18971214 NO4891 御信任状捧呈後陛下の密話
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011_0040_0140 駐韓日本公使館記録 11巻 四. 加藤公使時代極秘書類 (14) 御信任状捧呈後陛下の密話
文書題目 (14) 御信任状捧呈後陛下の密話
文書番号 機密号外(必親展)
発信日 明治三十年十二月十四日 ( 1897年 12月 14日 )
発信者 加藤 弁理公使 （＊特命全権公使・加藤増雄 1897年 11 月には特命全権 公使を命ぜられる）
受信者 外務大臣 男爵 西徳二��
(14) 御信任状捧呈後陛下の密話
機密号外(必親展)
本月三日御信任状捧呈の機会において皇帝陛下は左右を退け日韓密約一件に関し親しく本官に御下問されたいと予ねて外部協弁・兪箕煥（ユギファン）、議官・閔泳綺（ミンヨンギ）両氏より内報がありましたのでこの含みをもって当日参内致しましたところ、果して御信任状捧呈を終了するや、陛下は直ちに参列の宮内・外部両大臣を始め侍従官に退出を命じその後本官に向って
陛下 日韓密約に関する日本政府の意向はどうなのか。実は昨年閔泳煥（ミンヨンファン）の露国派遣に当り、李範晋（イボムジン）など切々と露韓密約の必要を説く者がいた。朕も当時露国はこうまで野心を挟むものではないと考え密約事項を委任していたのだが、その後露国は次第にその威力を進め、その利欲の逞しくことに汲々としている有様である。今日この防遏（ぼうあつ ＊防止）策を講じるのでなければ国家の前途は実に知ることはできない。特に侍衛隊訓練の一事のような、外面は兵卒の教練の名のもとに厚情を担っているが、その実ほとんど守衛の全権を握って一切の任務に干渉している。これは朕の身上にすこぶる危険が感じられるのである。
本官 陛下御希望の日韓密約の件は、先に閔・兪両人（＊兪箕煥・閔泳綺の両人）よりしばしば内談があったので、その趣旨を本国政府に申報して置いたのだが、まだ何等の回訓に接していない。ただ密約の一事は我が政府においても頗る慎重熟慮を要し、また既に露韓密約なるものが存在する以上は、果してこれをどうすれば相互の抵触を避けることが出来るか、またこれをどうすればその効力を停止できるかを硏究する必要があると信じられるので、本国政府より可否の回訓に接するのは恐らく多少遅延するのであろうと思われる。もっとも我が政府は貴国に対し、貴国が国力を拡大しその発達を希図することに熱心であり、恐らくは現状は密約以上に達しているので、全く今更新たも密約を訂結する必要を見ないのである。しかし、今日の貴国の状態に鑑みれば、陛下が成文条約を必要とされているならば決して無理なことではないので、本使も充分この意味を本国政府に説明して置いたので我政が府も貴国の事情を察し何とか好方便を按出するだろうと信じられる。
陛下 この頃聞く所では、プチャター大佐が再び来韓するだろう、との事だ。この件について何か聞き込んだ事はないか。
本官 この事は先日兪箕煥（ユギファン）を通じて御下問があった。その節一応の御答えは申し上げて置いたのだが、そもそもこの件は誰から御聞き取りになったのか。
陛下 教練士官首席・カフアナシヱスが金鴻陸（キムホンユク）に語ったところでは、プチャター大佐が近日来韓するだろうとの事だったと言う。もしそうなら当方として予め防禦策を講じる必要がある。なるべく速やかにその事実を確かめておきたいのだ。
本官 同大佐は再び来韓しないだろうと信じているが、なお注意を加えなにか事実を聞き込み次第内奏しましょう。本日ルートル電報（＊ロイター通信のことか）の報じる所によれば、「ドイツの膠州湾占領を露国は緘默する（＊何も言わない）代わりに朝鮮における露国の行動に対しドイツはこれを妨げないであろう、云々」とある。
陛下 そうだ。これを聞いた。東洋の危機日に切迫していることを知った。ここに至って日韓の提携の事は益々急務であると信じる。朕が常に心配していることは日本政府がしばしば駐韓公使を更迭する事である。さきに井上公使がその任務に会った時は、両国の交渉は日に日に敦睦（とんぼく ＊仲の良さ）を加えていたにも関わらず、一朝三浦公使がやって来てこれに代ると、我が国の不良の徒がその事情に通じないことに乗じ十月事変（十月八日の乙未事変、いわゆる閔妃殺害事件）を醸成することになり、ついに両国の情誼は阻隔を来した。これがどうして遺憾でないであろう。
