20年近く前、とある女性と、一応お付き合いのうちにはいるのかな、ということを、していたことがある。
後から振り返ってみるに、私という珍獣 [;^J^] を見つけた彼女が、興味本位でちょっかいを出し、やがて飽きて、ポイしたのであろう。自然消滅というか、単にお互いに連絡しなくなった。ポイされた私にも、特に未練はなかった。その理由のひとつを、以下に述べる。
彼女は、わりとトンデモ系に引っかかりやすい人だった。その頃彼女が入れ込んでいたのは、とある「箱」であった。一辺30cmぐらいの、蓋のない(開けられない)木製の箱。使い方は忘れたが、もちろん「ありとあらゆる」効能があるのである。病気はなおるし、頭も良くなる。
その「箱」を所有している、とある大学生の下宿にも、案内してもらった。暗い部屋で本に埋もれてシンセサイザーとパソコンに没頭している彼は私のパロディにしか見えず(あるいは逆だったのかも知れないが [;_ _])、辛くてとても正視にたえなかったのだがそれはともかく [;_ _][;^.^]、
彼の部屋に設置されていた「箱」の実物を持ち上げて調べるような失礼な真似はしなかったが、明らかに空っぽ。電源スイッチとLEDはついているので、電源基板ぐらいは入っていたのかも知れない。彼は、この「箱」を使い始めてから、「バッハのフーガの構造が明晰に聴き取れるようになった」というのである。
価格は確か、50万円前後であった。
ユーザー会というかセミナーというかにも、連れていってもらった。「メーカー」の説明員が、ひとりかふたり。顧客が、20人弱だったろうか。ほぼ全員が、主婦かお年寄り。説明員は、この箱の不思議な力を実演してみせた。手のひらの上に乗せた「砂」が動くのであるが、静電気と磁石のトリックに過ぎない。私はむしろ、「この客層ならバレないだろう」という、彼の度胸に驚いた。
顧客たちは、効能の体験を、感動しながら発表していた。寝たきりだったのに、歩けるようになった人すら、いた。嘘(サクラ)には見えなかった。本当に歩けるようになったのだ。プラシーボで。
私は、彼女と共に、何も言わずに会場を後にした。インチキ装置であると、指摘したりはしなかった。50万円のガラクタを売りつけられている人が大勢いるのである。これ以上の「被害」の拡大を防ぐために、戦うべきだっただろうか?
歩けるようになった人がいるのだ。もしも私が正義感から、その効能は錯覚であると立証し、彼がそれに納得したら、彼は絶望感から、ふたたび歩けなくなってしまうかもしれない。そんなことになったら、私は、どう責任を取れるというのだ。
「砂が動く」という、箱の「不思議な力」を実演するために、参加者ひとりひとりのまえを回っていた販売員は、客の中で明らかに場違いな、一見して理系の人間である私の前に来たときに、まなざしで、
「あなたは、告発しますか?」
と、問いかけているように見えた。だから私もやはりまなざしで、
「いいえ..何も言わずに、帰ります。二度とここに来ることもありますまい..」
と、答えた。
彼女は、トンデモ系に流されやすい人だった。そういう人の「目を覚まさせる」ためには、大変な時間(歳月)と労力を費やす必要があることを私は知っており、彼女はそこまでしなければならない存在ではなかったのである。そして、トンデモに染まったままの人と付き合い続けることは、私には出来なかったのだ。
ただ、それだけのことである。
廃墟通信、更新しました。
http://www.kurata-wataru.com/ruin/ruinc11c.html
(今週号の目次は、
2021年01月18日:幻想美術選「ムッテル・ショウス(ムッター・ハウス)」谷中安規
2021年01月19日:日本SF大会、再延期
2021年01月20日:スポンジ除去し忘れ [;_ _]
2021年01月21日:閃輝暗点、最近多い [;_ _]
2021年01月22日:さらば、ムーンライトながら
2021年01月23日:T氏案件、いきなりつまずく [;^.^]
2021年01月24日:スキャナーが壊れた [/_;]
です。)
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