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2019年11月10日04:08

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 三矢重松先生歌碑除幕式祝詞   {昭和十一年七月}        折口 信夫 撰

 三矢重松先生歌碑除幕式祝詞   {昭和十一年七月}        折口 信夫 撰

この御歌(みうた)よ。石には彫(ゑ)らず、里人(さとびと)の心にゑりて、とこしへに生きよとこそ。かく申す心を、天がけりより来る三矢重松大人のみたまや、かくり世の耳明(みみあき)らかに聞き明らめ給へ。
みまし命過ぎ給ひしより、早く十年(ととせ)に三年(みとせ)あまりぬ。うつし身こそは、いよよ離り行け、おもかげはますくけやけくなり来給ひて、しぬび難くなりまさるに、いかで、大人の命のいひしへの後たづねまつらむの心を起し、千重隔る山川こえて、山川更にとりよろふ出羽(でわ)の国庄内(しょうない)の国内(くぬち)にまうで来つる われどちの心知りたまふや。
みまし命、いまだこの鶴岡(つるおか)の町のこどもにて、わらは髪(かみ)うち垂りつつ、町といふ町巷(ちまた)という巷行き廻(めぐ)り遊び給ひしほどのけしき思はするもの多く残れるを、この里のみ中の春日(かすが)すめ神の御社(みやしろ)よ、遠きその世のをさな遊びに、となりくの同輩児(ともがら)とうち群れたまひ、心もゆらにたはぶれ給ひし日のままぞと、里びとの告ぐるによりてとめ来れば、宮の内外(うちと)の古き木(こ)むらも仰(あふ)ぎ見る額(がく)の絵のかずくも、皆みまし命の幼目(おさなめ)にしてみて親しかりけむと思ふに、大人のかくりみすらただここもとにいまして、今日の人手にたちまじり、たのしみ享け給ふと、今しはふと思ひつ。
あはれ、この処のよさや、里古く屋竝(やなみ)ととのほり、あたりの家居正(いえいただ)しく、人心(ひとごころ)なごみて、ただ静かなる神の みにはなりけり。そのうぶすなの神のみ心おだひに、ここをこそあたへめとよさし給へるまにく、この場(には)の隈処(くまど)をえらび定めて、大人のみ名永く、御思(みおも)ひ深く、里人の心にしるされむと、そのかみ鋭心盛(とごころさか)りにいましし日のよみ歌一つ、
 価(あたい)なき玉をいだきて知らざりしたとひおぼゆる日の本の人
とあるをすぐり出で、よき石だくみやとひて、たがねも深(ふか)に岩にきりつけ、今しここに立ちそそれるを見れば、遠き山川、近き里なみと相叶(あいかな)ひ、ところえてよろしき姿なるかも。あはれ、大人のみたまや。われどちのをじなき心もてすることを、よしとうべなひ享(う)けたまふや。又いたづら事と苦しみ憎みたまふや。唯ひたぶるに、なぐしきみ心に見直(みなほ)し給ひ、心おだひにたまのよすがになしたまひて、ゆりくもここにより来(き)たまへ。しかあらば、この御歌(みうた)よ。里人の心にしみて大人の御心(みこころ)は、見はるかす山川とひとつになりて、とことはに生きなむものぞとまをす。





 三矢重松先生歌碑建立の祭詞                    折口 信夫 撰

昭和十八年七月、羽後国西田川郡湯田川温泉、由豆佐米(ゆずさめ)神社境内にて

天飛(あまと)ぶものと航空機(こうくうき)、空(そら)より行(ゆ)けど、この国土(くにつち)の上(うえ)のこと 一(ひと)つくつばらに知りたまへり。あはれ、むかしの三矢重松大人の命。今しは、またく神成りまして、廿年前(はたとせまえ)も、ことしこの月けふの日も、ひとつ七月(ふみつき)とをかあまり六日(むいか)の日の 若昼(わかひる)の光たださす此石(このいし)ぶみのほどに、みまし命のみ霊(たま)こひ降(おろ)し、鎮(しづ)めまつることのさまを聞きたまへとまをす。此向(このむか )っ峰(を)の金(かね)の御嶽(みたけ)の峯(みね)の石堀(いしほ)りおこし、荒砥(あらと)もてすり、和砥(にぎと)もてみがき、岩肌(いわはだ)なめらかに彫(ゑ)り出でたる文字のいうなると、石工(いしく)がのみの匂(にほ)ふが如きと、歌のみ心に相かなひて、まことも、我どちをぢなき者どもの歌霊(うただま)を、おびかれ出でぬべく、よみ残したまひし大人なつかしく、ともすれば口ずさまるるこれのみ歌のすがたなるかも。
 わが思ふ田川処女(たがわをとめ)に かざさせて、見まくしぞ思ふ。かたかごの花
出羽(いでは)の国田川(たがわ)の西の郡(こほり) み湯わく田居(たい)の田川の傍岡(かたおか)、由豆佐米(ゆずさめ)の杜(もり)にいます神のみたまのふゆにあずかりて、里びとみなよく生(お)い出(い)で、あるは、加賀帽子(かがぼうし)もり出づる眉引(まよび)き清らに、あるは、野の花 山の花、をりかざす髪のたよわき様など、はやく大人の命の、み心あきらに喜び歌ひたまへることなりけり。
里びとや。里の子どもや。新立(いまた)つる石ぶみの歌にあえて、汝(なれ)たち、その美(うる)はしき心の、面(おも)に匂ひ出づるまで、いや勤(いそ)しみ、いや虔(つつ)ましく、すめら御国(みくに)の事あるこの日に仕へまつれ。かく大人の命の歌の心 ときのぶる者は、東京都国学院大学のそのかみの大学学生(ふみやわらは)にて、大人の命のまはび子として、国学の道みさかりにおこる今日この頃、学者なるは学者として、神主(かむぬし)は神主としてあらた代の大御業(おおみわざ)のただかたはしも、おふけなけれど、あななひまつらむ誓言堅(ちかいごとかた)に、ここに集(つど)ひて、大人(うし)のみ霊(たま)にかしこまりまをす某甲(なにがし)、某乙(かがし)なり。      {昭和十八年九月}

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