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2019年12月14日02:15
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機能不全家族が引き起こす諸問題 福島学院大学 大学院教授 星野仁彦
平成24年９月29日(土) 於 アディクション看護学会ー獨協医科大学
機能不全家族に育った人は、臨床精神医学的に様々な精神障害・精神疾患のルーツになることが知られている。レトロスベクティブ（後方視的）に言えば、思春期・青年期の不登校・ひきこもり・家庭内暴力、非行・性非行、解離性障害、摂食障害、薬物・アルコール依存、リストカット・抜毛癖などの自傷行為、うつ病・うつ状態、自殺企図、いじめ・校内暴力などの攻撃的・衝動的行動の大部分が幼児期・学童期の機能不全家族にそのルーツをたどることができる。また成人に、なってからの様々な依存症・嗜癖行動やパーソナリティ障害も機能不全家族にその発症要因を求めることができよう。
著しい虐待やネグレクトがあればそれだけで上記の思春期・青年期の精神障害を発生させることがある。しかし、日常の臨床場面では機能不全家族の問題はその他の複雑な発症要因と相互に関連して精神障害を発症させたり、既に発症している精神障害を悪化・助長させることを経験している。
例えば、ストレス脆弱性モデルといわれるように、元来の発達障害があれば機能不全家族に対して一般に脆弱である。機能不全家族に育った人は何らかの心的外傷体験でたやすくPTSDやうつ状態、依存症になりやすい。更に、境界性、反社会性、自己愛性のパーソナリティ障害は遺伝要因のみならず、幼児期からの発達障害と機能不全家族が相互に複雑に影響して成立することが近年報告されている。また、統合失調症や双極性障害などの精神病でさえ、内因性（遺伝性）要因のみならず、機能不全家族、発達障害、心的外傷体験も関与していることが知られている。
このように機能不全家族は他の発症要因と複雑に関連しているためにそれだけを対象にして議論することは困難である。しかし、見方を変えれば殆どすべての精神障害の発症には機能不全家族型所とも関わっていること、個人精神療法や認知行動療法や家族療法によって自分が「機能不全家族に育ったこと」への洞察をもち、歪んだ親子関係を修復してそのような親からの心理的自立を目指していけるような理由で演者は精神障害者を治療する場合、幼児期からの発達障害、機能不全家族、心的外傷体験、遺伝的要因などの発症要因を初診時や再診時に多面的、多角的にアセスメントすることによって治療へのストラテジーを構築することにしている。
今回の公演ではシンポジウムに先だって主に機能不全家族の問題が大きい精神障害者のケースとその治療的アプローチについてレクチャーしたい。
＊「重ね着症候群」
いじめ
校内暴力
非行
害 性非行
障 解離性障害
達 薬物・アルコール依存
発 摂食障害
パーソナリティ障害
因
的 思春期 成年期 （境界性、反社会性、自己愛性）
伝 青年期 依存症・嗜癖行動
違 パラフィリア（異常性愛）
＊虐待＋発達障害
族
家 不登校
全 心身症
不 家庭内暴力
能 ひきこもり
機 うつ病・うつ状態
自殺企図
自傷行為（リストカット・抜毛癖）
精神科医から見たアダルト・チルドレン（１）
�機ツ蟲�
●機能不全家族で、養育された子どもが、大人になった人
●精神科の病気や疾病ではない
●パーソナリティ（人格）の軽度の偏り、又は未熟性とされる。世代間伝播しやすい
�供ジ彊�
幼児期から学童期にかけて、両親や祖父母からの人間関係の不和軋轢などがあり、親との基本的信頼関係や安心感に乏しい（例えば、父親のアルコール依存症、ＤＶなどによる夫婦不和、離婚、母親と舅・姑との不和など）
�掘テ団�
（１）自分を好きになれず、劣等感や自己嫌悪感が強い（低い自己像・セルフイメージ）
（２）思春期に感情（情緒）が著しく不安定になりやすい
（３）時分の考え、感情などを素直に自己表現出来ない。（失感情症、自我の未然性） ＊「ＮＯ」といえない、外面がよい
（４）特定の友人、恋人との関係が長続きしない。または信頼関係が確立しにくい
＊３人以上の関係が不得手
（５）人間関係で必要以上に緊張したり（対人不安）、嫌われること、見捨てられることを怖れる（見捨てられ抑うつ）
（６）いつも心の中に不安感（欲求不安）があり、いい加減なこと妥協しにくく、一つのことに完全主義になりやすい（ねばならぬ思考、すべし思考）
＊星野式不完全主義のススメ
�検ゼＮ�
（１）自己洞察することへの援助（カウンセリング）
（２）セルフ・ヘルプ・グループ（自助グループ）
