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2020年01月20日10:33

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チャンネルはそのまま!(まとめ第三部)

☆テレビの逆襲がはじまった。雪丸に案内されまず小倉部長が商品を調査。よければ順番に放送電波に乗せる。食いしん坊雪丸のメガネにかなった商品ばかりだから、内実ひぐまより中身の濃い放送になるはずだ(実際視聴率もここを境にうなぎのぼりに上昇していったことを、まだ☆テレビ局員もひぐまも知らない)。メインは板屋の「こもかぶり」。蜜にじっくりと浸けた大つぶの栗を菓子の衣でつつんだ、グルメなら見逃せない逸品。ここをラストに据えてあとは随時紹介してゆこう。山根は雪丸の味覚を信用していないようだが、小倉部長は雪丸の才覚を100パーセント信頼している。絶対面白い放送になる。その確信があるのだろう。力強い足取りで先導の雪丸のあとをついてゆく。まずは「栗むし羊羹」。雪丸は目ざとい。この羊羹。羊羹より栗の方が容積のほとんどを占めている。まさに名物の犒を味わうための羊羹瓠つぎは甘エビの押し寿司。プリップリの甘エビのシズル感の絶品ぶりを心ゆくまで味わってもらおうというのだ。そしてお寿司でお口がみずみずしくなったあとでいただくのが、銘菓中田屋の「うぐいす」。このお菓子。中にうぐいす豆がびっしり。この上品な甘さを味わってもらいましょう(しかし、先へ行けば行くほど、雪丸と小倉部長の息はまさにピッタリ。一心同体と言ってもいいくらいの以心伝心ぶりである)。と、ここでトラブル発生。ラストに紹介するはずだった、板屋の「こもかぶり」に完売御礼の札が下がっている。ひぐまの鬼の鹿取が手をまわしたのだ。くそう。おのれ!ひ・ぐ・ま・めーっ!許さない! そうつぶやくと雪丸は、ひぐまのディレクターに向かって拳を上げ突進していった。雪丸!暴力はいかん! 山根も服部も止めたが雪丸はとまらない。突っ込んでいった、と、思うや否や、急に方向がそれた。あれ? 雪丸は自分のとっておきを山根たちの前に持ってきたのだ。おい!これ!「こもかぶり」じゃないかっ!どうしたんだ? はい!店のお手伝いをしてさっきもらったんです。うちに帰って食べようと思ってたんですけど。止むを得ません。ただ、店の人が「これは食べてもいいんですけど、失敗作なので映されるのは困ります」。ここで山根が決断を迫られた。どうする? すみません。これ試食用に切ってもらえますか? CM明けの時間になった。そのとき驚くべき光景がTV画面に映っていた。雪丸のもらった「こもかぶり」を試食用に切られたものに、黒山の人だかりができていたのだ。これは映像として宣伝効果抜群。食いしん坊雪丸と食いしん坊小倉部長が手を伸ばし、絶叫する声も放送電波で流れてしまったが、この「放送事故」も却って宣伝効果を倍増させる手助けになったようだ。ここ。瞬間視聴率が北海道内でぶっちぎりのトップを記録。その頃、ひぐまテレビでは鬼の鹿取が「やられた!」と言わんばかりに歯ぎしりをしていた。☆テレビめーっ! ひぐまのリサーチでは、視聴率だけでなく、「キラキラ情報局」で紹介した商品の方が、売り上げが格段に伸びているという恐るべき結果となった。