批判的なことも書かせていただくが、建設的なことを書くことを心掛けたい。
BSが観られないので実際の放送は見られなかったが、YouTubeにアップされたものは見られたので、感想を書かせていただく。
空襲警報の場面。警戒警報でないということは、どこかで爆撃が行われている可能性が高い。それが広島でないにしても、すぐに逃げなかった明子の行動は何だったのだろう。爆撃の時やってくるのはB29の編隊だけではない。グラマン・ヘルキャットもいればロッキードP38もいる。爆撃機の護衛も兼ねていっしょに飛んでくるのだ。それらが超低空飛行で機銃掃射でもして来たら（東京大空襲の時、アメリカ空軍は超低空飛行で爆撃を行った）と思うとぞっとする。
くだんのピアノ。よくも非難されずに戦争を生きぬいたものだと思う。下手をすれば、供出される可能性もあった。おそらく明子さんのご両親が身を挺して守ったのだ。その際、非国民呼ばわりされた可能性もある。敵国アメリカで生まれたピアノなら当たり前だ。たぶん黙っていたのだ。賢いお父さまだと思う。
憧れていた教師の出征。この場面、素直に万歳三唱できないつらさは察するに余りある。身の入らない万歳は叱責の対象となる。ビンタが飛んでくるくらいは覚悟しなければいけない。明子さんの憧れの教師は陸軍だったようだから、どこへ送られたか。最前線でないことを願う。
作中で語られた大豆粉の練り物の唐揚げ？（のようなもの）。このレシピ、当時のものの再現だろうが、それを少しでも描けたのはよかったと思う。「この世界の片隅に」の楠公飯のようでもあるが、面白かった。
河本家の食卓。何気なく座っているようであるが、坐る場所にも序列があることをちゃんと理解している。当たり前のことだが、上座、下座があり、男と女の座る場所にも序列があることを、把握しているようだ。もちろん食べる順番にも、だ。まず父が食べ、息子たちが食べ、母と娘が食べ始める。食事を減らす明子さんに自分の分を与えようとするご両親。河本家はそういうところ、リベラルだったようだ。
演出は観客である視聴者へむかって、情感に訴えるドラマ作りをしている。日本人にはこれで十分だろう。だが、この、あまり理知的でない演出が、海外の視聴者、外国人にどう伝わったか。それを思うと、こういうものでは強く訴えかける力に乏しいと言わざるを得ない。
勤労奉仕で銃弾を磨いている場面。明子が無表情で、じっと銃弾を見つめるシーンが数秒間、ちょっと長めにあったけれど、何の説明もないので何だかわからなかった。
「この小さな、金属の塊が、人を殺めるのだ。」とか、明子のモノローグ、ひと言でいいから欲しかった。
演技者について。主演の芳根京子。演技者としてはまさに伸び盛り。今や乗りに乗っている感がある。被曝して家への３�劼發瞭擦里蠅鯤發�、力つきた明子さんを演ずる芳根さんの、朦朧たる表情。迫真の演技で思わず涙腺が緩む。ただ、この演技はこれでよかったのだろうか。戦時中のことについて詳しくないから、いたずらに懐疑的に観てしまうのはやむを得ない。広島の市街地は草も木も燃えつくしたろう。灼熱の曠野をさまよう思い。道らしき道もなく河を泳いで渡ったというが、爆心地から１�卉賄世任糧鑁�なら、皮膚もただれ、衣服もぼろぼろだったろう。広島には行ったし、原爆資料館も観てきたけれど、爆撃直後のリアルタイムの爆心地を観てきたこともない、視聴者であるぼくには、この８月６日の情景について何を言うことも出来ない。何が事実で何が事実でないのか。それが判然としない。
この作品に限らず、気になっていることがひとつ。芳根京子はただ黙って涙する表情の演技はものすごく上手いのに、泣き声をあげると甘えん坊のようになり、演技が単調になる。このドラマでも、「お父ちゃん、お母ちゃん、ごめんなさい」の台詞が、ただの甘えん坊の泣き声になっている。胸を打つ場面だが、ちょっと待てよと思う。明子さんは河本家の長女である。だから同じ泣くにしても甘ったれた声は出さなかったはずだ。ともかく、この演技、とても気になった。
それと、仮説でいいから、明子さんが昭和19年７月13日の日記を最後に、筆を折った理由を想像で描写してほしかった。おそらく、毎日の日記がまるで愚痴を書いているような気がしてきて嫌になってしまったのかも知れない。
昭和20年８月６日。運命の朝。風邪気味の明子さんは熱があるにもかかわらず勤労奉仕に出かけていった。お父さまは休めと言われたが、もし仮に休んだら、休んだで、当日奉仕に出かけた女学生仲間に何と言って詫びたらいいのかと、明子さんはきっと自分を責めたに違いない。そんなことを言っていたら己の命も守れない。現代の人ならそう考えるだろう。結果論に過ぎないが、死んでしまうか、後悔の人生を生きるかという二者択一。どちらも歩みたくない人生である。100歳まで生きた父、源吉さん。103歳まで生きた母、シヅ子さん。ご両親は明子さんの分まで生き、天寿を全うしたのだろう。天国に戦争はない。いまは戦争のない国でみんな暮らしているだろう。ご家族は幸せに違いないし、そう思いたい。
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