何某さん：宇宙人と宇宙を愛したいひとに
かれは宇宙空間を旅している宇宙人だった
この 宇宙から来たひとは 地球のことばを 話せなかった
一人旅のつもりだったらしい
コンビニエンス・ストアを見 目星をつけ
地球人と 親交を深めようと思って
宇宙共通の言葉をかけ ほほえんだつもりだったが
（いつもならどの星でもこの態度を示せば歓迎された）
背丈は２ｍを優に超していたし 見かけも凄かったし
気味悪がられて
驚いた店員に110番通報されてしまった
地球は宇宙でも僻地の 田舎星だったからということもあった
宇宙人としては 悪気はなかったのだが
何にせよ かれは地球のことばが話せないし わからない
それゆえ やってきた警官が 職務質問したところで
交番の巡査としても おのれの無力を痛感 途方に暮れてしまうのだ
とりあえず名前がわからないので
仮の名前をつけられた
「何某(なにがし)さん」
この時点では かれはどこかの国のひとのように思われていた
見かけはおそらく コスプレだろうと判断されたのだった
何某さんはその 何とも形容しがたいルックスだったために
留置場で虐待されたらしい
何のかぶりものをしているのだと 卑しい男たちにみだりに身体を触られもした
地球は友愛にみちた 蒼くうつくしい星だと 聞かされていたから
現実とのあまりの落差に失望したに違いなく
何某さんは 地球のひとと 親交を深めたいだけだったのに
身柄は入国管理局に送られ かれは拘置されたまま 永い間 自由になれなかった
また 地球にはかれの星の食べものは一つもない
それだけにあらず
いろんなことがみな裏目に出て 何某さんはしだいに衰弱していった
独りぐったりしているかれを見 驚いた局員によって
救急搬送されたが
地球の医学では かれの肉体に治療を行うほどの科学力はない
結果的には 治療は行われなかった
それどころか 科学者の研究のための材料となり
何某さんの身体は 生体実験の対象として扱われることになった
宇宙人に人権はないのだ
その後 何某さんは病みおとろえ
やがて死んでしまった
その後かれは遺体解剖され いまは研究室の巨大な硝子容器のなかにいる
容器には 名前もなく
ただ�爍銑瓩箸世院．泪献奪�で記されている
宇宙人何某さんの ふるさと
「φ（宇宙共通語で「地球」と言う意味）」では
行方知れずのかれを捜して
いまも捜索活動が続いている
何某さんにも親も友だちもいて
毎日 かれの身を案じては 星空を見上げている。
指田悠志
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