ＡＡ、ＮＡ，ダルク、ＧＡ，ＤＡ，ＳＡ，ＯＡ，ＮＡＢＡなど
�后ネ集�
●思春期・成年期にさまざまな不適応行動や嗜癖行動（依存症）に走りやすい
●不登校、非行、摂食障害（拒食症、過食症）、アルコール依存、薬物依存など
児童虐待・機能不完全家族と密接に関係している
思春期・青年期以降の講義の精神障害
１．摂食障害（神経性無食欲症、過食症）
２．パーソナリティ障害（特にクラスターＢ：境界性・自己愛性・反社会性・演技性）
３．思春期・青年期のうつ病・うつ状態、自殺
４．解離性障害（解離性健忘、解離性とん走、解離性同一性障害、多重人格）
５．非行・性非行・犯罪
６．パラフィリア（異常性愛）：小児性愛、フェティシズム、サディズム、マゾヒズム、窃視症、窃触症、服装倒錯など
７．依存症・嗜癖行動（アルコール依存、薬物依存、ギャンブル依存、浪費癖、セックス依存、ラブ・アディクション、リストカットなどの自傷行為）
８．長期の不登校・引きこもり・ニート
９．習癖異常（チック、抜毛症）
境界パーソナリティ障害の養育環境〜Ｄ妃の真実
性犯罪・多重人格の養育環境〜Ｍ被告の虐待体験
過食症〜拒食からむちゃ食いに至った例〜
過食症とは、むちゃ食いをたびたび（週２回以上）繰り返すもので、拒食症と同様、若い女性に多い心の病です。拒食症の患者が、時折気張らし食いをしているうちになることが多いようですが、初めから過食症になることもあります。
心にストレスがたまった時に、驚くほど大量の食べ物を隠れて独りで食べます。彼女らは摂食を自分でコントロールできず、「いつまでも食べ続けるのではないか」という恐怖心を抱いています。一方で、体型や体重について異常な関心を持ち、肥満することを極度に怖れます。食べた後、のどに手を入れて吐いたり（自己誘発性嘔吐）、下剤を乱用したり、激しい運動をします。
心の中に強い不安焦燥感、悲哀感、怒り、孤独感、空虚感、無気力、絶望感、自己嫌悪感などを抱き、これを解消するためにむちゃ食いをします。心の中のもつれがこうじると、自傷行為、家出、盗みなどに走ることがあります。
原因としては、家庭内不和、過干渉・支配的な母親との争い、自律の失敗、その他人生の挫折体験が挙げられます。拒食症から過食症に発展した高校生の例。
くり返されるリストカット〜救いを求める心の叫び
近年、精神科や心療内科のクリニックで、10〜20代の女性のリストカット（手首自傷）の相談が急増しています。
自傷行為にはその他、たばこの火を押しつける根性焼き、体をひっかく、毛髪を引き抜く、頭や拳を壁に打ち付ける・・などがあります。
これらはいずれも自殺を目的とした行為ではなく、一瞬の心の救いを求めての行為であり、嗜癖行動（アディクション）の一つと考えられています。
自傷行為だけが問題となる例はむしろ少なく、過食・嘔吐、薬物、たばこ、アルコール依存、恋愛依存、万引き（窃盗）などと合わせて問題化します。
「自傷行為」は一瞬の自己救済を求めての嗜癖行為であり、その心理として次の三つが挙げられる。（あらたまクリニック・加藤正医師・名古屋）
一つは「アピール」です。傷ついた姿を見せることで「私はこんなに惨めでかわいそうなんだ」と伝えようとしているのです。しかし、それを言語化できないため自傷に走るわけです。
二つ目は「自分を罰する」という目的です。彼らの多くは「こんな自分はダメ、好きになれない」と感じています。しかし「何もかもダメな自分」では生きていけないので、自分を二つに割って、ダメな自分とそれを罰する超越的な力を持った自分に分けるのです。
三つ目は自分を「リセット」することです。悪い自分や汚い自分を帳消しにすることで、不安・葛藤が解消されるのです。けれども瞬間的にリセットできても、後からもっと痛烈な自己嫌悪に襲われるため、再びリセットが必要になり、自傷行為が嗜癖になっていきます。
自殺行為との共通点は、両者とも「救いを求める心の叫び」であることです。
依存症（嗜癖行動）の共通点
１．初めはストレスが契機（誘因）となり、それから逃避する形で始まるが、いったん依存症が形成されると、ストレスの油無と関係なく持続する。
２．初めは小さな刺激（アルコール・薬物・過食・買い物・セックス・ギャンブル）で満足するが、進行するにつれて、より強う刺激でないと満足できなくなる。
３．進行、悪化するにつれて「強迫観念」が著しくなり、一日中そのことで頭の中が占められるようになる。
４．自分でやめようと思ってもやめられなくなり、「セルフ・コントロール」が全く効かなくなる。
５．往々にしてそのような自分に自責感、無力感、自己嫌悪感を抱くようになる。往々にしてうつ状態を伴う。嗜癖行動の直前や最中は、高揚したハイな気分になり、終わった後は落ち込んだローな気分になる。これを繰り返すたびにうつ状態も悪化していく。
