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2020年03月24日07:18

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コタキ兄弟と四苦八苦（第六話～第九話）

「第六話・世間縛苦」
魔がさしたんじゃなくてよかった。日ごろからさっちゃんのことを妹のように思っていたという一路だが、お金を返してもらう時、「魔がさすと地獄へ行くんでしょうか」とさっちゃんに訊かれて、答えられない。さっちゃんは妙な雑誌をもってきた。ムラタさん？（音声が聞きとれない。無字幕）がくれたという、地獄について解説した本である。何でも地獄とは階層になっていて、罪の重いものほどつらい苦しみを味わわされるのだという。それを聞いてぼくは昨年のいだてんの志ん生の「肥溜め地獄」を思い出した。何でもその地獄では、首まで肥溜めに浸かって、タバコを吸っている。タバコが吸えるんだから、罪が軽いんだと判断した男は、この地獄を選んだが、浸かっていると上から声がした。「休憩時間終り！　潜れ！」(笑)。一路のレンタルオヤジはハナさんという女性からの依頼。二路はタワマンからお呼びがかかった。六本木ヒルズ？　東京のことはよくわからないから、そっちのことは適当に書いておくが、タワマンでの依頼は高級なオードブルに高級ワイン、贅沢極まりないがカジュアルなパーティなので二路はノリノリである。が、話を聞いてドン引き。何とここは「覚醒剤地獄を抜け出したひとだけが集まるパーティ」。こいつら金持ちの招待受けたジャンキー野郎どもだったのか。
その頃一路はハナさんを待ちながら、ジャン・レノに似ていると一瞬言われたことのある過去を、誇らしげにちらつかせた。似てない。似ているのは無精ひげと眼鏡だけ。ジャン・レノってどこへ消えちゃったんですかね。「グラン・ブルー」や「レオン」のころは、肩で風切って威勢がよかったのに。その後の彼を知らない。そこへハナさん来店。以前の二路のケータイの待ち受け画面に映っていた女の子と気づけば早かったが、一路はそれを知らない。おまけにローティーンのこどもたちが死ぬほど苦手という。一路さん、六花ちゃんですよ。ああ、この声は放送電波には乗らない。
一方の二路。相も変わらずノリノリだが、途中で入ってきた美女を見てフリーズ。あろうことかこれが妻の有花だった。そこから話題を彼女の無職のダンナの話に振られて、生き地獄に急転直下の二路。
英語のご教示をとハナさんに言われて、２年ほど遣っていなかったタドタド英語で会話をする一路。発音もなんだが、こちとら高校を中退してから40年が経過しようとしているので、何を言っているのかさっぱりわからない。陰で見学しているさっちゃんも「字幕が欲しい～っ」とうめく。中学の英語の宿題というのが、日本の家族制度について。一路の父はいいかげんで、母に隠れて浮気？もしたらしい（映像が止まり聞きとれない）。二路は、浮気はしないが、いいかげんなところは父そっくり。一路は父にも母にも似なかった。きっとそのことで疎外感を覚えていたんだろうな、という察しはつく。予備校でもジョークや雑談の下手な一路は、次第に浮いた存在になり、果ては学級崩壊。それを聞いて、ジョークなんか言っている暇あるなら授業をやってほしいとハナが助け舟を出す。ハナさんは中学生だが、大人びていて、一路の言い分にも共感を示す。ハナさんのクラスも学級崩壊。まともに授業受けたくない子ばかりなら、受けたい子は別の教室に移るから、先生もそっちで授業をしてくださいとお願いしたら、クラスメイトから「お前ウザイ。消えろ」と言われたらしい。突然席を外し、居眠りしているさっちゃんを起こす一路。「ダメです。これほどぼくと意見の合う異性に逢ったのは初めてです。どうすればいいんだ。このままでは○○地獄（聞き取り不能）に落ちてしまう！」。一路の額の汗が凄いことになっていた。化粧室へ入る一路。さっちゃんは何？事件勃発？と警戒、ハナさんに話を聞きにゆくが、何の異状もない。ハナさんに「オレスカ」のおかわりを頼まれる。オレスカ？何それ？（これでハナさんが二路の娘、六花だとさっちゃんにわかる仕掛けである。いつもながら野木亜紀子、芸が細かい。）