この数字に鬼の鹿取は戦慄したのだ。☆テレビもひぐまテレビも民放である以上、スポンサーからの資本収入で経営が成り立っている。視聴率で負けても☆テレビがスポンサーから潤沢な資金を取れれば、経営は順風満帆。何の不安要素もない。これはひぐまの敗北という外ないことになる。ただ一点、ひぐまに有利な要素があるとすれば、☆テレビ役員がこの狄字瓩傍い鼎い討い覆づ澄城ヶ崎編成局長の高飛車もそれゆえ成立しているのだ。そうでなければもう彼は枕を高くして眠ることも出来ないはずである。前にひぐまの鬼の鹿取が戦慄したのは、視聴率ではなく、「番組の反響率」だった。☆テレビの番組は視聴者への影響力でひぐまより勝っている。スポンサーにとってどっちがいいか。それは言わずとも明らかなことだ。
結果が出た。城ヶ崎は勝ち誇った態度でこの表を見せた。この視聴率表。平均では8パーセントに届かない結果だったが、これを見た社長が分単位の視聴率10・8パーセントに気づかぬはずはない。これは社長の判断にゆだねられているが。
数日後スタジオに全社員が集められ、社長が壇上にあがった。大切なお知らせがあります。16時から帯で放送中の「キラキラ情報局」を11月末日で終了いたします。加えて17時より放送中の「ニュースライドON」も終了となります。それを聞いてチョーさんが暴れだした。待ってください。報道は数字に問題なかったはずです。何で終わらせるんですか? それに対して、「話を最後までお聞きください」と社長。この2番組の終了に伴って、夕方に情報番組とニュースを合体させた、大型新番組をスタートさせます。それを聞いて城ヶ崎編成局長の顔からさーっと血の気が引いた。それは話が違う。それにリスクが大きすぎます。対して社長は「先日のラーメン特集は見応えがあった。全社一丸になって取り組んだ番組はこれほどにも、視聴者の心をつかむのだと言うことがよくわかった。この延長線上で番組作りができないか。私はそう考えたのです。編成局長は黙りなさい。決定権は私にあります」。社長の大英断。場内から歓声と拍手が巻き起こった。
大型新番組のスタッフが発表された。いちばんの長は小倉情報部長。山根や雪丸の名もあった。ミーティングの席上。山根の隣になぜか雪丸が例の変てこな顔をして坐っている。なんでこいつがいるんだ。局の命運をかけた番組だぞ。要らないだろ普通! 小倉部長が来た。新番組、ざっくり説明すればこうだ。え?なになに?タイトル「夕方ビッグバン」。と、放送枠に書き込んである。って、名前が決まっただけですか。そうだ。えええええ? でも情報と報道が合体したら、視聴率も合体ですね!と雪丸。6・2パーセント(情報)+7・1パーセント(報道)=13・3パーセント!スゲェ!って、雪丸。そういう頭の悪い計算するな。視聴率は足し算にはならないから! そうですかあああ? それにしても決まっているのは番組名と放送枠だけ。おまけに予算もろくに出ない。これでどうせいって言うんだ?思わず山根は頭を抱え、肘をテーブルに叩きつけた。あ、いまの。痛かったよね。痛いの痛いの飛んでけ! どう?痛いのとれた? このバカが加わって、ほんとうに視聴率のとれる番組なんて作れるのか?
