陳玄玲将軍の太い大声が、自分の名をハッキリと、名指したのを聞いた楊貴妃は
毛を逆立てるように、ビクッとして全身の毛穴を総毛立たせました。
花花夫人は、国忠と姉たち楊一族が殺された後の次は、自分と楊貴妃が殺される事を受け入れました。
「楊貴妃様
」
花花夫人はそう言うと、楊貴妃の耳に桃色の唇を近づけて、楊貴妃だけに聞こえるように告げました。
「分かったわ。
やはり、そうしたいのね。
お互いに、歴史に残る成功を掴んだんだし…
一生の最後は、有終の美を飾る事にしましょう。」
楊貴妃は、凛として言いました。
阿倍仲麻呂は、家玲の潤一と健と話し合って、国忠の血まみれの首を抱き抱えると
馬傀駅に祀ってある仏堂へと、歩いてゆき
国忠の首を安置して、布を被せると、手を合わせました。
奇しくもその布は、楊貴妃を、日本へ逃す時の為に、阿倍仲麻呂が妻に
作らせて、御守りのように持ち歩いていた、赤い牡丹の花の刺繍が入った、金と黒色の羽織りでした。
外の広場では、ショックでよろけている玄宗皇帝が、高力士と侍護衛長に支えられて
「陳玄玲よ
そちは、朕を誰だと思っておるのだ
」
「存じております
」
陳玄玲将軍を睨んで怒鳴っている玄宗皇帝に、返事を響かせたのは
龍星皇太子の綺麗な声でした。
鎧姿の龍星皇太子は
お役人数人を後ろに引き連れて、馬傀駅の門から颯爽と歩いて来ている
龍星皇太子の横には、寿王李瑁の姿も見えました。
建物の中から、広場の様子を見ていた楊貴妃と花花夫人は
龍星皇太子と李瑁殿下が歩いて来ている
鎧姿に気がつくと、美貌の姉妹は
ソファから、ゆっくりと立ち上がり高揚感が最高潮になりました。
ドキドキ恐怖に震えていた、楊貴妃の心は、なぜか
最初の夫だった李瑁が、会いに来て来れている姿を見た途端
愉快を感じるような、トキメク陶酔の、ハイテンションになってきた目つきで
広場を見つめました。
「父上にご挨拶を。」
大勢の近衛兵とお役人に囲まれている、龍星皇太子は、キリッとした顔つきで
そう言うと
李瑁と一緒に、礼儀正しく跪いて挨拶をしました。
「誰かと思うたら、龍星
それに、李瑁だったか
」
「父上
陳玄玲将軍は、皆の要望を代弁したまでです
父上は賢明な君主です
大局を一番に考えて
どうか、正しいご決断を
」
「東宮の授業で学んできたような、綺麗事を申すな
唐の国が乱れたのは
安飛鳥(アン・ルーシャン)のせいでも
楊国忠のせいでもない
唐の国を傾けさせたのは
楊貴妃を愛しすぎてしまった、朕のせいである
よって
責任は、朕が取らねばならぬ
お前と李瑁の前で、退位の詔を書く事にする
」
「陛下ぁ
それはなりませぬぅ
」
高力士が叫びました。
「そちは黙っておれ
朕の最も愛する妃を、処刑する事は許さぬ代わりに
退位をするのじゃ
」
「陛下
安飛鳥(アン・ルーシャン)と楊国忠が、権力を掌握できたのは
楊玉環(楊貴妃)が、陛下を惑わかしたからです
兵士たちの我慢も限界なのです
」
「そうだあー
楊貴妃のせいだあーー
」
「楊一族を根絶やしに
逆賊に死を
」
「楊一族に死を
災いの根を断て
」
将軍たちと近衛兵たちが、刀で盾を叩きながら、シュプレヒコールの声を再び上げ出しました。
「父上
」
「父上ーーー
」
雪景色の広場で