一方の二路。不安定な収入でやっていけるの？　ま、ぼちぼち。結婚したいと思わないの？　なぜ俺が結婚してないと思った？　してるんだ。奥さんどんな女性？　いい女。俺が見ても。誰が見ても。娘もメチャカワ。超ハッピー。おまけにラブラブ。ここで拍手が巻き起こる。そう言えば主夫宣言をした時、ミック・ジャガーとかがジョン・レノンの主夫生活を日和ったとか、もうミュージック・シーンに戻らないのかとか言ったけれど、ジョン・レノンはどこ吹く風だった。世間の価値観には左右されないだけの気持ちの強さ。それをジョンは確かに持っていたんだと思う。それはWatching the Wheelsという曲に詳しく歌われている。
化粧室から頭ビショビショになって帰ってきた一路。ここでハナさんのカミングアウトがあった。名前嘘ついてました。古滝六花です。二路の娘の。伯父さん、留学のお金出してくれてありがとう。おかげで人生明るく風通しもよくなりました。パパちゃんも助言してくれてステキだけど、ママちゃんも具体的に留学のこと考えてくれた。それに伯父さんの出資。三人の協力がなかったら留学なんかできなかった。ほんとうにありがとうございます。気が合うと思ったら道理で。姪っ子だったのか。すっかり拍子抜けの一路。ところでうちの両親、今どうなっているんですか、と聞き直す六花。
一方、タワマンで質問攻めされる二路。老後の貯金は？　ゼロ。なんもなし。イソップの寓話「アリとキリギリス」の話をこどもの頃から教訓として聞かされてはいるが、大人になってみると、あれには違和感がある。なぜなら、根本的なことにあの童話は答えていないからだ。つまり、「人生とは何のためにあるのか？」。「好きなことをやることも我慢して貯金して死ぬ」。それが人生の意味なのか？　そうじゃないだろう。人間貯金するために生きているんじゃない。やりたいこと、やるべきことを見い出し、その方角へ邁進（まいしん）し、自分の課題を乗り越え、自分との闘いに勝利して、得るべきものをつかむこと。そのために生きるんじゃないのか。食いもんが無くなったから死ぬのも、それも人生ですよ。ただね、そこだけを見て「人生の敗者」だと決めつけないでもらいたい。君の価値観をぼくに押しつけるな。そういうことですよ。ジョン・レノンが言いたかったのもそれだろう。二路の人生の在り方。ぼくは否定する気にならない。稼げる人は稼げばいい。けれどもそういう路でなく、他方に才能を花開かせるひともいる。そういうひとを、他のひとと違うからって否定しないでもらいたいと言いたいんです。二路はどんな仕事も続いたためしがないけれど、子育てだけはうまくいって、六花はいい子に育っている。有花も援護した。二路ちゃんがいてくれたお蔭で、うちの一家は駄目にならずに済んだ。働くのを選んだのは私。家事から逃げたのも私。うちのことみんな二路ちゃんがやってくれたからうまくいっていたのに、何で私たちのことを異常だなんて言うの？　疲れて帰ってくるといつも二路ちゃんが天真爛漫な笑顔で迎えてくれる。どれだけ救われているかみんなわかっていない。
タワマンに集まった連中。みんなどこかが崩壊している。破綻を見せているのにそれに気づいていない。二路と有花の夫婦の方がずっとまともに見えてきた第六話だった。（ところで。「六花」ちゃんは冬の生まれに違いない。「六花」とは「むつのはな」。雪の結晶をさす言葉だからだ。いい名前である。）
日頃見下していた二路に、あんな気立てのいい娘がいた意外性。一路は少し二路の生き方を見直したのではないだろうか、と傍目には思ったのだった。
