mixiユーザー(id:67124390)

Javascript の設定が無効になっているため、一部の機能を利用できません。

詳細はヘルプをご覧ください。

2020年01月27日02:21

178 view

The Beatles 楽曲評（まとめ）

Baby’s in Black

64年のアルバム「ビートルズ・フォー・セール」収録曲。ジョン・レノンとポール・マッカートニーは契約上作曲家としてコンビを組んで作曲することになっていたが、通常はジョンの持ち寄った未完成の曲をポールが手を加えて仕上げたり、その逆だったりの協力関係で曲を完成させる場合が多く、初期から中期にかけてはそういう曲が殆どを占める。そして後期の二人は全く協力し合わない単独作が全てを占めるようになってゆく。

そういう点を考慮に入れてこの曲を調べてみると、意外なことがわかった。この「ベイビーズ・イン・ブラック」、純粋な意味での共作であり、ジョンとポールはこの曲を同じ部屋で、二人してギターを抱え仲良く作曲している。だからどの部分がジョンの作曲でどこがポールと断定できないほど、互いのアイディアを出し合って完成されている。そういう意味では非常に珍しい共作曲と言える。言わばジョンとポールの蜜月時代の作品なのだ。

ジョージによるイントロの不安定なギターが実に印象的。こういうギターをイントロに持ってくることができるようになってきたというのは、ビートルズもアーティストとして意識的な録音に手を染めはじめた証拠とも言える。リード・ヴォーカルは全編に渡ってジョンとポールが執っている。つまり最初から最後まで二人が仲の良いハーモニーを聴かせているわけだ。この曲、アルバムのレコーディングのいちばん最初に録音した曲という。

本作「ビートルズ・フォー・セール」。発売当初の評判はあまり良くなかった。64年の後半に出たのだが、ハード・スケジュールに明け暮れ疲労もたまりにたまっていたということもあった。だが聴き込んでみると、「ラバー・ソウル」への布石とも言うべき意識的な編曲術の片鱗を随所に聴き取ることができる。ファンには非常に興味深いアルバムと言える。

For No One

66年作。アルバム「リヴォルヴァー」収録曲。ポールの曲。録音に参加しているのは、ポールとリンゴ、そしてアラン・シヴィルというセッション・ミュージシャンのみ。ジョンとジョージは関わっていない。ピアノとハープシコードによる伴奏。それにベースが加わる。ドラムスは非常にシンプルで、ハイハットとスネアとバスドラムが録音されているだけ。そしてタンバリンが聴き取れる。間奏でセッション・ミュージシャンによって、ホルンが奏でられる。それだけの演奏である。無駄な音が一切ないと言えばいいだろうか。ホルンは一人のみ。だから、同一楽器によるハーモニーというものはない。ヴォーカルもポール一人が担当。ハーモニーを聴かせるパートはない。にもかかわらず、幾度聴いても豊かな印象のある素晴らしい演奏である。

歌詞もポールによるものであり、ジョン・レノンは関わっていない。男女の苦い別れ、その冷たい朝の情景を乾いた文体で歌っているところは、ジョン・レノンの「ノルウェイの森」との共通点を感ずる。しかし、淡々とした歌いぶりだからこそ、えも言われぬ余情を感ずる。特にアラン・シヴィルによるホルンの間奏がたまらない切なさをかきたてる。

ジョンはポールの書いた曲の中でもっとも好きな楽曲の一つと、賛辞を惜しまなかった。レナード・バーンスタインは「リヴォルヴァー」を実験精神溢れた見事なアルバムであると言っていたが、その中核をなす曲として見過ごすわけにはいかない作品である。世に完璧な演奏は数少ないが、この曲はビートルズの楽曲の中でもっとも完璧なものの一つと言える。音、言葉の加える、削る、どちらの必要も全く感じないからだ。ビートルズはこの年、すべてのライヴ活動を休止、レコーディングに専念すると宣言している。この曲は、そんな過渡期の名曲である。