その頃、ひぐまの鬼の鹿取はこの新番組対策をすでに打ち出していた。☆テレビより一週間早く、大型情報・報道番組をスタートさせる。その名も「絶対一番ワイド」。始まるのも15分早い。☆テレビつぶし作戦はまだ継続中なのだ。☆テレビの前途は多難だが、ぼくが思うに、雪丸と小倉部長がタッグを組めば多少の強力なライヴァルの出現があっても、たとえ荒波にもまれても、乗り越えられるはずだ。
その頃、どこに行ってしまったのか、スプラウトまいんどの蒲原代表は、真っ暗な部屋でスマホの画面を見つめていた。電話をかける表示になっていて、そこにある名前は雪丸花子。蒲原さんは雪丸に助けを求めているのだ。果たして蒲原代表はほんとうに悪事を働いていたんだろうか。事件の真相も全貌も藪の中だけに、ぼくはまだ蒲原さんがそんなことするはずがないという気持ちを捨てることができない。彼はひぐまテレビにはめられたんじゃないのだろうか。そんな可能性もあると思うのだ。ひぐまテレビは視聴率のためなら犯罪だってやりかねない放送局だからだ。

第五話。
「夕方ビッグバン」放送初日。雪丸花子はスタジオでADをやっていた。5、4、3、2、1、0!(普通0までやるか?それに指が違っている!)ああっ「0!」の声まで放送のマイクに入ってしまった!いきなりのっけから放送事故! 放送中完全に舞い上がってしまっている雪丸。山根が「落ち着け!」とシグナルを出せば雪丸は「りょかい!(笑)」と応える。翌日。初回視聴率が出た。7・1パーセント。ひぐまに惨敗の数字。これじゃ「キラキラ情報局」と数字的に代わり映えしない。小倉部長が言う。数字はとりあえず気にするな。どんどん新しい企画を出して番組を活性化させろ。いきいきした面白い番組を作っていれば、視聴率は自ずからついてくる。次の企画はこれだ。ヴァイオリンの生演奏?鳴沢真弓。演出は誰がやる? はい!私やります!と雪丸。小中学校のころリコーダーやっていました。おまえリコーダーで威張るな。
山根が蒲原さんの新聞記事を読んでいると、雪丸が寄ってきた。演出、こういうのはどうかな?とスマホの映像を見せた。映っていたのはももクロのステージだ(バカだこいつ。家庭向けの番組にこんなのできるか!第一そんな演出やる金どこにある?)。雪丸のスマホに着信音(なぜか羊?山羊?の鳴き声?)蒲原さんだ。だが途中で声がして切れてしまった。吉田さんの声?吉田さんの畑のようだ(雪丸は耳がいい。声で人を識別できるのだ)。吉田さんは蒲原さんが土壌改良の作業をして、面倒をみてやっていた農家のひと。山根がゆくと畑から女装した人影が逃げてゆく。蒲原さん!逃げないで! 摑まえる山根。どうして姿を消したんですか。だってマスコミが追いまわしてきて、訊かれたくもないこと聞いてくるじゃないですか。山根さんは御存じのはず、ぼくがどんだけ農家のために尽力したか。僕は褒められこそすれ、非難される覚えなどないんですよ。そうおっしゃるなら蒲原さん。もう一度インタビュー受けてもらえませんか。
報道部ニュースセンターのデスクは驚いていた。奴の情報はトップシークレット。長田ですら突き止められなかった。雪丸に連絡が来たんです。それはほんとうか? 信じられん。
そのころ、雪丸はスタジオのカメラとカット割りの打ち合わせ。だが、インストゥルメンタル、器楽のみの演奏なので楽譜の読めない雪丸は、思っているカメラワークを上手く伝達できない。頭の中ではその構図は出来上がっているのだが。そこで雪丸は、ここで2カメ。そして1カメ。顔にパン! おまえ覚えてるの?どこをどう覚えてるの? そこで雪丸は譜面を見せた。なるほど(何が「なるほど」かは、のちほど)。
潜伏先で山根による蒲原のインタビュー。山根らしくいきなり核心を突く質問をしてきた。助成金は3年間で、あわせて5億円。山根は彼の腕時計や車のことを聞いてきた。答えられません。なんでそんなこと訊くんですか。ぼくを疑っているんですか。結局肝心なことは何一つ聞けなかった。外へ出ると、道警の覆面パトカーが去ってゆくのが見えた。逮捕が近い。チョーさんに連絡。
チョーさんは道警捜査二課長、橋口さんに訊き込み。橋口さんはいきなりハミングをはじめた。♪Tomorrow♪ 明日か? 明日か! そうか!
