本●「黒いトランク」(創元推理文庫)
鮎川哲也:著
読了。
1949年の暮れに発生した、トランク詰めの腐乱死体をめぐって、警視庁の鬼貫(おにつら)警部と犯人との知恵比べを描き、戦後本格派探偵小説の出発点となった名作。
ということで、時刻表を多用した鉄道ミステリーであり、敗戦直後の日本の世相や風俗の活写など、謎解き以外のところで楽しみながら読みすすめてきたが、いよいよ大詰めだ。
なるほど、そういうことだったのか!!!!
と、膝を打とうと待ちかまえていたのだが、トリックが複雑すぎるのか私が馬鹿なのか、曖昧模糊ですっきりしない、まあ後者の理由だろうが、ちょっとしょんぼり。
ところで、時刻表のページを繰りながら犯人のアリバイ崩しに挑むというのは松本清張の「点と線」のさきがけ。
ただ「黒いトランク」の舞台となる1949年は、GHQの施策によって、民間の航空機が国内を飛んでいなかったと、本書の中に登場する。
ようやく1951年になって、国内線の定期運行が再開される。
そして、満を持すかのごとく「点と線」が登場するのは1958年のことだった。
「黒いトランク」は鉄道ミステリーでもあるので、旅情をかき立てる描写も楽しみだった。鉄道ではないが時刻表の巻末にある航路のページを指さしながら登場人物が言う。
「瀬戸内海の夜はいいね。とくに満月のながめは忘れられない」
月明りに、静かな波がきらきらとゆらいでいる光景を想像したら、めちゃめちゃ夜の瀬戸内海へ行きたくなった。
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