Strawberry Fields Forever

イントロ。それまで誰も聴いたことのなかったメロトロンによるフルートの音色である。66年暮れに録音されたビートルズ屈指の問題作。全てジョン・レノンによる作詞作曲であり、編曲にもポールは一切関わっていない。ジョンはこれを自身の出演した映画のロケ地スペインで書いている。大変な苦心作であった。題名になっているのは彼の少年時代、家の近所にあった救世軍の所在地の名。

録音の違う二つの演奏をテープ操作で接続するという、大胆な試みがなされている。前半の演奏のキーは低く、やや遅いテンポで録音されていたのでテープ・スピードを半音上げ、後半の演奏のキーはそれより一音高く、心持ちアップテンポで録音されたから半音下げてこの二つを繋いだ。前半と後半は使われている楽器も全く違う。前半はギター、ベース二本、メロトロン。ドラムス。後半はトランペットとチェロが登場し、加えてハープシコード、ギター、ベースレスでドラムスには特殊な電気処理が施された。それにしても前半の両サイド、二本のベースを全く違うベースラインで奏でるなど、常識では有り得ない演奏である。ビートルズは楽譜が読めないし書けないので、トランペットとチェロはジョンに言われる通り、ジョージ・マーティンがスコアを書いて指揮を執った。ポールとジョージによるボンゴとティンパニの連打。重量感あふれる迫力の演奏には驚かされる。

ジョンは自分が人とは全く違う感性をもった人間である事に幼時から気づいており、苦しんでいた。人に見えないものが見える少年だったのである。鏡を一心に見つめている時、自分とは全く違う顔が現れた。それが自分の本当の顔だと気づいた時から、彼の本当の人生が始まったのだと言う。歌われているのはその事である。ジョージ・マーティンが非常に優れた曲だと褒めていた事を覚えている。

A Day in the Life

この曲が世に出てもう50年以上が経つのである。

初めて聴いたのは、高校に入学したばかりの１９７７年４月の終り頃。進学校のＦ高校に合格してしまったことで、親が喜んで、入学祝に本格的なコンポーネント・ステレオを買ってくれた。物凄く大きな音がするので、びっくりした覚えがある。

この曲、基本の歌をジョンが書き中間部分をポールが作詞作曲した。名車ロータス・エランを110マイルで暴走させ、信号待ちの車の列に突っ込んだ、ギネス家の嫡男の青年のことが最初に歌われる。意味するものは現代が孕んでいる狂気である。低くチューニングされティンパニのように聞こえるリンゴのタムの音。ジョンのリード・ヴォーカルは深いエコーがかけられ、あまりに幻想的で美しい。そしてこの世の終りのような、音楽理論すら無視した戦慄的なオーケストラの音が迫ってくる。私は度肝を抜かれた。衝撃だった。これこそがまさにロックなのだ。伝統の破壊と再構築。常識や既成概念を根こそぎ塗り替えたような音楽。あの大プロデューサー、ジョージ・マーティンがよくこんな型破りな音作りを許したと思う。あまりに幻惑的で悪夢のような演奏と陶酔的な詞は、発表後間もなくＢＢＣで放送禁止になる素因となった。ジョンの歌が終りポールの歌になると、一旦は現実に引き戻されるが、続くジョージ・マーティンのアイディアによるスキャットとオーケストラの間奏はこの上もなくドラマティック。

ジョン・レノンによる、袋小路に迷い込むような不思議な詞が最後に歌われると、やがて目くるめく最高潮の盛り上がりを見せる狂気のオーケストラ。それが突然終り、幾台ものピアノによるＥの和音が一斉に大音量で叩かれ、それが長い大鐘の余韻のように静まってゆく圧巻のエンディング。