また雪丸が山根に寄ってきた。いよいよ明日だね!(雪丸の顔は真剣そのもの) ギク。こいつ何か知っているのか。明日だね。ヴァイオリンの生演奏。ああ。明日は運命の日だ。蒲原さんにとっても、☆テレビにとっても、社の命運をかけた一大事件が決着する。ヴァイオリンどころの騒ぎではない。
運命の一日が明けた。午後1時30分。山根は巨匠と助手を連れて、蒲原の潜伏先へ向かう。デスクから電話。やられた。ひぐまに潜伏先をすっぱ抜かれた。地団駄を踏むチョーさん。だが報道部ニュースセンターには山根のインタビュー映像が待機している。いざとなったらそれを流せばいい(しかし、内容的には弱い。視聴率とれるかどうかは玉虫色)。到着するともうそこはマスコミ関係者が犇めいていた。全国ネットのプラネットTVまで駆けつけてきている。蒲原から山根に電話。あなた何ですか。知っていたからインタビューしたんですか?ひどいじゃないですか。電話はそこで切れた。
☆テレビのスタジオ。生演奏のリハーサルが終った。鳴沢さんは浮かない顔。ステージと違って、テレビ関係者って演奏のリアクションがいまいち。これじゃあ演奏にも身が入らないとこぼす。控室の花枝に雪丸からメール。「夕方ビッグバン」。必ず見てください! って私、当番組MCなんですけど。相変わらず雪丸は抜けている。雪丸は同様のメールを蒲原にも送った。初演出がよほどうれしいのだろう。「夕方ビッグバン」が始まった。5時15分。まもなく生演奏のコーナー。だがここで蒲原逮捕の報道になれば、生演奏の放送はつぶれる。非情なようだが、放送局というのは、そういうところだ。生演奏のコーナーが始まった。ADを務める雪丸。生演奏はCMのあと。立ち位置を鳴沢に教えた。段取り大丈夫かとディレクターに聞かれるが、バッチリですよ!まかせてください! CM明けます。演奏が始まった。ピアノとヴァイオリンによる鳴沢の自作曲「街の灯(あかり)」。流麗な曲だが、どこかから歌声。気づくと雪丸が歌っている。こいつ、曲に歌詞をつけたのか。何だこの歌詞は。よく聞くとこの☆テレビのことであり、もっとよく聞くと雪丸花子の応援歌にもなっていた。雪丸だけでなく、カメラマンまで歌っている。そうか。カット割りの打ち合わせが円滑に進んだのは、この歌のせいか。どうやら道内に歌まで流れてしまっている。ふつうなら放送中止だが、視聴者もうっとり聴き入っている。雪丸の家族も仕事の手を休め、聴き入っていた。鳴沢さんも関係者の熱い視線に気づいたのだろう。演奏に熱がこもってきた(それにしても芳根京子の歌はすばらしい。ちょっとぐらい音を外しても、それが猝瓩砲覆襪里髻彼女は感覚でわかっているのだ。それが感動を呼ぶことをちゃんとわかっているのだろう。まったく物怖じしないその演技に胸を打たれる)。演奏が終わった。ブラボー!思わず小倉部長から声が飛んだ。拍手につつまれるスタジオ。
おそらくこの放送が、蒲原さんに勇気をもたせたのだろう。午後5時40分。雪丸に蒲原からメールが来た。「雪丸さん。あなたにだけ聞いてほしい話があります」。午後7時20分。1台のタクシーが蒲原の潜伏先に来た。雪丸だった。今どういう状況? ああ、まもなく逮捕される。え? 逮捕、ですか。おまえ、知らないで来たのか? うん、蒲原さんに呼ばれて。ひぐまの女性記者が驚いて訊いた。あなた蒲原のアポとったの? はい。山根くん。私、行ってくるね。カメラ助手が声をかけた。雪丸、IP機材(簡易中継ができる放送機材)だ。持って行け。はい。木戸を開け中へ入ろうとする雪丸に、プラネットTVの記者が声をかけた。私も入らせてもらいますよ。こういう報道は全国ネットが仕切るもんでしょう? 待ってくださいと山根。そんなことしたら雪丸も入れなくなりますよ。