龍星皇太子と李瑁殿下が、駅の休憩室のある建物の
観音開きの扉の踊り場にいる
皇帝陛下に向かって叫びました。
「詔書を、中で書いて渡す。」
玄宗皇帝は、しゃがれた声でそう言うと
震えながら、高力士と侍護衛長に支えられ、建物の中へと入っていきました。
「陛下
お気をしっかりなさって下さい
」
よろけて倒れそうな陛下を、銀銀と小柳が労りました。
玄宗皇帝は、楊貴妃を抱き寄せると、ソファに倒れ込みました。
花花夫人は、健と手を握り合っていました。
「隆
地球の歴史に、私たちの名を
刻まれる時が来ましたね
」
楊貴妃は、目をギンギラキラキラ〜ン
と輝かせ、凛として言いました。
この時、龍星皇太子と李瑁殿下と陳玄玲将軍が、数人の将軍を引き連れて
玄宗皇帝を追いかけるように、中へと入って来ました。
「来る時が来たか……
よし
人間、散り際が肝心だ
」
玄宗皇帝と楊貴妃は抱き合ったまま、ソファから立ち上がりました。
龍星と李瑁と将軍たちは、跪いて、礼儀正しく
くっついてる玄宗皇帝と楊貴妃に、お辞儀をしました。
実は、潼関を出発する前に、玄宗皇帝は
退位の詔書を書いており、印鑑を押して準備していたのでした。
龍星皇太子が、目で恋をして、愛妾にしたかった花花
そして、李瑁の最愛の妻(正室の妃)だった、玉環
離れていても
心の中にずっといた
それぞれが、目と目を合わせて向き合いました。
「龍星、望みをここで言ってみろ。」
玄宗皇帝が、
空腹を我慢した、しゃがれた声で言いました。
「父上
誤解なきよう申し上げます。
十数年。私は身の程をわきまえ、慎ましく過ごしてきました。
私に二心はありません。
ただ、すべての元凶である、楊貴妃が、お咎めなしで済みましょうか
楊貴妃は、反逆者の安飛鳥(アン・ルーシャン)の義母です
」
「アッハハハハハハ。そんな口実で、朕の愛する妃に罪を着せたのか
龍星よ
皇帝の座が、そんはに欲しいのなら、くれてやる
お前に、帝位を譲るための詔書も、ほらっここにある
だから
朕の女をこれ以上虐めるなあ
ーーー
」
玄宗皇帝は、イラっとムカついて
大声を張り上げました。
龍星皇太子は、怒りの形相になっている父上に、腹の虫がおまらない
言いたかった鬱憤を、ここで晴らしました。
「父上の妃ですが…
その女は、飛鳥と国忠の愛人ですよ
それに…
若い燕たちを
その女は飼っており、ちょくちょく薔薇の花びらが
好みのダリアに武者振りついて
獲物を次々と狂わせていますよ、父上。
現に…
私の親友であった、皇甫浩明将軍を誘惑し
恋仲になると
父上は嫉妬に狂い、皇帝浩明を殺してしまわれた
」
楊貴妃は、黒い瞳を潤ませ
微笑し、李瑁を見つめながら
「隆、座りましょう。」
と言って、
怒りで
震えている玄宗皇帝の手を握りしめて、癇癪の発作が出ないように宥めました。
その楊貴妃の
妖艶に色っぽい
悪女の微笑を見た李瑁が、口を開きました。
「父上はかつて
母上(武恵妃)の陰謀により、腹違いである、私の三人の兄弟を殺めました
今度は、私の元妻(楊貴妃)の為に
何人の息子を殺すおつもりですか
」
「李瑁
それを言うなあ
ーーー
」
玄宗皇帝は、顔を真っ赤にして、完全にブチ切れ、癇癪を起こしました。
つづく
⛩絶世の美女と言わせ続ける妖魔伝説
ログインしてコメントを確認・投稿する