６．幾つかの依存症は合併しやすい〈クロスアディクション現象〉
例:過食症の女性はアルコール依存、右悪物依存、恋愛依存、盗癖などを伴いやすい
７．プロセス依存はあくまでも精神的（心理的）依存のみであるが、サブスタンス依存は精神的依存と身体的依存の両方を伴う。いずれの場合も、自分の心身の健康、経済状態、家族（夫婦・親子）関係などを破壊していく。21世紀は依存症（嗜癖行動）とパーソナリティ障害の世紀と言われているが、これは本人だけの問題ではない。
８．機能不全家族（アダルトチルドレン）、児童虐待、ＡＤＨＤなどの発達障害などが深く関わっている。
９．治療は困難であるが、セルフ・ヘルプ・グループは有効性が確認されている。また薬物療法としてＳＳＲＩの有効性が報告されている。
健康な家族の３つの条件
１．【夫婦連合】
夫婦としての結びつきがまず優先されるべきであり、親子の関係（子どもとの親子関係、祖父母との親子関係）は夫婦の関係に優先されるべきものではない。
２．【世代境界の確立】
祖父母、父母、子どもの秩序が守られており、各世代の連合が強固に確立されており、世代間の役割の混同が見られない。
３．【性別役割の明確化】
父親が健全な男性で、母親が健全な女性であり、夫婦が男性と女性との愛情を基盤に結びついており、性役割における混同が見られない。
家庭における父親の役割
１．家庭の”管理者”であることを自覚し、人間関係を円満にし、家庭内不和をなくする。
２．夫婦間同盟を特に緊密にして、世代間境界を確立する。
３．父親としての威厳を持ち、いざという時に頼られる存在であるようにする。
４．子どもとの情緒的交流を持ち、子どもの悩み、ストレスを早めに察知して相談に乗る。
５．物理的不在、心理的不在の父親にならないようにする。
＊父親の二面性ー（規律・愛）が必要。
日本の家族関係の特徴
１．伝統的に夫婦関係よりも親子関係が重視される。特に母子の結びつきが非常に強く、共生的とも言える母子癒着の傾向が認められる。
２．「夫は仕事、妻は家事と育児」という夫婦間の役割意識が存在し、それが父親の家庭内不在、母親の母子癒着を高めている。夫婦共稼ぎの場合、祖母と子の癒着が強くなる。
３．父母はあくまでも子どもの前では「親」として存在し、「男性」あるいは「女性」として振る舞うことは避ける傾向がある。この状況は父母から男性あるいは女性を学び取る機能が障害される遠因になっている。
４．外からの心理的ストレスには無防備で戸が開放されているが、内部の心理的ストレスは外に解放されない。
父性なき社会〜病める子ども急増〜
欧米との比較研究では、日本の父親が子どもとの接触時間が短く、家庭だんらんんや会話の機会が少ないことが報告されています。また、大学生を対象とした調査で、「自分の人生観やものの考え方について最も重要な影響を受けた人は誰か」という質問に対して、アメリカでは男女とも「両親」を挙げましたが、日本では「同性の友人」でした。
日本ではこのような父親不在のため、 母親任せの状況が進み、母親の育児不安や母子密着を生じ、ひいては日本で急増している不登校・引きこもり・家庭内暴力の問題を生みます。
それでは父親不在はどのような心理的影響を及ぼすのでしょうか。これまで多くの研究では特に父親がいないと不安・心配性の傾向が強く、依存的で自立心が乏しく、勉強・仕事への意欲が乏しく、人生の目標意識が育ちにくくなります。また、特に男性の知能の発達、特に、数学区の成績や合理的な思考能力は父親不在の家庭の男子は明らかに低くなることがわかりました。
女子の発達にとっても、父親の影響は少なくありません。女子にとって「魅力的な父親」とは子どもの時の接触が多く、夫婦関係が基本的に良く、民主的で母親に対して協力的であり、大事なことはリーダーシップを発揮して決断力のある父親です。逆にそうでないと女子にとって悪い男性モデルになり、後々の異性関係に悪い影響を及ぼします。
父親不在といっても、その理由によって子どもに及ぼす影響には違いがあります。一般的に非行少年では両親の欠損（父親不在も含めて）が多いことが知られていますが、父親の死別の場合には非行が少なく、離別の場合に非行が多くなるようです。死別の場合、母親は父親を「立派なお父さんだった」と美化するのですが、離別の場合、母親は別れた父親を全く話題にしないか、激しくこきおろして悪い男性モデルにするためです。
精神科医や心理学者の多くは、病める子どもの急増の原因の一つを「父性なき社会」に求めています。我々はもう一度、父親の存在意義を考え直すべきではないでしょうか。
理想的な家族システム