全国ネットかも知れませんが控えてくださいと、制した。その通りだ。巨匠が「行け。カメラは廻ってる」と、彼女を促した。決意の雪丸は「行ってきます」と笑顔で応え、単身、木戸を開け、中へ入っていった。その様子が☆テレビ報道部ニュースセンターのモニターに流れる。中の様子が雪丸のカメラで映されるが、構図がめちゃくちゃ。肝心の蒲原の顔が半分しか映っていない。構図を直させるべくデスクが電話をかけるが、つながらない。雪丸はRECランプの点いたカメラを畳の上に置き、持ってきた包みをあけた。そこには何とおにぎり。番組で扱った北海道のお米。それの余りを炊いてもってきたのだ。お腹すいてるでしょう。食べてください。お茶淹れますね。核心に触れない雪丸。おい、事件について訊け!雪丸! そこへ小倉部長がきた。この映像。生だよな。はい。何で中継しないの? こんな凄いニュースソース、滅多に見られないでしょう。スクープもスクープ。マスターカットものでしょう。小倉部長は報道部ニュースセンターで、20時から視聴率がとれるプラネットTV放送の、「相方」があるとごねる編成局長を説得。これに新人たちの声も加わり、さらに小倉部長が言った。「今、TVの前にいる人に、一番観たいものを放送する。それが放送局の使命でしょ?」。局長はようやく折れた。☆テレビはこの映像を生中継(マスターカット)に変えた(ドラマの第一話冒頭のマスターカットの場面は、これの伏線だったのだと判る仕掛けである)。だが雪丸が振っている話題はご飯の話だ。それから北海道のお米の食べくらべ。依然として核心にふれない。ひぐまの鬼の鹿取が観ている。何だこりゃ。だがこの「何だこりゃ」の映像がいまぶっちぎりの高視聴率を記録していることは間違いない。道内の人間はみな固唾(かたず)を飲んで、これを見守っている。放送事故ものの映像に局長が激怒。いったんスタジオに戻せ。スタジオではアナウンサー花枝まきが「いま☆テレビの記者がインタビューの準備をしているところです」とフォロー。花枝の機転でかろうじて、場はつながった。
蒲原は言った。自分の脳裏に今までのことが走馬灯のように駈けめぐっていたと。生まれた家のこと。父のこと。そのとき雪丸は窓の外で何かが動いていることに気づいた。山根が機転を利かせて、肝心なことを紙に大きく書いて見せていたのだ。それでこそ爛丱係瓩澄「マスターカット!生中継」。
雪丸の目の色が変わった。緊張感みなぎる雪丸の顔のアップ。雪丸は小さくうなずくと、蒲原に向き直った。カメラの位置を変え、蒲原がちゃんと映るようにした。どうして蒲原さんは私を呼んだんですか? あなたにだったらほんとうのところを話せると思ったんです。だってあなたは嘘がないひとだから。助成金を(私的目的に)使ってしまったのはほんとうですか? うなずく蒲原。5億のうち、1億ほど。3年前、スプラウトまいんどを立ち上げた時、ぼくは資金繰りに苦しんでいました。何をするにも金がない。それが2年目に入って、国が多額の助成金をくれたんです。3億というまとまった金です。貧しい生まれで、こんな巨額の金見たことがなかった。どう使えばいいか迷いました。それで実家の祖父にトラクターを買ってやった。ちょっとぐらいならいいんじゃないかと思ったんです。後で返せば問題にならないと思って。国の監査の目も行き届いていなかったことがそれに拍車をかけました。自分が長者になったような気分。気が大きくなってしまったんですね。悪いことをしている意識はあったんですか? 雪丸さんは農業に楽しい思い出があるとおっしゃった。ぼくにはないんです。そんなもの。父はぼくに命令するだけで、優しい言葉のひとつもない。偉そうにしているが、傍から見れば要領の悪い、みっともない親父でした。我が家は働いても、働いても、貧しさから抜け出せない。