
薄井:
こちらでは判別がつかないことではありますが、そのようなことはないとは思いたいですね。ただし、誤診断により間違った処置をされてしまい、その後に弊社に持ち込まれるというケースは結構ありますね。簡単に例えると、「患者は風邪なのに手術しちゃった」みたいなケースです。
G:
他社で記憶媒体の開封作業を行って、そこでプラッタに傷がついた、もしくは症状が悪化したといった感じでしょうか?
薄井:
他社様で「データ復旧不可」という結果が出たということは、必ず他社様である程度の作業が行われているんです。大抵はヘッド交換などです。しかし、HDDのデータ復旧では必ずファームウェアの修復を行わなければいけないのですが、おそらくそれを行っていない可能性があって、その状態でコピーを試して症状がさらに悪化してしまうというケースが多いのではと推測しています。
柳田:
ヘッド・プラッタ・ファームウェアが適合しないまま動いてしまって、プラッタ上に傷がついてしまうといった感じです。
G:
それでファームウェア修復が必要になってくるのですね。開け閉めするだけで傷がつくわけではないと。
薄井:
ただ、HDDによっては開けて閉めただけで認識しなくなるものもあります。
G:
それは何が原因なのでしょうか?
薄井:
中の環境が変わっているのではと考えています。
G:
中に何か封入されているだとかでしょうか?
薄井:
最近ではヘリウムガスが封入されたHDDなんかもありますね。基本的にHDDは密閉状態にあるわけで、その状態が基本的な環境なので、一度開けると環境が変わってしまうんです。ヘッドの浮遊度合いなどが変わっているのじゃないかと。仮説は立てられるので、それを元にファームウェアの修復を行うといった感じです。
柳田:
なので、しっかりとしたクリーンルームで作業するというのも前提にあるんです。
G:
なるほど。それがデジタルデータリカバリーさんの社内にクリーンルームが完備されている話につながってくるのですね。HDD内部に余計なものが入らないようにと。
薄井さんの所属するフィジカルチームは、防塵・静電気防止服の着用が義務づけられた手術室同等の設備を備えたクリーンルームでHDDの解体作業などに取り組みます。
G:
フィジカルチームの事例について色々うかがえたので、次はロジカル(論理)チームの事例について質問させていただきます。
嘉藤:
基本的にフィジカルチームの作業が終わったらロジカルチームの作業に移行という形になるのですが、最初から物理的な復旧は必要としていな いというパターンもあります。そういった場合はロジカルチームでシステムなどの論理的な復旧対応になります。最近の復旧事例でいうと、HDD45本の大型RAIDの復旧がありますね。
G:
まず、「45本組のRAID」というのがまったくイメージが沸かないのですが、かなり大きいものなのでしょうか?
柳田:
大きい方ですね。もっと大きいものだと100本組などもあるにはありますが、数十本クラスのものはそんなに頻繁に見かけませんね。RAID案件の場合、普通のTeraStationなどがほとんどなので、基本的には2本組や4本組です。これに対して本案件の場合、異常発生前のRAID構成を正確に再現するために、サーバー3台・HDD各15本分の分析が必要となりました。
G:
15本組とはすごいですね。こういうものの場合、最初は何から手をつけるのでしょうか?
柳田:
まずは診断に関してですが、フィジカルチームの方に物理障害がないか見てもらいます。ただし、物理障害がないものに関しては、HDDをすべて分析しながら障害を調査していく形になります。もともとRAIDを組まれているようなものの場合、どうやって組まれているのかを16進数のバイナリ上のデータで見て判別していくって感じです。
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