児童虐待をうむ家族と虐待ネットワーク
Minuchinによる接触障害者・心身症家族の５つの交流のあり方（１）
１．絡み合い（Enmeshment）
家族構成員間の境界があいまいで、互いに巻き込まれ合い、密着しすぎた関係がある
２．過保護（Overprotectin）
家族が互いに幸福に過度の関心を示し合うことである。そのために子どもは家族外へ関心が向かず、自律性が育ちにくい
３．葛藤回避（Conflict avoidance）
互いに異なった意見を持っていることに直面できず、そのような葛藤状況を回避することによって安定を保とうとする
４．硬直性（Pigidity）
慣れた相互関係パターンに固執して、状況の変化に対応する柔軟性がない
５．葛藤を迂回させるために症状を持った子どもが巻き込まれること
（Involement of the symptomatic chile in detouring conflict）
家族システムが脅かされるような葛藤を回避するために子どもが症状を持つことになる。これは両親の反応と子どもの反応の療法によって支えられている
Palazzoilによる摂食障害の家族療法の特徴
１．家族成員間で、相手から送られるメッセージを拒否したり、無視する
２．両親はいずれも主導権を持つことを嫌がり、お互いに責任を回避する。
３．家族の２者間で密やかに連合体ができており、「秘密の連帯」（子どもが父母両方から密やかに同盟する役割をとらされること）や「３方向の結婚」（両親のそれぞれが配偶者への不満を子どもを通じて解消しようとすること）がみられる
４．両親は自己を犠牲にしていることを強調することによって相手を責める
５．両親は表面的にはうまくいっているようにみえるが、お互いに深い幻滅を隠し合い、それを認めることもできない。
機能不全家族への対応の原則
精神障害が家族病理の表れであると判断される場合、その治療には家族の強力が欠かせないものとなります。その際、未成年なら母親、成人なら配偶者など、最も身近な家族一人に対してのカウンセリングや心理教育を行うだけでなく、可能なら家族全員で参加しての家族カウンセリング（家族合同面接）が行えれば理想的でしょう。ここで、機能不全家族への対応に当たって心得ておくべき原則を挙げてみます。
１．母子関係だけを見るのではなく、家族全体の人間関係をみる。「母原病」という考え方にとどまらず、家族システム全体の修正を目指したアプローチを図る。
２．母親の立場に立って、受容的・共感的態度をもって、悩み・心配・不安を聞き、母親の孤立無援感・疎外感・絶望感を受容して、その軽減を図る。
３．キーパーソンは、父親もしくは祖父母（舅・姑）である場合が多いので、父親との面接の上、「家族合同面接」による家族療法の実施が望ましい。
４．子どもの症状の原因を探るにあたっては、家族環境や親の養育態度に限定した、狭い視野では考えないこと。常に、脳の発達障害（ＡＤＨＤ，ＬＤ，アスペルガー症候群など）がないかどうか、遺伝的要因もチェックするなど、多面的・多角的なアプローチを図る。
＊ジャイアン型・のびた型を含む。不注意（集中力不足）学習障害等
５．家族は子どもの問題行動を、表面的に捉えがちであるが、問題行動の背景に隠されているサインやメッセージを出来る限り探るようにする。
おたっしゃクラブ参加者アンケート集計結果
自助グループの効果の一例として、私どもが解説している接触障害者とその家族向けの「おたっしゃクラブ」ミーティング参加者に対して実施したアンケート結果を紹介します。
「仲間に自分の悩みを聞いてもらい、温かく受け入れてもらえた」という親密効果
86％
「回復者の話を聞いて希望が持てた。将来への不安が和らいだ」という共感効果
86％
「家族が適度の心理的郷里を保って接することが出来るようになった」という親子関係の改善効果 86％
「摂食障害について誰かに打ち明けることができてほっとした」というカタルシス効果 84％
「回復者の話を聞いて過食・嘔吐への対処法がわかり、実践してみようとおもった」というモデリング効果 84％
「スタッフのアドバイスで摂食障害に親子関係の歪みが関わっているという理解が深まった」という学習効果 84％
「子どもの摂食生涯を通して自分自身の生き方について考え直すようになった」という人生観の見直し効果 77％
「自分ン尾体験発表が仲間のために役立ち嬉しく思った」という人への奉仕効果
57％
「周囲の評価を気にしないで、あるがままに振る舞えるようになった」という対人スキル効果 80％
理想的な家族システム 「図」
児童虐待をうむ家族虐待ネットワーク 「図」
参考文献 星野仁彦 著
１．機能不全家族 アートヴィレッジ
