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2020年10月15日16:32

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黒澤明 酔いどれ天使(1948) (国立映画アーカイブ)

 生誕100年、映画俳優 三船敏郎、2本目。

Movie Walker https://movie.walkerplus.com/mv26745/

 戦後まもなく、闇市とゴミ溜めのようになった下水のある街。
この街の雰囲気がいかにも黒澤映画らしい。特に、下水の表面を
波立たせながら、風が吹き抜けるシーン。夜の下水で、一人ギター
を奏でる流しの男。

 この街で、一人、街の人々の医療に携わる開業医、眞田(志村喬)
口は悪い、治療は乱暴、おまけに酒好き。しかし、病を患う人々
や弱い立場にある人々を思う気持ちは人一倍。自嘲的に、病気と
戦う自分こそ「天使」だと言い放つ。

 そんな眞田は、ヤクザの出入りで、鉄砲傷を負った街の顔役松永
(三船敏郎)の手を治療したことから、彼が肺病であることを見抜き、
なんとか助けてやろうとする。

 一方、松永は、最初こそ虚勢を張っていたものの、眞田の助言通り
病院で肺のレントゲン写真を撮り、泥酔して眞田のもとにフィルムを
持ってくる。怖いのだ。松永の肺にはすでに穴が空いていた…

 折しも、松永の兄貴分、岡田が刑務所から出所してきた。この岡田の
元妻は、岡田の暴力に耐えかね、今は眞田の診療所に身を寄せていた。

 松永も最初は、なんとか病と戦おうとしたのだが、義理のある岡田
の出所祝いに付き合ううちに、厳禁されていた酒、女に手を出し、あとは
ズルズルと元の木阿弥に戻ってしまう。そして、博打場で岡田と対決
するうちについに血を吐いて倒れた。

 松永の情婦、奈々江は、肺病病みの松永を見限り、岡田に乗り換える。
岡田は、眞田を脅迫して元妻も探し出そうとするが眞田は頑として応じない。
血を吐いた松永も自分のところへ引き取り、助けてやろうとする眞田。
ともかくも、岡田と対抗するには警察に頼むしかない。眞田が警察に
出向いている間に、松永は、これまで自分を可愛がってくれた親分なら、
頼めばわかってくれると信じて、親分の別宅へ向かう。しかし、そこに
いたのは岡田と奈々江。そして「肺病病みは大事にしてやらなくちゃ
いけねえ。喜んで鉄砲玉になってくれるから。そのあとは、シマは岡田
に任せる」という親分の非情な言葉だった。

 志村喬のわんぱく小僧のような、気骨のある医者もいいが、幽鬼のよう
に病みおとろえる三船の演技が圧巻。

 死の予感に怯え、波打ち際の棺桶から自分の死体が起き上がってくる
夢を見るシーンは、黒澤らしい綿密な構図で思わずゾッとさせられる。

 岡田を襲った松永は返り討ちにあい、命を落とす。その頃、眞田は、
警察署からの帰りに、松永に食べさせようと卵を闇で買い求めていた…

 何もかもが澱みきったようなこの街で、一陣の爽やかな風のような
存在が、やはり肺病を患う女子学生、久我美子。出番は最初と最後だけで
松永をめぐる話には全然絡まないのだが、意思の力で肺病を克服し、
映画のラストで、治癒したレントゲン写真を眞田のもとへ見せに
やってきて「理性があれば肺病だって治る。肺病から卒業したお祝いに
賭けに勝ったんだからあんみつを奢って」と眞田と闇市の方へと消えていく。

 当時は不治の病いに近かった結核。病に負けてしまったものと勝った
者。三船敏郎の弱さ、哀しさが印象に残る傑作の一つであろう。
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