会社でのぼくの業務の1つに、梱包品の回収という作業がある。内職さん(ほぼ会社のOB)が自宅で製品を客先の指定に従って梱包し、ぼくがハイエースで各軒それを回収して回る。その内職さんの家の1つが…とても苦手だ。
その家の隣のお宅に、シェパードっぽい猛犬がいるのだ。庭にいるのだが、 柵 から顔を出して、すごい声でガウガウ吠えるその横を通らなければならない。
たまーに吠えない時もあるが、その時は牙をむき出しにして「だまれ小僧!」(スタジオジブリ制作:97年公開:映画‘もののけ姫,※ 物語中盤アシタカとモロの対峙シーン参照)の時の顔してるので、いつ吠えてくるかハラハラする。
今日はその回収の日。また吠えられるとわかっていながらも、柵から顔を出してる猛犬を刺激しないようソーッと歩く。
ところが今日の猛犬は、吠え立てるどころか、トボけた顔でぼくの口元を一点見つめている。どうしたんだろう。
答えはすぐにわかった。今日は仕事中には滅多に食べないフルーツガムを食べていたのだ。味はなくなりつつあるのだが、さすが犬の嗅覚、きっとぼくが車を降りた時からわかったのだろう。
しかし、同じ犬とは思えない程ごく普通の犬になっている。普段はあんなに人を怖がらせておいて…。今までさんざん吠えられて、肩をすくめたり耳をふさいだりさせられた記憶が蘇ってきた。考え事してふいにやられて荷物を落とした事もある。
復讐心が生まれてくるのに、そう時間はかからなかった。胸ポケに入ってるもう1個のガムを猛犬の目の前で包み紙から出し、つまんで右や左に動かしてみた。
猛犬の顔はつまんだガムを目で追い、手の動きに完全にシンクロしている。指揮者のように動かし、その通りに顔が動く。あの猛犬がこの手の思うがままに操られている!
移民:「はっはっ♪踊れ踊れーぃ!」
そして猛犬が凝視する中、ゆっっくりとガムを口に入れた
移民:「クッチャクッチャ…うはぁー♪うんめー♪見たか!これが人間様の…」
ふと上の方に視線を感じ、慌てて見上げると、猛犬のいる家の奥さんがベランダからこちらを見ている。どうやら一部始終をベランダから 見られていたらしい。
奥さんは
←まさにこの顔で軽く会釈をし、2階の室内に消えていった。犬にいじわるしてるところを真上から見られるなんて、痛恨の極みだ。逃げるようにハイエースにのり、会社に戻った。
今までの分をやり返した気持ち良さは、犬にムキになった恥ずかしさと飼い主に見られた情けなさでかき消され、その後は妙に意識的に大人っぽく振る舞いながら仕事をし、モダンジャズを聴きながら帰宅した。
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