「世間縛苦（せけんばっく）・俗世間の価値観に縛られる苦しみ。」

「第七話・病苦」
今回はシャバダバもさっちゃんも登場しない、レンタル兄弟オヤジだけの話である。
日本の孤独死する人口は年間３万人。この数は自殺者の数に匹敵する。
さるアパートの一室の前に立ちつくす兄弟オヤジ。依頼人の中村くんはここの住人の友人。今遠隔地にいるが、連絡が取れない。様子を見てきてくれという。しかしだ。インターフォンを幾度鳴らしても出てこない。郵便受けは郵便物なんやかんやでパンパン。なのに電気のメーターだけが廻っているって、これは完全に孤独死の状態と考えても無理はない。よし、帰る。と言う二路。帰れないだろ。依頼された時にお金をもう受け取ってるんだ３時間分。中で腐乱死体になってどろどろになっていても、俺たちにはそれを確認する義務がある。と、一路。
応えて。応えないと開けちゃうよと、ドアノブを開けると、開いている。鍵がかかっていない。中に足を踏み入れると中はごみ屋敷。足の踏み場もない。こういうのをセルフ・ネグレクトというのだということを、昔ネットで読んだことがある。１ＤＫ（バス・トイレ付）の一人暮らし用のアパートのようだ。この部屋。ごみに埋めつくされていて誰もいない。寒い。え？　今声がした。アニキ、いま足もとでムニュって音がした。何か踏んだ。あ、手。手が。出たあぁぁぁぁ。貞子か。元看護師の神野あかり（門脇麦）さん？　あかりん？　え、だれ？　誰ってレンタルオヤジですよ。
何でエアコンつけっぱなしなの。リモコンどこいったかわからなくて。それに食べもの腐るのやだから。だったらごみを捨てましょう。近所のごみ小父さんが朝の６時から８時までにごみを出すことっていうルール勝手に作って。火曜土曜がごみの日で、それがどっちも私の夜勤の明ける日で、出すに出せないの（だがその理屈、変である。あかりんはもうすでに看護師をやめ、今は無職である。ということは指定された時刻に起きて、ごみを捨てることを問題もなくできるはずだ。それが出来ずに散らかし放題というのは、自分の世話も満足にできない、〝セルフ・ネグレクト〟状態と考えて支障はないのだ。）。
マイナス思考しかしないある医師の不機嫌が看護師に飛び火、院内が険悪な雰囲気に包まれた。その空気に耐えられずあかりんは爆発。糖尿病の患者の尿袋を医師と看護師にぶっかけてしまったという。おかげでその場は糖尿の甘い匂いが漂い、不衛生な場を元通りにするのに大変な目に遭った。それが原因で退職。聞けば長い話なので端折るが、それで生きる気力を無くしてしまったのだろう。ただ、話し方は聡明な看護師らしく落ち着いているし、理路整然としている。世の中の歪みはこんな賢明なひとにも負のウィルスを飛び散らせ、マイナス思考に変えてしまうのだ。気の毒な話である。
負の連鎖が兄弟にも感染し、マイナス思考に陥る二人。植物。植物になった俺たち。光合成をしている３株？の植物兄弟とあかりん植物。って何の夢だ？　ん？　臭い。何だこの臭いは？　これは野良犬の体臭だ。あかりん、君は何日風呂に入ってないんだ？
あかりんを風呂に入れているその間に、一路は依頼人中村くんと電話。どうやら彼とあかりんは恋人っぽい関係だったらしい。と思ったが、彼にはまっちゃんという恋人がいる。ところが二人は最近別れたという。それとさっきあかりんに電話をつれなく切られたことで、燃え上がった中村くんは、すぐさま新幹線に飛び乗り、遠路新潟からはるばるやってくるという。兄弟があかりんと一夜を共に（一緒の部屋で寝入ってしまっただけだが）したことが、彼の怒りを買ったらしい。
あかりんがお風呂から出てくると、彼女の様子が一変していた。ポジティヴ・シンキングのできるかつてのあかりんが復活していたのである。だが問題の中村くんがもう着くころだ。めんどくさい。そういう話、いや。と言って、あかりんはごみを部屋に戻しはじめた。そこへ中村くん到着。彼も笑って、ごみを部屋に戻す。用が済んだので兄弟は帰ることにした。依頼以上の時間働いたし、十分貢献した。もういいだろ。あとは勝手にやってくれ、といった展開。