私は呆然としたまま、窓辺に雲を見ていた。

Hey Jude

全世界的規模で彼らの最も売れたシングル。７分を超す長い曲だが、大半は延々と続くコーラスのリフレインである。ポールの単独作で、契約上ジョンとの共作だが、実際にはジョンは全く関わっていない。68年７月作曲。

この曲を分析してみると、色々面白い事が分かる。極端なほど意識的な演奏、録音である。それはまずピアノで分かる。かなり低い音なのだ。途中から入ってくるドラムスも同様で、スネアドラムも非常に低くチューニングされており、並のタムより低い。タムはというと更に低く、フロアタムなど殆どバスドラムの音質である。これらは質感重視の発想で、音に重量感を与え、歌の説得力を高めようとしたのだと思われる。また皮にタオルを掛けて叩いたという話も聞いている。ジョージ・マーティンは40人編成のオーケストラの指揮を執ったが、編曲にはもはや口を挟まなかった。以上の様々なアイディアは、作曲者ポールによるものであり、彼の編曲家としての天才的素養を如実に表わしていると言える。

詞についていえば、傷ついた少年を励ます内容である。ジョンの息子ジュリアンに捧げられている。ガールフレンドへのアタック法を伝授するといった内容である。暗にジョンとジュリアンの父子関係にも言及しているようでもある。両親の愛を知らないジョンはこの時代、妻とこどもの愛し方を知らない人間であった。これはメンバーだけでなく彼に親しい者なら誰でも知っていた。家庭的なポールはその事が気になって仕方なかったのであろう。ジュリアンを愛してやれよ、ジョン。優しい言葉をかけてやれよ。遠回しに言っているのはその事ではないだろうか。

ジョンとポールの才能の決定的な違いは、ジョンには自作他作の別なく作品の本質を見抜く眼があり、ポールにはそれがないという事である。だからポールはこの曲が類まれなる傑作である事を見抜けなかった。駄作と思い込んでいたのである。一方、ジョンは当初からこれを傑作と認めており、その為シングルＢ面の予定だったこの曲にＡ面を譲った。滅多に人の作品を褒めないジョンがポールの最高傑作と絶賛している。

Dear Prudence/The Beatles

68年作。色んな意味で衝撃的だったアルバム「ザ・ビートルズ（通称ホワイト・アルバム）」収録曲。解散後のインタビューでジョンの曲である事が明らかになっている。インドで作曲。ギターの多重録音が印象に残るが、特筆ものはポールの活躍ぶりである。ドラムを叩いているのも実はポール。リンゴはポールとの音楽上の軋轢から、レコーディングの一時期バンドを脱退していた事が後に露見した。ベースの非常に凝っている曲である。このかっちりまとまったベースラインは、ポールがベーシストとしてただならぬ才能を持っている事の表れである。ヴォーカル・ハーモニー等にサイケデリックの要素が感じられる。

プルーデンスとは女優ミア・ファローの妹の名。ビートルズがインドへ渡っていたこの時期、姉のミアと共にインド各地を放浪していた。途上四人に逢い、宗教家マハリシ・マヘシ・ヨギの教えを受ける事になるが、瞑想しすぎて精神状態がおかしくなり、小屋から出られなくなったと言う。ジョンが言うには精神科に入院してもおかしくない状態だったと言うから、宥めるのに骨が折れたと見える。説得にあたったのはジョンとジョージ。

録音は８月末。プロデュースに恐らくジョージ・マーティンは携わっていない。当時彼はバカンスに出ていて不在だったからだ。ポールが代わって陣頭指揮を執った。だが彼のワンマンぶりは目に余り、メンバーの反感を買う事になる。次第にレコーディングは、以前のような楽しく刺激的な仕事ではなくなりつつあった。されど天下のビートルズなのだ。恥ずかしい作品は出せない。プロ意識の高い彼らの事である。精神的重圧は尋常ではなかったろう。隠れて薬物をやり、トリップした状態で、あたかも綱渡りのように辛うじて録音作業が進んでいった。そうでもしなければまともに仕事の出来る状況下になかったのだ。

