八丈島に暮らすシングルマザーの母と、娘の物語である。この母持丸かおり（篠原涼子）は、双葉という自分の次女（芳根京子）が冷たい態度をとるのに業を煮やし、娘が高校入学した日から、強烈なキャラ弁当を娘に作りはじめる。
このキャラ弁作り。最初は嫌がらせのつもりだったようだが、だんだん弁当に愛情がこもりはじめ、それだけでなく母子間の意思伝達もスムースになってくる。その一因は娘の態度だ。こんな母親に負けまいと弁当を完食する。こういうところは「この親にしてこの娘あり」と思える。この物語のさわやかで気持ちのいいところは、案外こんなところから生まれているのかもしれない。それにわざとらしさがない。実に後味がいいのはそのためだ。
こんなお弁当、現実に作れるんだろうかと思ってしまうが、原作は実在したブログらしいので、このブログを書いた母親は、ほんとうにこんなキャラ弁を作ったのだ。
この人間味あふれる母親を演ずる篠原涼子。ハートフルな演技で映画をヒューマンな快作にした立役者だろう。それと忘れてはいけないのは双葉を演ずる芳根京子。いままでの芳根が演じたことのない、クールな、しかも繊細でピュアな反抗期の女子高生を、自然に無理なく演じている。ことにいいのはこの娘の実在性がありありと感じられるところだ。
監督・脚本：塚本連平。このひとはきっとユーモリストなのだろう。けれども大切なことを観客に伝えているのも確かだ。それはお弁当、ひいては料理というものは心を込めれば込めるほど、相手に伝わるものであること。僕自身痛感しているのだが、おいしい料理にはみな心がこもっている。そう言う料理は例外なくやさしい味がする。
いい映画である。何よりいいのは、「変な気負い」がかけらもないところだ。映画界の現実をみていて残念なのは、こけおどかしで傑作ぶった駄作を世に出し、せっかくの映画に費やされた資本を、無に帰させている、そういう映画作家の多いこと。そういう嘆かわしい現実をたびたび目の当たりにしているだけに、こういう気取らない映画作家に出逢うとうれしくなってくる。
この母親。こんな親だが、いいところがある。それはがみがみ口うるさいものの、必要以上に娘の世界に立ち入らないこと。�狷眄�干渉�瓩鬚靴覆ぁＬ爾寮こΔ鯊砂鼎靴討い襪掘⊆�立心を育てることに協力的であること。いつまでも保護者であろうとその座にあぐらをかき、こどもをペットのようにしてしまう、世の中にはそんな母親が多い中で、彼女は娘の自立を望んでいる。だから娘が就職を諦め、いっしょにレストランをやろうと持ちかけると、その日和見（ひよりみ）的な姿勢を叱り飛ばす。この親はとっくに子離れできている。この娘も親離れができている。こういう一面を、無理なくさりげなく描いているところに、この映画の得がたい価値がある。
クライマックスもいい。脳梗塞の身をおして病院を抜け出し、最後の渾身の�猯郎遶瓩魴�命に作る。いい親はこどものために命だって投げ出せる。世に身体をこわすほど働く親がいるのは、誰のためでもない。こどもが何不自由ない暮らしができるようにするためなのだ。いい親と言うのは、こどものために命だって投げ出せるのである。
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