今回のコタキ兄弟は、落ちが若干尻すぼみ。もう少し納得のゆく終わり方なら、題材は悪くないのだから、盛り上がったはずと思う。セルフ・ネグレクト。かく言う筆者のぼくこと指田悠志も18ヶ月前は、完全なセルフ・ネグレクト状態であった。おまけに酒を毎日浴びるほどのみ、急性アルコール中毒によるアルコール依存症と診断され、長期入院を強いられた。両親も部屋を見て絶句。あきれてものが言えない状態であったが、外泊の時に少しずつごみを整理し、分別し、出してゆき、もう部屋に必要のないものは片づけ、徹底した断捨離を行った結果、なんとか人の住める部屋になってきた。まだまだ部屋はとっちらかっているが、一日その気になって、掃除をすればどうにかなるレベルのちらかりようにまで回復している。主治医とケースワーカーさん、そして両親の助力がなければここまでできなかったと思う。彼らに惜しみなき感謝の言葉をささげたい。
「病苦・病を抱える苦しみ」。

「第八話・五蘊盛苦」
シャバダバでは今日から「わかめフェア」が始まった。唯一の救いは、乾燥わかめなので、日持ちがするってところだ。生ものだったら目も当てられないが、それにしてもちょっとした隙を突いて集金に来る謎の三河屋対策に追われるさっちゃんの心中は穏やかではない。
父親の話を兄弟にするさっちゃん。船乗りで、船の事故で死んでしまったのだという。シャバダバで働きだしたのも、ここを父親が好きだったからだという。ここでさっちゃん、爆弾発言。同棲していた恋人と別れなくちゃならなくなって、ここへ来たんです。えっ同棲？　相手は？誰？　収入は？　頭の中がパニックの一路である。さっちゃんの話は続く。その時、稲荷神社のところにＹ字路があって、右は行ってはいけない道（何故かはわからない）、だから左へ行くと、そこに喫茶店が。名前を覚えていたわけではないんだけれど、あった。ここでたぶん間違いない。お父さんの言っていた店だ。そこにたまたま「アルバイト募集」の張り紙が。さっちゃんは当時他のカフェで働いていたが、思わず飛びついた。それにしてもさっちゃんみたいないい娘を振る奴はどこの誰だ。さっちゃんは思い出す。あの隠れ家のような彼と暮らしたアパートでの生活を。今でもかなしくてたまらないのだ。あったかく愛に満ちた毎日だったのだろう。
ともあれ、三河屋憎し。さっちゃんが席を外した隙に、三河屋に大量にわかめを売りつけられてしまったのだ。半分ボケているような米吉さんを手玉に取って、よくも！というところだが、売りつけられてしまったものはしようがない。もしさっちゃんが筋肉むきむきのスポーツ男子だったら、あんななめられた真似はされなかった。さっちゃん悔しいのはわかる。
事件が起きたのはそんな折。コタキ家の朝。二路が起きると、いつもは一路の寝ている蒲団に寝ていた。奥座敷である。枕もとにメガネがない？（え、何でメガネ？）いつも二路の寝ているところに寝ていた一路の枕もとにあったので、メガネをかけるとなんと！一路が寝ているではないか！（当たり前だ）なんで俺がここに寝ている？　じゃあ俺は誰？　二路？　姿見のところへゆく兄弟。お、れ、た、ち、入れ替わってる！（「君の名は。」か！）「シャバダバ」へゆく兄弟。ここで古舘寛治と滝藤賢一の入れ替わりぶりが鮮やかで可笑しい。古舘の粘着質の台詞回しを滝藤がやり、滝藤の能天気オヤジっぷりを演る古舘も可笑しい。だが滝藤はうまいね。古舘以上に古舘っぽい台詞が次々出てくるので、こっちもほんとうに入れ替わってるつもりで見てしまう。有花とよりを戻して暮らすとどうなる？　え？　俺が有花さんと夫婦？（内心喜びを隠しきれない二路（中身は一路））ともかく、元に戻す方法を考えましょとさっちゃん。あ、もしかして昨日食べたわかめピラフとわかめカレー。あれか？（と、さっちゃんわかめを山盛りのボウルごと持ってきた。）山積みの箱入り乾燥わかめを、少しでも消費させようと躍起になるさっちゃんだが、これだけ食べて入れ替わらないんだから、わかめのせいじゃないんだよ。それにしても、このわかめのまずさは尋常ではない。