Revolution 9/The Beatles

1968年作。「ザ・ビートルズ（ホワイト・アルバム）」に収録。ジョンとヨーコ・オノによるミュージック・コンクレート（自然音・機械音・人声などを変形合成した音楽）。

「ナンバー９、ナンバー９」の連呼から曲は始まる。ハーモニウムの音。オーケストラの音。アコーディオンの音。人の喋り声。複数のヴァイオリン。シンバル。女の笑い声。赤ん坊の喃語。男の叫び声。女声合唱。呟き声。クラクションのような楽器音。公園のようなざわつき。狂人のふざけた声。大歓声。それらが絡み合い、入り乱れる。ジョンの笑い声。そして奇声。レコードの回転音。シュプレヒコール。マシンガンの銃声。合唱。再びナンバー９の連呼。マーチングバンドの演奏。ヨーコの呟き。ジョンの声。奇怪なカンツォーネのような歌。再びシュプレヒコール。それがフェイドアウトして曲は終る。

いつの頃からか、私にはこの曲がたまらなく惹かれる一曲になった。理由は簡単である。これらの音はみな「どこかで聞いた音の集合体」であるからだ。脳髄に直接聞こえるような音の数々。人生の折々に聞いた日常的な音。非日常的な音。不思議な音。声。これらは現代の縮図そのものであり、現代の狂気、あるいは安らぎ、矛盾、不条理、いろんなものを孕んでいる。この曲を「意味がわからない音の塊」と思っている人は、物事を、先入観をもってしか見られない、気の毒な人だと思う。

ジョン・レノンとヨーコ・オノはこけおどしでこんな音楽を作ったのではない。40年の歳月を経てだんだんそれがわかってきた。この音楽をあまりに狂気じみていると、人は言う。けれども狂気というものはあらゆる芸術の中に存在する。狂気を孕んでいない芸術は退屈で陳腐なものでしかないと私は思う。総ての音楽、芸術は感性の赴くままに作るものだ。だから、心を真っ白にして聴けばいい。

Come Together

アルバム「アビイ・ロード」冒頭の一曲。ジョンの作詞作曲。カリフォルニア州知事選挙でロナルド・レーガンに対抗し、出馬予定だったティモシー・リアリーに依頼され作曲。69年７月自動車の自損事故の怪我の直後に書き、怪我が癒えたその月のうちに録音が行われた。

曲の冒頭。〝Shoot!〟と聞こえるが、実際には〝Shoot me!〟とジョンは囁いている。彼が11年後に射殺されることを考えるとドキッとせずにはいられないイントロである。曲についてひと言で言えば、非常に黒っぽく、ファンキーでセンスのいい曲である。ギターを弾いているのはジョンとジョージ。エレクトリック・ピアノはポール。興味深いのはギターとエレピの音色である。通常こういうロック・ナンバーは、ギターの音を濁らせ、エレピの音を澄ます。ところがこの曲では、ギターはクリアな音を出しており、エレピは濁ったダーティでブルーズっぽい音を出している。編曲はジョンによるものだが、こういう黒人的な感覚は彼のもっとも好むところだったようで、ビートルズ時代ではいちばん好きな曲だと言い切っている。

「アビイ・ロード」について言えば、ジョージ・マーティンはもはや名前だけのプロデューサーに過ぎず、Ａ面をジョン、Ｂ面をポールがリーダーシップを執って実質的にプロデュースを行っている。四人全員が揃って録音を行った日は一日もなく、その時いるメンバーの独断で、レコーディングが進行した。バンドは正常に機能していなかった、と言っていい。多くの人に愛されている作だが、ジョンはこのアルバムには心がないと言い、特にＢ面はつまらぬ曲を寄せ集め、それらしく見せているだけだとひどく嫌っていた。

0 0