２．気づいて！子どのものＳＯＳ ヴォイス出版
３．発達障害に気づかない大人たち 祥伝社新書
４．境界性人格障害のすべて ヴォイス出版
機能不全家族に育った人は、臨床精神医学的に様々な精神障害・精神疾患のルーツになることが知られている。レトロスベクティブ（後方視的）に言えば、思春期・青年期の不登校・ひきこもり・家庭内暴力、非行・性非行、解離性障害、摂食障害、薬物・アルコール依存、リストカット・抜毛癖などの自傷行為、うつ病・うつ状態、自殺企図、いじめ・校内暴力などの攻撃的・衝動的行動の大部分が幼児期・学童期の機能不全家族にそのルーツをたどることができる。また成人に、なってからの様々な依存症・嗜癖行動やパーソナリティ障害も機能不全家族にその発症要因を求めることができよう。
著しい虐待やネグレクトがあればそれだけで上記の思春期・青年期の精神障害を発生させることがある。しかし、日常の臨床場面では機能不全家族の問題はその他の複雑な発症要因と相互に関連して精神障害を発症させたり、既に発症している精神障害を悪化・助長させることを経験している。
例えば、ストレス脆弱性モデルといわれるように、元来の発達障害があれば機能不全家族に対して一般に脆弱である。機能不全家族に育った人は何らかの心的外傷体験でたやすくPTSDやうつ状態、依存症になりやすい。更に、境界性、反社会性、自己愛性のパーソナリティ障害は遺伝要因のみならず、幼児期からの発達障害と機能不全家族が相互に複雑に影響して成立することが近年報告されている。また、統合失調症や双極性障害などの精神病でさえ、内因性（遺伝性）要因のみならず、機能不全家族、発達障害、心的外傷体験も関与していることが知られている。
このように機能不全家族は他の発症要因と複雑に関連しているためにそれだけを対象にして議論することは困難である。しかし、見方を変えれば殆どすべての精神障害の発症には機能不全家族型所とも関わっていること、個人精神療法や認知行動療法や家族療法によって自分が「機能不全家族に育ったこと」への洞察をもち、歪んだ親子関係を修復してそのような親からの心理的自立を目指していけるような理由で演者は精神障害者を治療する場合、幼児期からの発達障害、機能不全家族、心的外傷体験、遺伝的要因などの発症要因を初診時や再診時に多面的、多角的にアセスメントすることによって治療へのストラテジーを構築することにしている。
今回の公演ではシンポジウムに先だって主に機能不全家族の問題が大きい精神障害者のケースとその治療的アプローチについてレクチャーしたい。
＊「重ね着症候群」
いじめ
校内暴力
非行
害 性非行
障 解離性障害
達 薬物・アルコール依存
発 摂食障害
パーソナリティ障害
因
的 思春期 成年期 （境界性、反社会性、自己愛性）
伝 青年期 依存症・嗜癖行動
違 パラフィリア（異常性愛）
＊虐待＋発達障害
族
家 不登校
全 心身症
不 家庭内暴力
能 ひきこもり
機 うつ病・うつ状態
自殺企図
自傷行為（リストカット・抜毛癖）
精神科医から見たアダルト・チルドレン（１）
�機ツ蟲�
●機能不全家族で、養育された子どもが、大人になった人
●精神科の病気や疾病ではない
●パーソナリティ（人格）の軽度の偏り、又は未熟性とされる。世代間伝播しやすい
�供ジ彊�
幼児期から学童期にかけて、両親や祖父母からの人間関係の不和軋轢などがあり、親との基本的信頼関係や安心感に乏しい（例えば、父親のアルコール依存症、ＤＶなどによる夫婦不和、離婚、母親と舅・姑との不和など）
�掘テ団�
（１）自分を好きになれず、劣等感や自己嫌悪感が強い（低い自己像・セルフイメージ）
（２）思春期に感情（情緒）が著しく不安定になりやすい
（３）時分の考え、感情などを素直に自己表現出来ない。（失感情症、自我の未然性） ＊「ＮＯ」といえない、外面がよい
（４）特定の友人、恋人との関係が長続きしない。または信頼関係が確立しにくい
＊３人以上の関係が不得手
（５）人間関係で必要以上に緊張したり（対人不安）、嫌われること、見捨てられることを怖れる（見捨てられ抑うつ）
（６）いつも心の中に不安感（欲求不安）があり、いい加減なこと妥協しにくく、一つのことに完全主義になりやすい（ねばならぬ思考、すべし思考）
＊星野式不完全主義のススメ
�検ゼＮ�
（１）自己洞察することへの援助（カウンセリング）
（２）セルフ・ヘルプ・グループ（自助グループ）
ＡＡ、ＮＡ，ダルク、ＧＡ，ＤＡ，ＳＡ，ＯＡ，ＮＡＢＡなど
�后ネ集�
●思春期・成年期にさまざまな不適応行動や嗜癖行動（依存症）に走りやすい
●不登校、非行、摂食障害（拒食症、過食症）、アルコール依存、薬物依存など