あ、そう言えばお稲荷さんとこのＹ字路で、二人して流れ星を見た。それですよ、それ。Ｙ字路へゆく三人。ところでなんで右は行ってはいけない道なの？　さあ。でも一度だけローマを探しに行ったことが、と、さっちゃん。ローマ？何でローマ？　お父さんの次の航海がローマなので、私も行こうと思ったんです、「全ての道はローマに通ず」ってお父さんに言われたから。と、そこから次々流れ星が流れるので、三人は入れ替わりまくり。兄弟はいいが、さっちゃんまで兄弟オヤジに入れ替わるので、ますます混乱してくる。そのうち兄弟はどこかに消えて、ムラタさん登場。右の路を示して、「全ての道はローマに通ず」ですよと言ってくれた。促されたとおりに行くと、目が醒めた。さっちゃんは店のカウンターでうたた寝していたのだ。入れ替わりの風変わりな話はぜんぶ夢だった。さっちゃんが寝ている間、店のことはすべて兄弟がやってくれていた。いいひとたちなのだ。
幼い頃、さっちゃんは兄弟に逢っていた。ローマを探して迷子になっていた時だ。狸の置きもののお腹に「ローマ」と書いて、ここがローマだと言ってくれた。その狸の置きものは、今もコタキの家の物置にある。さっちゃんとコタキ兄弟には切っても切れない「えにし」があったのだ。
「五蘊盛苦（ごうんじょうく）・肉体と精神が思うがままにならない苦しみ」。

「第九話・増上慢苦」
ある日のこと。二路が古滝家で封筒を探していたら、お菓子の空箱の中に大きな茶封筒を見つけた。中には封筒。その中にも封筒。一路が大切なものを隠すときにやらかす性癖である。そしたら最後の封筒の中に、入っていたのは何と、「さっちゃんの写真」だった。それも前に勤めていたカフェでのもので、しかも隠し撮り。それが何枚も大切に保管されていた。ストーカー？　兄貴がストーカーなのか？　兄貴はさっちゃんがシャバダバに勤めはじめたころから、この店に通っていたなんて言っているが、本当のところはどうなのか。ほんとうはさっちゃんが勤めはじめたから、通っているんじゃないのか。
と、そこへ依頼人が来た。依頼の詳しい内容は省くが、要はある奥さんの夫が通いつめている「レンタルおじさまの伝道師・ボブ」のセミナー？について調べてほしいとのこと。何でも年収650万。これをきいて色めき立つ兄弟だった。
会場へ行くとそこはほぼ満席。込み合っている。ボブ（吉沢悠）が「ツァラトゥストラはかく語りき」の派手な音楽に乗り、登場した。
「俺たちは足ふきマットだ。いつも踏みつけにされてきた。だが俺たちはニトリでも無印でもない。俺を踏みつけるな。Ｎｏ！　ノー！だ」。次第に異様な雰囲気に包まれてゆく館内。「俺を踏みつけるな！立ちあがれ！」すっかり雰囲気に呑まれ、さすがの兄弟も会場総立ち、拍手の渦の中で酔いしれていた。明らかに洗脳を目的とした集会。こないだのセルフ・ネグレクトのあかりんの件で、情動感染には免疫ができている兄弟は、会場を出たら素面に戻ったが、他の出席者は軒並み洗脳され100円均一で買えるタオルを千円出して買っていた。650万は主催者の年収。このセミナーで荒稼ぎしているのは見え見えである。
そこで、兄弟は、「レンタルおじさま」の牙城崩しにセミナーに参加したおじさん連中を、シャバダバを会場に〝教育〟し直すことをはじめた。650万のうちわけを謎解きのように吹聴するわけだ。しかしねえ、それはいいが、このままじゃすまないよ。
レンタルおじさまの方でも、レンタルオヤジの牙城崩しをはじめた。こうなってはもう足の引っ張り合い。同業者なのに、何でこんなことになるんだ。さっちゃんが、わかめを配るのは？と名案？を出した。三河屋はもう隣町に引っ越していないし、あとわかめは段ボール２個？までに減っている。このわかめを売りつけることで、さっちゃんも兄弟も万々歳。こののちも二者の足の引っ張り合いは続いた。
