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2018年12月11日22:10

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名作映画の「トラ!トラ!トラ!」は黒澤明が監督するはずだった

濃い軍事マニア、映画マニアの人なら戦争映画の「トラ!トラ!トラ!」は、当初は日本側の監督は黒澤明になるはずだったことは知ってると思う。

そして、黒澤監督の構想、脚本による日米合作の「トラ、トラ、トラ!」が完成しなかったのが、本当に悔やまれる。黒澤脚本の作品はハリウッドサイドからの提案だが、大日本帝国側のシーンは黒澤が担当して、なるべく黒澤の要求どおりに仕上げる予定だったらしい。

僕のネット友達の人が黒澤脚本の一部を紹介していたが、それによると、真珠湾で日本軍爆撃機の攻撃に遭い、大破炎上する米戦艦の次のカットが、モスクワ直前でソ連軍の反抗に遭い、敗北を喫したドイツ軍のシーンで、猛吹雪の中、破壊されたドイツ軍戦車とドイツ兵の死体が映る予定になっていた。

山本五十六が連合艦隊司令長官に着任するオープニングシーンでは、山本と吉田善吾前司令長官を筆頭に、20人ほどの提督がクレジット(下に出る字幕)付きで紹介され、そのクレジットには「南雲忠一・艦隊派」、「山口多聞・航空派」というふうに、誰が艦隊決戦派で誰が航空決戦派であるかを明確に示す予定だったという。そして、誰がドイツとの軍事同盟に賛成していて誰が軍事同盟に反対していたかも、明確に描写する予定だったという。

さらに、日独伊軍事同盟締結から真珠湾攻撃までを、日米政府間の交渉だけでなくドイツ政府とドイツ軍の快進撃にまでスポットを当てて描き、上映時間4時間近くという、ローマ帝国の興亡を描いた「クレオパトラ」と同じほどの長さの映画になる予定だった。公開されている「トラ、トラ、トラ!」が140分の長さだから、それよりも100分ほど長いことになる。まさに、歴史、軍事マニアにとっては“神映画”になるハズだった。


だが、当然ながらハリウッド側からクレームが付き、
「ただ、単に、真珠湾攻撃とそれに関係あるシーンだけを描いてもらいたいのに、モスクワ直前で敗北したドイツ軍のシーンとか、海軍大学校での机上演習の時に、艦隊派と航空派の提督が大激論をするシーンとか、ドイツとの軍事同盟を巡って日本政府要人が会議をするシーンに20分もかけるとか、余計なシーンが多すぎる。これでは、全世界で大ヒットしてもとても資金が回収できない」
と言われてしまったという。

ところが黒澤は、
「大日本帝国が主義主張の違うナチス・ドイツと軍事同盟を結び、その結果、ドイツ嫌いで開戦に反対していた山本五十六海軍大将が真珠湾奇襲をせざるを得なくなった。しかも政府の致命的な判断ミスで、ドイツ軍がソ連軍に敗北しつつある時に開戦してしまった。なぜ、そのような大失敗が起こり、その結果多くの人が戦死することになったのかを明確に映画の中で説明する必要がある」
と断言し、ハリウッド側とは妥協しない構えだった。

その黒澤の強硬さにハリウッド側は呆れてしまい、撮影開始からたった3週間で、黒澤を降板させてしまった。そして代わりに、舛田利雄と深作欣二を起用して黒澤脚本を大幅にカットして、やっと、撮影は軌道に乗った。

ところがこれには後日談があり、この後、黒澤はノイローゼ状態になり、監督降板から3年後には黒澤は自宅で自殺を図る。
「3年も熱中していた企画を突然打ち切られたら、監督は殺されるのと同じことだ。」
と語った。また、親しい人には、
「私の映画を理解してくれる人が、ハリウッドには誰もいないようだ。『トラ!トラ!トラ!』はドキュメントタッチで歴史の教科書にするハズだったのに、ハリウッドの重役にとっては『トラ!トラ!トラ!』は単にビジネスだった」
と嘆いていたと言われている。


黒澤作品をよく知っている人が言うには、
「『トラ、トラ、トラ!』の降板劇による自殺未遂前の黒澤作品とその後の黒澤作品は、明らかに違っている。極端に言えば、まるで、別人が撮ったぐらいに違っている」
とのことだ。確かに「椿三十郎」(自殺未遂前)と影武者(自殺未遂後)では、かなり違っていると僕も思う。

まあ、黒澤監督が構想したように仕上がった「トラ、トラ、トラ!」を見たいと思うけど、現実的には無理だったのだろう。日独伊軍事同盟締結から、日本政府内部、陸海軍内部での政治家、軍人たちの対立を延々と描き、さらに、ドイツ軍のソ連侵攻までも描き、その上に、真珠湾攻撃まで描くとなると、途方もないお金がかかってしまっただろう。映画は確かに芸術だが、製作費した資金を回収できないのでは、映画会社は潰れてしまうから、ハリウッド側の主張にも一理はある。


ちなみに、日本では「トラ、トラ、トラ!」はかなりヒットしたが、アメリカではあまりヒットしなかったらしい。やはり、アメリカ人は基本的には「アメリカ人は正義の味方」と信じているので、アメリカ側の政治家と軍人がちょっと間抜けに描かれていたのが米国民には不評だったようだ。(苦笑)

ウィキペディアの「トラ!トラ!トラ!」の説明もよく読んでもらいたい。

写真は映画「トラ!トラ!トラ!」制作を巡る黒澤監督とハリウッドの対立を描いた「黒澤明対ハリウッド」という本と、映画「トラ!トラ!トラ!」のポスター。




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