児童虐待・機能不完全家族と密接に関係している
思春期・青年期以降の講義の精神障害
１．摂食障害（神経性無食欲症、過食症）
２．パーソナリティ障害（特にクラスターＢ：境界性・自己愛性・反社会性・演技性）
３．思春期・青年期のうつ病・うつ状態、自殺
４．解離性障害（解離性健忘、解離性とん走、解離性同一性障害、多重人格）
５．非行・性非行・犯罪
６．パラフィリア（異常性愛）：小児性愛、フェティシズム、サディズム、マゾヒズム、窃視症、窃触症、服装倒錯など
７．依存症・嗜癖行動（アルコール依存、薬物依存、ギャンブル依存、浪費癖、セックス依存、ラブ・アディクション、リストカットなどの自傷行為）
８．長期の不登校・引きこもり・ニート
９．習癖異常（チック、抜毛症）
境界パーソナリティ障害の養育環境〜Ｄ妃の真実
性犯罪・多重人格の養育環境〜Ｍ被告の虐待体験
過食症〜拒食からむちゃ食いに至った例〜
過食症とは、むちゃ食いをたびたび（週２回以上）繰り返すもので、拒食症と同様、若い女性に多い心の病です。拒食症の患者が、時折気張らし食いをしているうちになることが多いようですが、初めから過食症になることもあります。
心にストレスがたまった時に、驚くほど大量の食べ物を隠れて独りで食べます。彼女らは摂食を自分でコントロールできず、「いつまでも食べ続けるのではないか」という恐怖心を抱いています。一方で、体型や体重について異常な関心を持ち、肥満することを極度に怖れます。食べた後、のどに手を入れて吐いたり（自己誘発性嘔吐）、下剤を乱用したり、激しい運動をします。
心の中に強い不安焦燥感、悲哀感、怒り、孤独感、空虚感、無気力、絶望感、自己嫌悪感などを抱き、これを解消するためにむちゃ食いをします。心の中のもつれがこうじると、自傷行為、家出、盗みなどに走ることがあります。
原因としては、家庭内不和、過干渉・支配的な母親との争い、自律の失敗、その他人生の挫折体験が挙げられます。拒食症から過食症に発展した高校生の例。
くり返されるリストカット〜救いを求める心の叫び
近年、精神科や心療内科のクリニックで、10〜20代の女性のリストカット（手首自傷）の相談が急増しています。
自傷行為にはその他、たばこの火を押しつける根性焼き、体をひっかく、毛髪を引き抜く、頭や拳を壁に打ち付ける・・などがあります。
これらはいずれも自殺を目的とした行為ではなく、一瞬の心の救いを求めての行為であり、嗜癖行動（アディクション）の一つと考えられています。
自傷行為だけが問題となる例はむしろ少なく、過食・嘔吐、薬物、たばこ、アルコール依存、恋愛依存、万引き（窃盗）などと合わせて問題化します。
「自傷行為」は一瞬の自己救済を求めての嗜癖行為であり、その心理として次の三つが挙げられる。（あらたまクリニック・加藤正医師・名古屋）
一つは「アピール」です。傷ついた姿を見せることで「私はこんなに惨めでかわいそうなんだ」と伝えようとしているのです。しかし、それを言語化できないため自傷に走るわけです。
二つ目は「自分を罰する」という目的です。彼らの多くは「こんな自分はダメ、好きになれない」と感じています。しかし「何もかもダメな自分」では生きていけないので、自分を二つに割って、ダメな自分とそれを罰する超越的な力を持った自分に分けるのです。
三つ目は自分を「リセット」することです。悪い自分や汚い自分を帳消しにすることで、不安・葛藤が解消されるのです。けれども瞬間的にリセットできても、後からもっと痛烈な自己嫌悪に襲われるため、再びリセットが必要になり、自傷行為が嗜癖になっていきます。
自殺行為との共通点は、両者とも「救いを求める心の叫び」であることです。
依存症（嗜癖行動）の共通点
１．初めはストレスが契機（誘因）となり、それから逃避する形で始まるが、いったん依存症が形成されると、ストレスの油無と関係なく持続する。
２．初めは小さな刺激（アルコール・薬物・過食・買い物・セックス・ギャンブル）で満足するが、進行するにつれて、より強う刺激でないと満足できなくなる。
３．進行、悪化するにつれて「強迫観念」が著しくなり、一日中そのことで頭の中が占められるようになる。
４．自分でやめようと思ってもやめられなくなり、「セルフ・コントロール」が全く効かなくなる。
５．往々にしてそのような自分に自責感、無力感、自己嫌悪感を抱くようになる。往々にしてうつ状態を伴う。嗜癖行動の直前や最中は、高揚したハイな気分になり、終わった後は落ち込んだローな気分になる。これを繰り返すたびにうつ状態も悪化していく。
６．幾つかの依存症は合併しやすい〈クロスアディクション現象〉
例:過食症の女性はアルコール依存、右悪物依存、恋愛依存、盗癖などを伴いやすい
