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2021年05月10日05:54

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ドラマ「イノセント・デイズ」

見ているうちに馴れてくるが、過去と現在が何の前触れもなく行き来するので、最初の1時間ほどはストーリィを把握するのに骨が折れた。このあたりの演出法、フランシス・フォード・コッポラの「ゴッドファーザーpart2」のようだ。
死刑が確定した犯罪に、新事実が浮上して、死刑囚の無罪が立証されるのをよそに、死刑の執行が決定。死刑囚は死刑台への階段を登ってゆき、刑が執行される。演出は最期の最期まで情け容赦なくそれを見つめる。まるで映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のようだ。それだけに後味は悪夢のように悪い。作者はこの作品で、現代における不条理を描きたかったのだろう。演出は始まりからラストまでの約5時間を、事実を抉り出しながら、ところどころ人物たちの心中の誤解や誤謬を交えながら、真相を追ってゆく。それは、乱麻となった事件の事実を一つ一つ確認し、快刀による一刀両断のような手法ではなく、丁寧に、根気強く、もつれた紐を一つずつ解いてゆく。そうすることでなかなか真相に辿りつけないもどかしさと、乱麻の影に垣間見える、真実の刹那の光りを観客に見せ、緊張感を持続させることに成功している。
登場人物の思惑をよそにして、死にとりつかれた幸乃の世界観のために、全篇が暗いヴェールに覆われている。幸乃の生い立ち。そして思春期の頃、親友・理子の罪を彼女が肩代わりしたこと。彼女の出逢ったさまざまな人物たちのエゴイズムや暗い感情によって、彼女の世界は愁いの色に染められてゆく。男運が悪かった幸乃。ストーカーだと思われていた幸乃。祖母からは「あんたなんか世の中に必要とされてない人間なんだよ」と罵られた。負の連鎖。他人から押しつけられた価値観で自分を採点し、自分の価値観がない。
竹内結子と妻夫木聡の熱演が印象に残る。竹内の息切れの演技は、演技に見えないくらい板についており、妻夫木の台詞回しの訥々とした発声法のぎこちなさの演技とともに、視覚と聴覚に焼きついて消えない。
主演の竹内結子はこの頃すでにうつ病を発症していたのではないかと思うほど、演技の印象が暗い。全体に青黒いようなフィルターをかけられた映像であり、笑顔のシーンがない。無力感に打ちひしがれ、喜びのかけらもない。繰り返し観たいドラマとは言えない。どこかに救いのような場面があれば、このドラマ、もっと好きになれたのに、と思う。原作・早見和真。脚本・後藤法子。演出・石川慶。評価5段階でAマイナス。
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