18960721 NO4679 韓人が仁川府に強訴に及んだ件の報告
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010_0030_0130 駐韓日本公使館記録 10巻 参. 機密各館往復 (13) 韓人が仁川府に強訴に及んだ件の報告
文書題目 (13) 韓人が仁川府に強訴に及んだ件の報告
文書番号 機密第一三号
発信日 明治二十九年七月二十一日 ( 1896年 07月 21日 )
発信者 在仁川 領事館事務代理 領事官補 萩原守一
受信者 特命全権公使 原敬
(13) 韓人が仁川府に強訴に及んだ件の報告
機密第一三号
本件に関しては大要を既に電報しておいたが、今また詳細に記す。
去る十七日の事であった。当港（＊仁川港）塔洞に居住する釜山・李範言（イボモン）なる者を□□□□□□において問いただし、直ちにこの人物を警務署に引致し手強（てごわ）く審問させ、この人物は放免した。□□□□□□□
李範言の親戚がかねて巡検の不当な処置にすこぶる憤り、在港釜山人の主な者に協議したところ、一犬虚を吠えて万犬実を伝え（＊一人がいい加減なことを言うと、世間の多くの人々がそれを真実として広め）、平素巡検の異装を嫌いその尊大さを憎んでいた者たちを合して数百人、翌十九日をもって府庁へ強弁に及ぶ事に一致した。
仁川署理観察使・任午準（イムオジュン）は十九日の朝この企図があることを伝聞したので、午前十時使者を当館に遣わし巡査を派して救護するよう依頼した。
そこで本官は警部・神谷清に巡査五名を付し「もっぱら署理観察使の危険を防ぎ、韓人に対しては事理を諭して解散させるほか、腕力をもって退散を強要してはならないこと」を言い含めて府庁へ派遣した。
この警部一行が府庁へ到着した時は、暴民などはまだ押し寄せていないころであったが、同庁付総巡(当時の電報中「警務官」と言っていたのは誤り、現在当府警務官は欠員である)・姜俊模（カンジュンモ）は走って当館にやってきて保護を乞い、部下の巡検もまた多くはこの事態のなかで外出または逃走し、ただ任（イム）・署理観察使、朴主事及び二三の巡検が残っているだけであった。
ところが暫くしてこの強訴者たち三百余名が、李範言の死骸を担ぎ、巡検一名(李範言を致死させた巡検の弟) を縛して数日前より引続いていた霖雨を厭わず泥濘を蹴って押し寄せて来て、大声で叫んで加害巡警及び総巡の引き渡しを請求した。
任・署理は恐怖に堪えず、ただ�綾笋�逃亡した事、加害巡検は我が巡査に従えて遭難した日本人・蛙子（かえるこ、又はかえるご）某の探検に出張している旨を説明したが、強訴者たちは非常に激�兇掘∧秦任稜ぁ�署理の取り締まり不足を感じていた暴民等にはこのような弁解は一時の遁辞とだけ解釈され、中には制縛している巡検を殴打するものもあり、あるいは巡検が偉そうにしていたことや任・署理の不行状を罵（ののし）るものがいた。あるいは我が巡査の保護を受けている破廉恥を謗（そし）るものがあり、あるいは土足のまま警務署や観察使居室に侵入するものがいた。
一時はその勢いは対抗できないほどになっていたが、この間我が警部・巡査は大いに調停の労を執り、そのなかの巨魁と思われる者数人に対し、このような強訴は彼等に取ってかえって有害であることを諭したところ、彼等はこの説諭に服してか、午後五時頃には大部分は退散したのだったが、夕刻に至り数百人が再び府庁に押寄せて来て、篝火を焚き握り飯を用意するなど不穏の形勢あるとの偵報（＊密偵からの報告）があった。
また任・署理は韓人某が一封の保護依頼書(敬啓者今宵之事恐有不度且見其祟党衆八九百名也乞閣下多派巡検以敦友誼泣々立竢賜款順頌升證 弟 任午準 拜)を送致したので、再び前同様の内意を含めて警部・神谷清および巡査五名を派遣して保護させたところ、強訴の主謀者たちは釜山人で日本語を解し、また当港にあっては日本人の通訳を務め、また日本人に使役されている者が多いので我が警部及び巡査の説諭は甘んじて受けいれたが、任・署理の弁解は一切言い逃れであると推定しているもののようで、ついには本件に対して公明な処分を観察使において直ちに執行させることを、我が警部が保証するならば引き取ろうと言った。
そこで我が警部は処断の結果は「果して彼等を満足させることができるかどうかは保証できないが、速やかに公明な審問を開き、法によって処断すべき事は領事を経て十分観察使に勧告するだろう」と約束し、また死体を政庁に捨て置くことの不可を諭したところ、彼等はこれで満足したようで死体を擁して昨二十日午前一時全員が退散し、その後今日に至るまで全く平穏である。
当日府庁内に押し寄せた韓人はおおよそ六百人に及んでいたが、実際運動に加担しているものはその内三百名であり、その他は無関係の見物人であるようだ。そしてこのように多数の人出があったのは前日来降雨が引続き、被雇用者が暇であったためであろう。