ムラタさんが話を聞きつけてやってきた。レンタルオヤジの名を掲げ、無許可に人を呼んで荒稼ぎするとはどういう了見ですか。これはレンタルオヤジの名の私物化、それにレンタルオヤジの登録者への営業妨害だと皆さま大変ご立腹です（一路はルパン、二路は次元、さっちゃんは峰不二子の扮装をしている）。今後もこういうことをまだなさるようなら、登録解除しますから、そのおつもりで。ムラタさんがここまで怒るのは滅多にないことだ。それにしてもやりすぎた。
そこへボブ登場。背中合わせの隣のテーブルで、今のやり取りをずっと聞いていたのだ。そこでカミングアウトがあった。ボブは元レンタルオヤジだったこと。暖簾（のれん）分けのかたちで独立し、「レンタルおじさま」を立ち上げたこと。荒稼ぎはするが、レンタルオヤジの営業妨害はしないという〝協定〟が出来上がっている。私のやっていることは詐欺じゃない。あの100円均一のタオルだって、みんなわかった上で買っている。みんなで貧しくなれば、共存共貧がきみたちの望みなのか。ボブのセミナーに来ている会員の一人に探偵をやっているひとがいて、兄弟の情報を詳しく調べたという。こんな情報ばらまかれたらあんたらおしまいだろ。レンタルオヤジをやめるか、情報ばらまかれるか。二つに一つだ。どっちだ。答えろ。
そこへさっちゃんが助け舟をだした。この兄弟オヤジさん、弟のほうはともかくとして、お兄さんの方は、この店が儲かるように、ものすごくよくしてくれるんです。ここでセミナーみたいなものをやったのも、売り上げに貢献するためでもあると思うんです。私に免じて、この二人を赦してやってはもらえませんでしょうか。
このボブ、イケメンゆえに女性にもてまくり、女性相手のレンタルオヤジだけで年収がっぽり設けていたらしいが、切ろうとしても切れない女がいて、そのために傷害事件が起き、刺されて死にかけたことがある。もう女はこりごり、それでレンタルオヤジを辞め、レンタルおじさまをはじめた。俺は全国の自信を失くしたおじさんたちに自信を取り戻してほしいんだ。俺はまだやれる。まだがんばれるんだってことを、証明させてやりたい。そのためにやっているセミナーなんだ。あなた方にこれだけは言っておく。お兄さん、あんたは上から目線で相手の顔を見ないこと。弟さん、あんたは、話を冗談半分で聞かず、ちゃんと親身になっている態度を示すこと。これ、ボブからのアドヴァイス。
（ここまで観ていて気になることがひとつ。このボブを演じている吉沢悠、セリフ廻しが、「シャーロック」でのディーン・フジオカにそっくりだ。どっちが本家なのだろう？）
案外いい奴だったな。と、二路。一路はボブに言われても、態度を改める気がないようでいて、案外相当に気にしている。ボブの言うことには一理も二理もあった。話せばわかる、さばけた人間であるところ。融通の利かない一路よりは、そこは人間が上に見えた。
探偵の調査書には行方不明の父親の居場所まで調べ上げてあった。あと、今回の冒頭に出てきたさっちゃんの隠し撮りにまつわる話だが、さっちゃんは兄弟の腹違いの妹。父親の浮気相手との間に生まれた娘だと、一路が告白した。天地がひっくり返るような爆弾発言である。
「増上慢苦（ぞうじょうまんく）・思い上がってしくじる苦しみ」。
今回のテーマは自分にも思い当たるふしがある。ぼくは根拠のない自信家なので、時として増長してしまうところがある。人間は常々から自粛、いや恐縮していた方がいい時が少なからずある。あと、人の話に割り込んでしまう性癖も改めないといけない。しゃべるべき時とそうでないときの区別も見極め、要は空気を読むこと。むつかしいが、大人として必要なことである。戒めないといけない。

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