７．プロセス依存はあくまでも精神的（心理的）依存のみであるが、サブスタンス依存は精神的依存と身体的依存の両方を伴う。いずれの場合も、自分の心身の健康、経済状態、家族（夫婦・親子）関係などを破壊していく。21世紀は依存症（嗜癖行動）とパーソナリティ障害の世紀と言われているが、これは本人だけの問題ではない。
８．機能不全家族（アダルトチルドレン）、児童虐待、ＡＤＨＤなどの発達障害などが深く関わっている。
９．治療は困難であるが、セルフ・ヘルプ・グループは有効性が確認されている。また薬物療法としてＳＳＲＩの有効性が報告されている。
健康な家族の３つの条件
１．【夫婦連合】
夫婦としての結びつきがまず優先されるべきであり、親子の関係（子どもとの親子関係、祖父母との親子関係）は夫婦の関係に優先されるべきものではない。
２．【世代境界の確立】
祖父母、父母、子どもの秩序が守られており、各世代の連合が強固に確立されており、世代間の役割の混同が見られない。
３．【性別役割の明確化】
父親が健全な男性で、母親が健全な女性であり、夫婦が男性と女性との愛情を基盤に結びついており、性役割における混同が見られない。
家庭における父親の役割
１．家庭の”管理者”であることを自覚し、人間関係を円満にし、家庭内不和をなくする。
２．夫婦間同盟を特に緊密にして、世代間境界を確立する。
３．父親としての威厳を持ち、いざという時に頼られる存在であるようにする。
４．子どもとの情緒的交流を持ち、子どもの悩み、ストレスを早めに察知して相談に乗る。
５．物理的不在、心理的不在の父親にならないようにする。
＊父親の二面性ー（規律・愛）が必要。
日本の家族関係の特徴
１．伝統的に夫婦関係よりも親子関係が重視される。特に母子の結びつきが非常に強く、共生的とも言える母子癒着の傾向が認められる。
２．「夫は仕事、妻は家事と育児」という夫婦間の役割意識が存在し、それが父親の家庭内不在、母親の母子癒着を高めている。夫婦共稼ぎの場合、祖母と子の癒着が強くなる。
３．父母はあくまでも子どもの前では「親」として存在し、「男性」あるいは「女性」として振る舞うことは避ける傾向がある。この状況は父母から男性あるいは女性を学び取る機能が障害される遠因になっている。
４．外からの心理的ストレスには無防備で戸が開放されているが、内部の心理的ストレスは外に解放されない。
父性なき社会〜病める子ども急増〜
欧米との比較研究では、日本の父親が子どもとの接触時間が短く、家庭だんらんんや会話の機会が少ないことが報告されています。また、大学生を対象とした調査で、「自分の人生観やものの考え方について最も重要な影響を受けた人は誰か」という質問に対して、アメリカでは男女とも「両親」を挙げましたが、日本では「同性の友人」でした。
日本ではこのような父親不在のため、 母親任せの状況が進み、母親の育児不安や母子密着を生じ、ひいては日本で急増している不登校・引きこもり・家庭内暴力の問題を生みます。
それでは父親不在はどのような心理的影響を及ぼすのでしょうか。これまで多くの研究では特に父親がいないと不安・心配性の傾向が強く、依存的で自立心が乏しく、勉強・仕事への意欲が乏しく、人生の目標意識が育ちにくくなります。また、特に男性の知能の発達、特に、数学区の成績や合理的な思考能力は父親不在の家庭の男子は明らかに低くなることがわかりました。
女子の発達にとっても、父親の影響は少なくありません。女子にとって「魅力的な父親」とは子どもの時の接触が多く、夫婦関係が基本的に良く、民主的で母親に対して協力的であり、大事なことはリーダーシップを発揮して決断力のある父親です。逆にそうでないと女子にとって悪い男性モデルになり、後々の異性関係に悪い影響を及ぼします。
父親不在といっても、その理由によって子どもに及ぼす影響には違いがあります。一般的に非行少年では両親の欠損（父親不在も含めて）が多いことが知られていますが、父親の死別の場合には非行が少なく、離別の場合に非行が多くなるようです。死別の場合、母親は父親を「立派なお父さんだった」と美化するのですが、離別の場合、母親は別れた父親を全く話題にしないか、激しくこきおろして悪い男性モデルにするためです。
精神科医や心理学者の多くは、病める子どもの急増の原因の一つを「父性なき社会」に求めています。我々はもう一度、父親の存在意義を考え直すべきではないでしょうか。
理想的な家族システム
児童虐待をうむ家族と虐待ネットワーク
Minuchinによる接触障害者・心身症家族の５つの交流のあり方（１）
１．絡み合い（Enmeshment）
家族構成員間の境界があいまいで、互いに巻き込まれ合い、密着しすぎた関係がある
２．過保護（Overprotectin）
