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2020年04月30日18:28

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小松左京「地には平和を」

昭和の日は、作家小松左京の「地には平和を」を読み返す。

太平洋戦争終結の1945年8月15日に起きた陸軍のクーデターが、未遂に終わらず成功していたら、という仮想現実を描くSF小説。

鈴木首相、米内海相、木戸内府、下村総裁、死亡。天皇の玉音放送は中止、戦争は継続。庶民の間で「昭和維新の歌」が再び流行したが、その歌は陸相、阿南新内閣により禁止された。日本は本土決戦、一億総玉砕の道へ。

その年の10月に入ると、ソ連軍は敦賀に、アメリカ軍は四日市に大上陸作戦を展開した。あの戦争で無条件降伏したはずの日本が本土決戦をしているのだ。18歳までの男子で本土防衛特別隊が組織されたがほとんど全滅。現代からは想像を絶するほどの悲惨さに満ちている。飢えた兵士は次々と無残な死を遂げ、女子供は自決し、惨めな逃亡兵は同胞の密告でさらなる窮地に陥る。そして3発目の原爆。そこにあるのはただ絶望だけだ。戦後の平和とのあまりの落差。

中学生の時に終戦を迎えた小松さんは、自分も本土決戦で死ぬものだと思っていたそうだ。つまり勝ち目のない決戦で泥まみれのゲリラ戦を戦っている15歳少年と戦後の平和の中で妻子とともにピクニックを楽しむ男は、いずれも小松さんの分身に他ならない。

だから、彼らがその中で生き、あるいは死んでいく「戦争」と「平和」の描写にはまさに当事者の目で見ているような迫真性がある。久方ぶりに読んでも変わらずみずみずしく、それでいて重い小説であった。
小松左京はこう語っている。「日本の敗戦は、中途半端に詔勅一本で手を上げた事で、悲惨さを味わう事なく収束した。その結果手に入れたのは空文化してしまった繁栄。この国の平和、自由はすべて虚妄なのかも知れない。」と。
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