岩本山の頂に
もう 富士山に登るのもつらいから
岩本山の頂に 富士山麓の夜景を眺めた
生きることは育つことであり
老いることでもある
人を憎まずして生きられたらいいと思うし
ひとを愛して生きられたらもっといい
眼下の富士宮の夜景は
ちいさな銀河のようにあどけなく
大いなる富士を影画のように
浮きあがらせている
富士の女神は老いず街だけが老い
淋しく廃れてゆくように感ずる
僕はこの街に生まれ育ち老いていずれはここに死ぬ
生も死も同じ人生の現象であり
結果であり
ひとはみずから育つために食べ
正しく老いるために食べる
人生は旅
その途上には出逢いがあり 訣れという慟哭がある
友や愛する者を 死をもって喪う旅路もある
無上のしあわせを夢見
幻滅に陥る現実も それも人生
誰を何を愛せばいいのか 何を誰から学ぶのか
それはそのひと次第で 誰に指図されることもない
生きることは限りなく正しい
友よ 愛する者よ おのれよ
岩本山からの夜景は 夜もすがら消えないし
富士山の影も その稜線も
馥郁と 匂いたつように聳えている
とこしえに
とこしえというものが 実際に無いとしても
人間の心の とこしえは消えない
にんげんの不思議
未だ解き明かせない謎が ひとりの人間のからだに
脳髄にあるように
消えないのだ
指田悠志
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