総巡・姜俊模（カンジュンモ）は保護を受けるために我が領事館に来たのだが、それでも恐懼の思いが止まないためか、海岸に出て舢板（平底の木造船の一種）を借りて海州（ヘジュ）府へ向け逃走した。
暴民が殴打した、加害・巡検の弟である巡検は生命には別条ない。加害・巡検は黄海道（ファンヘド）出張中であるため、即日巡検数名を派遣して出張先で捕らえて帰らせることになっている。
任・署理観察使の身体には別条ない。同使は本日より直ちに取調を開始したが「先ず李範言の妾を拷問して加害巡検と奸通した」との供述を得ていると言う。これは恐らくは任・署理が暴民をなだめるための方便であって、果して加害巡検か被害者の妾と密通したために被害者を死に致らしめた事が実際であるかどうかは疑われる。
一, 昨日夕刻に至り任・署理は人民慰諭のため次の告諭文を発している。
[告諭文]
本港の商民・李範言（イボモン）が巡検・崔順浩（チェスンホ）によって被打死に到らされた事は、形症を自ら検証したところ全く疑うべきところはなかった。
獄を準備し崔に李の命を償わせさせる。そのため巡検四人を当場に派遣して調査させ、また別に総巡を派遣し昼夜道を急がせ該犯(＊李範言を殴打した巡検のこと)を捕捉させるであろう。
死体は夏なので一時悶然としていたがその後はよく護喪厚埋し、今回抜剣した巡検は法部に具報し、律に照らして処分する。官の民に対する気持ちは父子の情理と異なることはない。人民は心を静め業に安し、犯人が律に照らされて処断されるのを待て。
仁川府署理観察使参書官 任午準
嶺南人民一同（＊宛て）
また本日に至って外部特派委員、及び内部特派委員は次のような告示をした。
告示 仁川港口の人々へ
現に聞いていることだが、本港人民たちが騒擾を引き起こし安心して暮らすことが出来ないと言う。何の理由でそうなるのか。
人民たちはしっかりとこの言葉を聞け。本港は他の場所とは異なり、各国人が住むところであり、衆民がともに暮らすところである。そこで官民（＊役人たち）であるものは人民に対し司法行政上において慎まなくてはならない。
人民は恨みがあれば必ず訴え、官長が正と不正とを分析し不平不満を押さえても恨むことはなく、官長の命令に従って和らぐことが人民のまさに行うべきところである。
今ここに騒擾を報じるのはそもそも何が原因であるのか。即ちここにその捜査を正しく進めるために本部官員を特派する。したがってこの民人たちはそれぞれの業に着きそれぞれその所に帰り、この本部官員の指揮を承けて措置を待て。
建陽元年七月二十日
内部大臣 朴定陽
告示 仁川港の人々へ
国家内（＊中央）に閣部を設け、外（＊地方）に府郡を置いて政を行ない、法を制するのは、人民を保護し国家を安寧にしようとするからである。
したがって官吏に不法の行為があれば国法を違越する罪となる。また人民において乱し背くふるまいを行なえば国法に反する罪となる。
現在人民が巡検に殺された者があると称して激憤して仲間を集め騒ぎを起すといっている。訴えうる事情があれば原告人の告訴を受け入れる国法がある。なにゆえにこれを知っているのに脅迫し乱民を起こしたのか。
朝廷はこれを聞き、本委員などを特派して曉諭させるのである。この件は既に本府において査弁すると言っている。したがってこの巡検が帰って来るのをまち国律に照らして処決する。
そもそも本府（＊仁川府）は各国の通商場に在る。一時といっても騷擾を生み出しては商務の関係は軽くない。すなわち衆民は乱暴を止めれば自ら国法を貶（おとし）めることはないであろう。
建陽元年七月二十一日
外部特派委員 趙性協
内部特派委員 玄渠
任・署理は、暴民乱入の一部始終が内部（＊政府機関）に達する以上は免職の非運に遭遇するかと恐れ、本日朴・主事を当館に派遣して小官の弁護を求めたので、小官は原・全権公使に向って事態の概要を上申し、本件の原因はその巡検あるいは警務署の過失にあるわけだが、暴民の鎮撫に関する任・署理の措置はすこぶる機敏穏当であって、本件に基き任・署理を免職することは、その理由がないだけでなく、将来益々暴民の気炎を高める害があるので、念のため序（ついで）をもって外部（政府機関）に忠告されるよう願い出ている。
外部（＊政府機関）においては、原・全権公使よりの知照により本件の顚末の概要を知っているので、暴民を宣諭しまた本件の詳細取り調べをさせるため、外部通商局長・趙性協（チョソンヒョプ）、内部参書官・玄渠（ヒョンゴ）を本日当府に派遣し、先ず当館に来て内・外部両大臣よりの謝言を述べさせた。そこで本官はその謝辞が過当である旨を答え、かつ任・署理の措置について前項原・全権公使へ上申したのと同様の事を述べて置いた。この通商局長の一行は事態が既に平穏に復しており、別に取り調べなければならない事項がないので明日直ちに帰京する予定である。
以上具報に及びます。 敬具
明治二十九年七月二十一日
在仁川 領事館事務代理 領事官補 萩原守一印
特命全権公使 原敬 殿
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