そんな家。ほんとうのぼくは農業が大っ嫌いなんだ。嫌いだからこそ、ぼくは勉強してNPO法人を起こし、少しでも農業をよくしようと頑張ってきた。農業を嫌いなひとも好きになれる農業。それがぼくの目標でした。ぼくのやり方が正しかったから、国の助成金が下りたんだ。でなきゃ国だってそんな5億もの助成金をぼくにくれたりするもんですか。ぼくは正しいことをしたんです。間違ってなんかいない! 国は金を振り込むだけで、直接何をしようともしない。ぼくのやっていることは本来、国がやるべきことだ。だからそれに見合った報酬をもらったっていいじゃないですか。いいですか。これだけいいことをして、ぼくの報酬はゼロ。誰もお給金をくれない。それがこのNPOの現実ですよ。どうやって生きてゆけばいいんですか。巨大なトラクターだって買いますし、時計だって車だって買いますよ。いいじゃないですか。ぼくへの見返りがあったって。それを何ですか!手のひらを返したようにぼくを極悪人呼ばわりして、皆さん勝手ですよ。何もいいことしてないくせに、外野で言いたい放題。少しはひとのために働いたらどうですか? ぼくは北海道の農家の笑顔を守るために、血のにじむような努力をしてきた。ヒーローだって言ったじゃないですか。ぼくは北海道の英雄だ。褒められこそすれ非難される覚えなどない!何で逮捕なんですか。え? ぼくはどうすればいいですか。もうわからないんです(この一連の長台詞。大変だったと思うが、ここは大泉洋の熱演を讃えないわけには行かない)。蒲原さん。お茶淹れますね。飲んでください。北海道の農家の方たちは、あなたの謝罪を待っています。罪は償えばいいんです。罪を認め、謝りましょう。みんなあなたの功績を認めている農家ばかりです。きっと許してくれるはずです。みんな蒲原さんが農地に帰ってきてくれるのを待っているんです。蒲原代表の目から大粒の涙がぽろぽろと流れおちた。ごめんなさい。申し訳ありません。ごめんなさい。慟哭の蒲原。感動的な光景であった。そこへ警察の覆面パトカーが到着した。中へ踏み込む捜査員たち。北海道警察です。逮捕状を提示する捜査員。これから行政処分を行うから、マスコミ関係者は外へ出てください。カメラOFF。ここで蒲原代表からひと言があった。雪丸さん、ありがとうございました。IP機材をまた背負って外へ出る雪丸。マスコミ関係者はそんな雪丸を、感動のまなざしで迎えた。良い仕事をしたな、雪丸。みんなの目がそう言っていた。いつもは怖い巨匠がいつになくやさしい目をしていることからも、それが十分雪丸に伝わった。リポートを始めるから邪魔しないように。山根はやさしい表情でそう言った。陶然としている雪丸。まだ先ほどの余韻の中にいるようだ。感動的な夜であった。
数ヶ月後。感謝状を誇らしげに見せる局長。雪丸の生中継がもたらした賜物(たまもの)だ。きょうも夕方ビッグバンの放送があった。打ち切りにはならなかったのだ。視聴率も高く安定してきたのだろう。みんなの顔も明るい。農場の羊を放送中に見せなければならないのだが、放送が始まっているのに、手間取ってなかなか見えてこない。おい!雪丸!聞こえてるのか返事しろ! 慌てた表情の山根。花枝まきが現場で羊の登場を待っている。と、そこへ雪丸が悲鳴を上げんばかりに、丘の向こうからこっちへ駆けてくる。うしろから羊の大群が押し寄せてきた。これだけでスタジオ内は大爆笑の渦である。エンディングはTV画面にぽーっと立っている雪丸の放心した顔。何にも変わっていない。またも放送事故のような映像が展開されている。視聴率急上昇の追い風が、雪丸と☆テレビに吹いている。(完)。
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