古戦場めぐり「壬申の乱・関ケ原の戦い（岐阜県関ケ原町）」
◎『壬申の乱・関ケ原の戦い』
「壬申の乱」（じんしんのらん）は、天武天皇元年(672)6月24日に起こった古代日本最大の内乱です。名称の由来は、天武天皇元年が干支で壬申にあたることによります。天智天皇死後の皇位を巡る戦いで、天智天皇の太子・大友皇子（弘文天皇の称号を追号）に対し、天皇の弟・大海人皇子（後の天武天皇）が地方豪族を味方に付けて反旗をひるがえしました。当時の皇位継承については、親子より兄弟が優先されていたのにもかかわらず、天智天皇は個人的な愛情により大友皇子への皇位継承の気持ちを表しました。その時天智天皇は、大海人皇子の出方によっては殺害しよう考えていました。大海人皇子は、兄が自分のことを快く思っていないことを知り、身の危険を察知して出家し、吉野という場所へ隠棲していました。これは時を待ち、チャンスを伺っていたともいわれています。大海人皇子は、隠棲していた吉野を出て、自身の領地のある美濃へ出発します。初めは、賛同する兵も多くはありませんでしたが、伊賀、伊勢を通り美濃にたどりつくまでには、かつての政治に不満をもっていた豪族らを、次々に味方につけ、あっという間に圧倒的な兵力を手に入れてしまいます。
天武天皇元年（672）6月22日、大海人皇子は美濃へ3人の使者を送り、安八磨郡（現在の大垣市から池田町あたり）の兵を徴発し、不破道の閉塞を命じています。不破道はのちの不破関の可能性が高いですが、日本書記には不破関の記述はありません。
6月27日、大海人皇子は一泊した桑名郡家を出発、不破郡家に着く頃、尾張国守の小子部鉏鉤（ちいさこべのさいち）が2万の兵を率いて帰順してきたと伝えます。大海人皇子は、不破よりわずかに西に位置する野上（のがみ）という場所を本営としました。さらに、野上行宮の本隊は高市皇子を筆頭に、野上から3kmほど離れた、和蹔（わざみ）に兵を終結させます。実はこの和蹔、現在の住所でいえば岐阜県関ケ原町関ケ原です。この約1000年後に、徳川家康と石田三成が天下分け目の決戦の地に選んだ関ケ原です。そのことでもわかるように、この地は、古代より東西を結ぶ交通の要所で、ここを押えてしまえば、畿内は東国と分断されてしまうのです。つまり交通の便がよく、大軍団を集結させるのに、関ケ原は都合が良かったのです。東軍の大海人皇子と西軍の大友皇子（天智天皇の子、のち弘文天皇を追号）が、関ケ原の「関の藤川(藤古川)」で、激戦を繰り広げました(関ケ原の戦い)。この戦いにおける大友軍は、総勢3万人の大部隊でした。対する大海人軍は、私領地であった大垣・安八郡・養老郡の兵士と東国からの兵力に加え、さらに尾張の国司が連れてきた2万の軍隊を合わせて3万人の軍隊を率いていました。当時の日本人の100人に1人が、この戦に参加していた計算になるそうです。この壬申の乱(関ケ原の戦い)と家康・三成の関ケ原の戦い、二つの日本歴史上に残る天下取りの戦いが、同じ場所において戦われたのは正に歴史の偶然です。結果は、大海人皇子の東軍が勝利をおさめることになりました。これが、古代における天下分け目の戦いとなりました。
そして天武天皇元年（672）7月2日、大海人皇子はその兵を、琵琶湖を挟むように二手に分け進攻させていきます。大友皇子側も、進撃体制を整え防戦しますが１ヶ月の後、琵琶湖の南に位置する「瀬田唐橋の戦い」で大敗を喫すると、その翌日、山前（琵琶湖の南西辺り）で大友皇子は首をくくって自害することになるのです。25歳という若さでした。壬申の乱は、反乱者である大海人皇子が勝利するという、例の少ない内乱でした。近江大津宮は5年余りで滅亡し、都は再び飛鳥（奈良）に移されました。その後、勝利した大海人皇子は天武天皇となり、天皇を中心とした国家づくりに力を注いでいきます。
○「黒血川」(関ケ原町)
古代の戦いの名残をとどめる黒血川(藤古川の支流)は、関ケ原の北西にある城山の麓を源とし、中山道を北から南へと横切っています。関ケ原の戦いだけでなく、その昔、壬申の乱でもこの辺りが戦場になりました。黒血川は、東海自然歩道の城山周辺のうっそうとした森の中では、さらさらと流れる渓流になっています。そこから進み、中山道と交わる場所にある「鶯の滝」は、その昔、中山道を歩く旅人の憩いの場所であったそうです。滝より下流は、川幅も広くなり、峡谷の様を呈してきます。この川は、元々山中川といわれていましたが、壬申の乱で両軍の兵士の流血が川底の岩石を黒く染めたことから、黒血川の名が付いたといわれています。壬申の乱では、大友軍は総勢3万人、対する大海人軍も総勢3万人、計6万人以上が戦かいました。それだけの多くの兵士が戦いに参加したのですから、川が血で染まったという黒血川の由来にも納得がいきます。黒血川の説明板に、次の説明があります。
「壬申の乱（672年）で、ここ山中の地では両軍初の衝突が起きています。7月始め、大友軍は精兵を放って、玉倉部邑（関ケ原町玉）を経て大海人軍の側面を衝く急襲戦法に出てきました。しかし、大海人軍はこれを撃退、その後この不破道を通って近江へと出撃して行ったのです。この激戦で、両軍の兵士の流血が川底の岩石を黒く染めたことから、この名が付き、その凄い様子を今に伝えています。この川は、青野ケ原や関ケ原の戦い等、古来軍事上屡々利用されて来ました。」
○「桃配山」(関ケ原町)
壬申の乱と関ケ原の戦いの接点ともいえる桃配山(ももくばりやま、標高104m)は、関ヶ原の東端に位置し、壬申の乱のおり、大海人皇子（後の天武天皇）が野上の行宮からここ不破の地に出陣して、名産の桃を全兵士に配り戦いに快勝しました。その奇縁により、桃配山とか桃賦野（ももくばりの）と呼ばれるようになりました。それにあやかって、1600年の関ヶ原の戦いには家康が最初に布陣した場所で、勝利を得ました。戦場から遠く、しかも当日は霧で視界が利かず、さらに東軍が苦戦していたので、家康は陣を関ケ原の中央に移動してきました。
○「不破の関」(関ケ原町松尾)
不破の関は、この地で起きた古代の天下分け目の戦い・壬申の乱(関ケ原の戦い)の翌年、都（飛鳥浄御原宮）を守るために天武天皇(大海人皇子)が造られた関所で、町営の小さな不破関資料館があります。不破の関の跡は、今は産婦人科の敷地内で、中央に井戸の跡、それに朽ち果てた大木があります。最近の発掘の結果、藤古川の左岸の自然の要害を利用した関所であり、北、東、南には土塁が設けられ、広さ12万m²に及ぶことが判明しています。鎌倉時代にはすでに廃虚と化し、歌に読まれたほどの侘びさび（貧乏臭い・古臭い）の不破の関ですが、確かに井戸も枯れ木もさびています。あとは、芭蕉の句碑や崩れそうな石碑などがあります。秀逸なのは次の蜀山人の歌碑です。
�狢舁Г硫�子の王に点うちて つぶす玉子のふわふわの関��
ログインしてコメントを確認・投稿する