家族が互いに幸福に過度の関心を示し合うことである。そのために子どもは家族外へ関心が向かず、自律性が育ちにくい
３．葛藤回避（Conflict avoidance）
互いに異なった意見を持っていることに直面できず、そのような葛藤状況を回避することによって安定を保とうとする
４．硬直性（Pigidity）
慣れた相互関係パターンに固執して、状況の変化に対応する柔軟性がない
５．葛藤を迂回させるために症状を持った子どもが巻き込まれること
（Involement of the symptomatic chile in detouring conflict）
家族システムが脅かされるような葛藤を回避するために子どもが症状を持つことになる。これは両親の反応と子どもの反応の療法によって支えられている
Palazzoilによる摂食障害の家族療法の特徴
１．家族成員間で、相手から送られるメッセージを拒否したり、無視する
２．両親はいずれも主導権を持つことを嫌がり、お互いに責任を回避する。
３．家族の２者間で密やかに連合体ができており、「秘密の連帯」（子どもが父母両方から密やかに同盟する役割をとらされること）や「３方向の結婚」（両親のそれぞれが配偶者への不満を子どもを通じて解消しようとすること）がみられる
４．両親は自己を犠牲にしていることを強調することによって相手を責める
５．両親は表面的にはうまくいっているようにみえるが、お互いに深い幻滅を隠し合い、それを認めることもできない。
機能不全家族への対応の原則
精神障害が家族病理の表れであると判断される場合、その治療には家族の強力が欠かせないものとなります。その際、未成年なら母親、成人なら配偶者など、最も身近な家族一人に対してのカウンセリングや心理教育を行うだけでなく、可能なら家族全員で参加しての家族カウンセリング（家族合同面接）が行えれば理想的でしょう。ここで、機能不全家族への対応に当たって心得ておくべき原則を挙げてみます。
１．母子関係だけを見るのではなく、家族全体の人間関係をみる。「母原病」という考え方にとどまらず、家族システム全体の修正を目指したアプローチを図る。
２．母親の立場に立って、受容的・共感的態度をもって、悩み・心配・不安を聞き、母親の孤立無援感・疎外感・絶望感を受容して、その軽減を図る。
３．キーパーソンは、父親もしくは祖父母（舅・姑）である場合が多いので、父親との面接の上、「家族合同面接」による家族療法の実施が望ましい。
４．子どもの症状の原因を探るにあたっては、家族環境や親の養育態度に限定した、狭い視野では考えないこと。常に、脳の発達障害（ＡＤＨＤ，ＬＤ，アスペルガー症候群など）がないかどうか、遺伝的要因もチェックするなど、多面的・多角的なアプローチを図る。
＊ジャイアン型・のびた型を含む。不注意（集中力不足）学習障害等
５．家族は子どもの問題行動を、表面的に捉えがちであるが、問題行動の背景に隠されているサインやメッセージを出来る限り探るようにする。
おたっしゃクラブ参加者アンケート集計結果
自助グループの効果の一例として、私どもが解説している接触障害者とその家族向けの「おたっしゃクラブ」ミーティング参加者に対して実施したアンケート結果を紹介します。
「仲間に自分の悩みを聞いてもらい、温かく受け入れてもらえた」という親密効果
86％
「回復者の話を聞いて希望が持てた。将来への不安が和らいだ」という共感効果
86％
「家族が適度の心理的郷里を保って接することが出来るようになった」という親子関係の改善効果 86％
「摂食障害について誰かに打ち明けることができてほっとした」というカタルシス効果 84％
「回復者の話を聞いて過食・嘔吐への対処法がわかり、実践してみようとおもった」というモデリング効果 84％
「スタッフのアドバイスで摂食障害に親子関係の歪みが関わっているという理解が深まった」という学習効果 84％
「子どもの摂食生涯を通して自分自身の生き方について考え直すようになった」という人生観の見直し効果 77％
「自分ン尾体験発表が仲間のために役立ち嬉しく思った」という人への奉仕効果
57％
「周囲の評価を気にしないで、あるがままに振る舞えるようになった」という対人スキル効果 80％
理想的な家族システム 「図」
児童虐待をうむ家族虐待ネットワーク 「図」
参考文献 星野仁彦 著
１．機能不全家族 アートヴィレッジ
２．気づいて！子どのものＳＯＳ ヴォイス出版
３．発達障害に気づかない大人たち 祥伝社新書
４．境界性人格障害のすべて ヴォイス出版
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