「高力士よ
朕の曾祖父である、太宗皇帝が言っていた言葉を、思い出した。
《民は船に乗るが覆すこともできる》
今になって、その道理が解るとは……
ご先祖様に申し訳が立たなぬのお……」
「陛下
自己保身から私は、陛下に本心の進言を申すことができず
このような結果になってしまい
誠に申し訳ございませんでしたあー
」
高力士は泣いて陛下に心から謝りました。
「高力士よ
そろそろ、潮時が来たようだ……」
玄宗皇帝は高力士と少し話してから、習慣になっている昼寝をしました。
馬傀駅の休憩室で
皇帝陛下が、動物の毛皮の毛布を掛けられて、しょんぼり昼寝をしている側には
楊貴妃を取り囲む
花花夫人
家令の潤一と健(タケル)
そして、女官の銀菊と小柳が
お腹を空かせて座っている所へ
阿倍仲麻呂が血相を変えて 入ってきました。
その、阿倍仲麻呂の 形相 に気がついた楊貴妃たちは
目を見開いて 一斉に、阿倍仲麻呂に注目しました。
「楊貴妃様
姉君お二人と
楊家の方々だけでなく
お妃様方全員も殺されておりましたあー
」
阿倍仲麻呂は、目撃して来た事を報告すると、その場で、声を押し殺して 号泣しました 。
玉枝と玉葉だけでなく
美女である者は皆、安史の乱の犠牲として男どもに犯され、玄宗皇帝を廻る美女たちは
死体になってまでも
鬱憤を晴らしたい男たちに、寄ってたかって服を脱がされ
素っ裸にされ、犯されていたのでした。
阿倍仲麻呂の、唸る泣き声で、目が覚めた玄宗皇帝に気がついた楊貴妃は
玄宗皇帝が、昼寝しているソファーに歩み寄り
肩を落とした皇帝に、寄り添いました。
「隆、玉枝と玉葉は、もう……」
花花夫人は、玄宗皇帝に寄り添っている楊貴妃の肩を抱くと
美貌の姉妹は抱き合って、二人で声を上げて泣き出しました。
泣きながら、楊貴妃は
「花花、
玉枝と玉葉は、痛みも無く、きっと、眠るように亡くなったわ。」
「はい。楊貴妃様
ううううぅうぅっうわあーーーぁぁあ……」
阿倍仲麻呂は
玉枝と玉葉と、女盛りの美女たちが、飢えた男どもに
寒い雪景色の中で、服と下着を脱がされ、丸裸にされて犯されていたという衝撃の
事実は言わず、胸に納めていたのです。
玄宗皇帝の側で、楊貴妃と花花夫人が泣いている時、外から嫌な音が聞こえて来ました。
「高力士
あれは何の音だ
」
高力士は、音の正体を調べるために、観音開きの扉を開けようとした時
出入口の外で待機していた侍護衛長が、観音開きの扉を開けて入ってきました。
「陛下
近衛兵が、刀で盾を叩いて不満を吐き出し、威嚇しております
」
「空腹が原因かのう
」
玄宗皇帝が侍護衛長にそう言うと、高力士と侍護衛長は
「陳玄玲将軍に聞いて参ります
」
「私は、楊国忠首相を呼んで参ります
」
高力士と侍護衛長が、玄宗皇帝にお辞儀した後、観音開きの出入り口から出て行こうとしたその時
「陛下に御目通りを
」
「陛下に御目通りをさせろー
」
建物の前に集まっていた近衛兵たちが、大声で訴え出しました。
建物の外では
白い雪景色の中、大勢の近衛兵が、玄宗皇帝が居る建物の前で整列しており
高力士と侍護衛長が扉を開けて、外へ出ようとした時
楊国忠の生首が建物の中に、勢いよく投げ込まれました。
「キャーーー
」「ヒャーーー
」
「ギャーーー
」「ヒィーーー
」
楊貴妃と花花夫人と
銀菊と小柳の美女四人の、生首を見た恐怖の叫び声が、建物の中に響き渡りました。
愛しい国忠の、血まみれになった顔が、扉から、空中に飛び入って来るのを見た
楊貴妃と花花夫人は
気絶しそうになりながらも
美貌の姉妹で抱きつき合い、慰め合いながら、凍りついて震えています。
高力士は腰を抜かしたようになりながらも、直ぐに陛下に報告しました。
「陛下
楊国忠が殺されましたあーー
」
玄宗皇帝は、楊貴妃と花花夫人の肩を優しく触ってから、杖を握ると
覚悟した顔になりました。
玄宗皇帝は、男盛りの侍護衛長と、ヨレヨレになっている一つ年上の高力士に支えられながら
扉の外に出て行き、若い近衛兵たちの殺気立った顔を眺めました。
「家臣の処遇を決めるのは、朕の権限である
だが、此度に限り
事後報告を許す
」
近衛兵たちは不平不満の顔つきで、黙った睨む目つきで玄宗皇帝に注目しています。
「退がれ
二度と、騒ぎを起こすでない
さあ、自分の部隊に戻れ
直ちに、巴蜀へ出発するぞ
」
玄宗皇帝が命令しても、もう、近衛兵たちは、誰一人として命令を無視し
動こうとはしませんでした。
「なぜ動かぬ
」
玄宗皇帝が、杖を近衛兵に向けて怒っていると、
大勢の近衛兵をかき分けて、颯爽と
馬傀駅の門から歩いて来る、陳玄玲と武将たちが、陛下目掛けて
スタスタと歩いてきているのを玄宗皇帝は気が付き、茫然と立ち尽くして
将軍たちが歩いて来るのを、玄宗皇帝は見つめました。
陳玄玲将軍たちが、整列している近衛兵たちの前列まで来ると、
陳玄玲は礼儀正しく、いつものように陛下に跪き、深くお辞儀をしてから
男盛りの太い大声で
「陛下
兵士たちの望みは明白です
楊国忠の息の根は止めましたが
全ての罪の根源が、まだ生きております
兵士たちは
唐の国の、未来の為に
その者の死を望んでいるのです
彼らを説得する手段は
ございません
」
陳玄玲将軍の訴えに、眉間にしわを寄せた玄宗皇帝は、身体を震わせながら
「陳玄玲
誰を処刑しろと言うのだ
」
金の杖で指差すように、陳玄玲に杖の先を向けて、玄宗皇帝は杖を怒りで
震わせています。
陳玄玲将軍は、真っ直ぐに玄宗皇帝を見つめて、近衛兵たちの前で宣言しました。
「貴妃と化けた
女狐の
楊玉環です
」
つづく
⛩絶世の美女と言わせ続ける妖魔伝説
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