卿の任（＊加藤増雄の任期）がこの地にあること既に長い。よく当国の形勢に精通し、事に当って誠実であるのは朕が親しく見聞する所である。故に朕は公使にその人を得たことを喜ぶと同時に、なるべくその在任が長くなることを希望して止まないのである。これは朕の偏頗愛憎から出てただ卿に厚いからではない。実に日韓両国のため公平無私の衷情から出たことである。もし万一卿が他に転任するか、あるいは帰韓（＊本国への帰還であろう）するような事情が到来したなら、朕は直ちに日本皇帝陛下へ電報し、卿の留任を懇請したいと思っているので、そのような場合には先ず朕に内報されることを望む。
本官 陛下の御信任の厚いこと実にここにまで至っています。何という光栄でありましょう。ひたすら益々慎み畏まって尽力するのみです。この奏言が余り長時間にわたってはまた他の耳目を惹き疑惑を起し易いものです。ついては今日はこれで退出致したい。なお詳細な事柄は例の如く兪・閔両人を介して内奏させる所があるでしょう。
陛下 まことにそうだ。卿が退出後、侍従官その他の疑惑を避けるためある辞柄を設けて事実を蔽うので卿もこれを諒承せよ。
以上で当日は退出した。そもそも陛下の日韓両国間に密約を訂結したいとの希望を抱かせられる件は、かつて電稟致して置きました通りであり、本官は当初よりこれにそれほど重きを置かなかっただけでなく、むしろ成文条約の必要はないことを説きこの企てをやめさせ、むしろ実際に提携の実を挙げる方針に向わせようとの意見でありましたが、何分自立独行の気象に乏しい事ゆえ、もし初めから密約論を排斥するときは王のその意気は忽ち沮喪し、到底日本は頼りにはできないとして、同時に陛下の意志は一意専心露国に傾向するに至ることも計り難いありさまであるので、しばらく陛下の希望に則する意向を示して答奏致しているのであります。また留任云々の儀はかつて東京のある新聞に本官一時帰朝の噂があった時に陛下は直ちに人を使ってその実否を確かめられ、状況によっては留任の事を我が皇帝陛下に懇請したいとの内意を伝えられたのだが、全く事実ではないことを内奏して置いたのだが、今回もなおまた前陳の勅諚があった次第であります。実は露国圧迫が急であるためとは申しながら、上下挙げて排日又は復讎の議論の中において、とにかくこの機会に達しているのはまた多少日夜刻苦経営の結果に外ならないことだと考えております。いずれ密約に関する詳細の件は更に別信をもって申し進みますが、取り敢えず以上具報致します。 敬具
明治三十年十二月十四日
加藤 弁理公使
外務大臣 男爵 西徳二�� 殿
[別紙]
文書題目 [露国外部大臣 ロマノフが閔泳煥・公使に韓露友好を約束した公翰]
[露国外部大臣 ロマノフが閔泳煥・公使に韓露友好を約束した公翰]
俄曆七月二十六日見貴公使以貴国政府命令俄文飜訳件内開朝鮮国与俄羅斯国疆土相接友睦多年随事商議益敦交誼嗣後朝鮮如有不虞之事俄羅斯以兵相助又或他邦阻碍朝鮮自主独立之権俄羅斯另行公弁少無虧損等因本大臣即将此節奏達蒙允本大臣以本国政府命令敬告于貴公使従玆以往両国政府交情愈密有請必準朝鮮如有不虞之事又或他邦阻碍自主之権則俄羅斯当公弁幇助矣貴公使以此帰告貴政府共守此信永享敦睦
俄曆一千八百九十六年八月一日
外部大臣 魯発老布 印
[露国外部大臣 ロマノフが閔泳煥・公使に韓露友好を約束した公翰]
ロシア暦7月26日付で貴公使が送信したロシア語訳の「韓国政府命令文」を見ると、その内容に
「朝鮮とロシアは彊土（＊領土）が互いに接しており、友好に和睦を固めてきて以来何年にもなり、あわせてなにか問題があれば互いに相談して交誼を深めてきました。その後、朝鮮に思いがけないことがあるようであれば、ロシアは兵力で助けたり、あるいは別の国（＊日本）が朝鮮の自主独立権を妨害することがある場合、ロシアは、特に公弁して少しも食い違ったり傷つけられたりしないようにしてほしい」
と知らせて頂きました。
そして本大臣はこのような内容を私たちの皇帝に奏達して允許を受け、本大臣が私たちの政府の命令を貴公使に控えに通告し、こうして今後、両国政府の交情がさらに親密になり、要請があれば必ず従い、朝鮮政府に不遇ことがあったり、また他の国が自主権を侵害することがある場合は、ロシアは当然公弁してお助け致します。貴公使は帰国なさったら、これらの約束を貴国政府に報告され、この信頼を共守して永遠に敦睦を享受できるようにしてください
ロシア暦 1896年 8月 1日
外部大臣 魯発老布（ロマノフ）印
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